書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

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「校閲ガール」宮木あや子
評価:
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KADOKAWA / 角川書店
コメント:河野悦子の威勢の良さが最高。

●連休中の読書一冊目

・「校閲ガール」宮木あや子/角川文庫

 テンポ良く、大変楽しいお話でした。もっと早く読んでドラマに間に合えば良かった。結構前に kindle でセールやってて購入し、なんかのついでに続刊(と云うか番外編)の「校閲ガール ア・ラ・モード」も購入、最新刊の「校閲ガール トルネード」は当時単行本だった為に買い控えていましたらドラマ併せで原作を読みたくなった父に kindle paperwhite ごと貸した時にポチッとワンクリックによってそれとは知らずに購入されて「あーあー! あたしのクレジット決済千円!」と軽く親子喧嘩をしたりとかそう云う他人にとっては心底どうでもいいエピソードを紹介しつつ、本書の感想に入りますよ。マクラとしては観客の興味を引かないこと甚だしいですな。

 タイトル通り、文芸誌の校閲部所というあまり存在を認識されていないお仕事に就いた女性のお話ですが、この主人公、河野悦子(こうのえつこ)、名前が校閲っぽいと云う理由での配属。しかし彼女は自社のファッション誌「Lassy」にものすごく拘泥しており、Lassy 編集部に入りたいために根性で出版社に合格したにも拘わらずの校閲部配属。毎日、Lassy に異動する日を夢見て仕事をしています。わたし彼女について大変偉いと思いますのは、校閲と云う仕事が本意でなくても、希望の編集部に異動する為には手柄を認められての異動であるべきだと云う考えの基、全力で校閲の仕事を全うしているところ。偉い。

 校閲と云う仕事は文章の間違い、漢字の間違いや統一などを正すだけの仕事ではなく、文中の事実関係の確認、連載小説であれば過去の出来事との整合性などにも注意を払い、明らかな訂正には赤(朱)を入れ、著者に再考を促す場合にはエンピツを入れて編集者に返します。基本的に著者にその存在を認識されない立場。

 でも河野悦子はファッション誌に対する異常な記憶力の良さとたまたまなタイミングなどで著者と交流を持っちゃったり、校閲者として気になることを追っていたら問題ごとを解決しちゃったりと、大変面白いエンターテイメント作品です。ファッションに拘泥している可愛い女の子同士の会話もテンポ良くて楽しい。アフロのモデルとの恋が始まりそうなのも気になる。全収入をファッションにつぎ込んで貧乏暮らしなのも可愛い。ああ明日ドラマの DVD 借りて来よう。

 著者の宮木あや子さんは「女性のための R-18 文学賞」でデビューしておりますが、その読者投票の時にわたしも一票入れています。いや、だからどうだって話ではないのですが、なんか応援している人が著作が増えて売れていってるのって嬉しい。「俺の見る目は間違いなかった!」みたいな。

 てことで近日中に「トルネード」まで読み終わりますので感想がんがん書くよ!

 

JUGEMテーマ:小説全般

| 国内ま行(その他) | 14:53 | comments(0) | trackbacks(0) |
「マイバッグ」ドミニック・ローホー
評価:
ドミニック・ローホー
講談社
コメント:納得。でもバッグにはきっとまだ迷い続ける。

●本日の読書

・「マイバッグ 〜3つのバッグで軽く美しく生きる〜」ドミニック・ローホー 赤松梨恵訳/講談社

 

 鞄探しは永遠のテーマです。わたし、服は割とどうでもいいのですが鞄が好きで、どれだけ持っていても満ち足りず、常に新しい素敵な鞄を求めてデパートやネットショッピングを見回る日々です。一番よく使っているのは吉田カバンのタンカーのショルダーバッグなんですけど、レザーで上品な女性向けのショルダーも欲しいと思ってみたり、出張用には頂き物のヴィトンあるのに A4 の入るレザートートがあったら買おうかどうしようかすぐに迷い出すとか、そんな感じです。病的。でも身の回りにあるモノは増やしたくないから一つ入れたら一つ出す気概で毎日を過ごしているとはいえ、やっぱし可愛い鞄があったら欲しくなる。

 てなところで読みました本書。曰く、常に最高のバッグを求めて失敗を繰り返したり他人の芝が青く見えるのはわたしだけではないことが分かりました。みんなバッグ選び迷うんですよね。

 そんで著者が本書の中で引いている「これだけあれば人生足りる5つのバッグ」とは以下です。

 

【イネス・ド・ラ・フレサンジュ版】

・大きめトートバッグ

・ふた付きの斜めがけバッグ

・ポシェット

・フォーマルバッグ

・籐のバッグ

【みなみ佳菜版】

・革のトートバッグ

・A4 の収まるバッグ

・上品なミッディバッグ

・ポシェットもしくはクラッチバッグ

・コットンのトートバッグ

【ドミニック・ローホー版…3つ】

・大きめトートバッグ

・メインとなるミッディバッグ

・ポシェット

 

 3つまで絞るためには、選ばれたバッグが完璧である必要がありますが、完璧に近付けるための条件としては、素材や縫製の質が高いこと、無駄な装飾やデザインがないこと、とのことです。うん、割と納得出来る説です。

 ということでまたバッグ探しの旅に出るわたしなのですが、素敵なピッグレザーのポシェットを手に入れたので満足しています現時点では

 

JUGEMテーマ:ビジネス書

| 実用書 | 20:57 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ルビンの壺が割れた」宿野かほる
評価:
宿野 かほる
新潮社
コメント:ほほほうなるほどね。

●本日の読書

・「ルビンの壺が割れた」宿野かほる/新潮社

 出版当時に「驚きの結末」と話題になっていたので「驚きの結末って最初っから言われていたら、驚くものも驚かないよなあ」と思って読みましたが、まあまあ驚きました。ほほほう、そう来たか。

 単行本としては薄い方なので手軽に読めました。全編Facebookのメッセージのやりとりで紡がれています。ある男性が二十八年前、結婚の約束をしたにも関わらず挙式当日に式場に現れなかった女性をFacebook上で見つけ、メッセージを送ったことから物語は幕を開けます。小説なので実際のメッセージとしては有り得ないような長文でやり取りはゆっくり続きます。男性は、彼女が何故結婚式をすっぽかしたのかを、思い出話と当時の自分の心境を絡めて問い続けます。

 個人的な好みで言えば双方の持って回ったようなメッセージの文章は建前に塗り固められていてあまり好みではないし、当時の会話や気持ちなんてそこまで覚えていたら気持ち悪いってくらいの詳細ぶりだし、そこはやはり小説だなって感じですが、結末への畳みかけるような持って行き方は「ほほーう」と思いました。意外な結末。

 

JUGEMテーマ:小説全般

| 国内や行(その他) | 13:17 | comments(0) | trackbacks(0) |
「モノが減ると心は潤う 簡単「断捨離」生活」やましたひでこ
評価:
やました ひでこ
大和書房
コメント:著者の持ち歩くものを一覧にした写真は好きです

●少し前の読書

・「モノが減ると心は潤う 簡単「断捨離」生活」やましたひでこ/大和書房

 

 もう片付け本とか断捨離本とかいっぱい読み過ぎて既に「片付け本のプロ」っぽくなっているわたしです。勿論片付けは全然していません。読むだけです。プロでも何でもない。寧ろ自分が駄目人間であることを読書を通して確認してる感じですな。

 最近は片付けの方法を指導する本ではなく、片付けが進んだ家の写真がたくさん載っていたり、片付いた家の一角を撮ったインスタ映えする写真がさらさらと散りばめられた本を読むのが好きです。インテリア雑誌読むのと何ら変わらん読み方ですな。と云うことでこの本もそんな感じで2ページに1枚程度の写真が差し込んであったので読みやすかったです。

 断捨離を広げたやましたひでこさんが一人暮らしをしている家で実際に使っているものものが紹介されており、生活を散らかさないためのポイントが「食」「衣」「寝」「住」「洗」「学」「通」の各章に分けて書かれています。全ての片付け本、断捨離本に共通していますが、基本的には「好きでないもの、使っていないものは手放す」「気に入っているものだけ残した家で暮らす」ことがポイント。

 一つだけ気になったのが、自分が使わなくなったものを著者は人に譲るんですね。まあ需要と供給のバランスがいい内はよいのですが、たまに「使わなくなったら人に貰ってもらえばいい」と云った考えで動いている風に読めるところがあり、そこだけが少し疑問でした。手放すなら手に入れない方がいいんじゃないかなー、と思ったり。

 

JUGEMテーマ:ビジネス書

| 実用書 | 11:01 | comments(0) | trackbacks(0) |
「女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。」ジェーン・スー
評価:
ジェーン・スー
文藝春秋
コメント:あなたはわたしですか(本日5回目)

●本日の読書

・「女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。」ジェーン・スー/文藝春秋

 

 旦那が一言「あなた、ジェーン・スー好きだよね」。ええ好きです、大好きです。ジェーン・スーは冴えない中年女全員の、無条件で絶対的な味方です!

 って北陸の冴えない中年女に同一視されても迷惑でしょうけど、だって年の頃も近いし自意識の過剰さとか、なりたい自分になれてないこととか、そのくせそうなれている女に対する「気にしてないよ」の振りしながら内心歯噛みしているところとか全部わたしだもん。わたしだって可愛いって言われたかったし、茶髪で巻き髪にしてピンクのスーツ着てOLやってみたかったし、「何も特別なことしてないよ−」とか言いながら肌を褒められたかったし、モテてみたかったさ! 無理だったけど!

 わたしは自分の取り得るべき最良の道を選んで来たので今の人生に後悔はないんですけど、別の生き方、そしてそれは女性誌でロールモデルとされるような女性としてのモテ人生とニアリーイコールな訳ですけど、そんな道があったんじゃないかとぼんやり思うんですよ。図々しいとか言わないで下さいな、多くの非モテ中年女性は一回はそゆこと考えてると思います。そしてそれを上手な表現と様々なトピックからの切り込みで余すことなく表現しているのがジェーン・スーです。オーガニックへの微妙な距離感とか、カラオケでの選曲とか、コーラスラインのサントラ聞いてやる気を上げるのとか、赤い口紅が似合わないこととか。ああああなたはわたしですね。あ、でもわたしはまだスタバのストロベリーモカなんとかフラペチーノとかはまだキツくない、食べきれる。途中で飽きるけど。

 後書きに相当する「結びに代えて」から一部引用します。

「世間の都合で勝手に定義された女の形に反発しながら、私はその形にぴったり嵌まる自分をどこかで夢見ています。年を重ねることを受容しながら、私は指の間からこぼれ落ちる若さをやや感傷的に眺めています。(中略)

要は、世間の「女」としての基準をクリアした上で、「人」として他社と差別化を図りたいと願っている。」

そうなんです、結局そこ。自分が主人公の物語で、よりよく生きたいだけだけど、どうせなら他人からの評価も受けたい。自分の人生を自己評価だけでなくて周りから褒められることでしか肯定出来ないとい云う構図をきちんと見せてくれる。辛い、辛いけど、その通り過ぎる。

 てことでわたしは今後も新刊が出たら読んで、自分の醜い自意識を、ジェーン・スーの本で言語化して貰い、勝手な共感を感じてつかの間の自己肯定を行うのでございます。

 

JUGEMテーマ:ビジネス書

| 国内さ行(その他) | 16:31 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ピンヒールははかない」佐久間裕美子
評価:
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幻冬舎
コメント:女性がニューヨークで一人で生きていくこと

●先週の読書

・「ピンヒールははかない」佐久間裕美子/幻冬舎

 

 この本を手に取ったのは、著者とどなたかの対談をネット上でふと目にし、その記事は断捨離関係だったと思うのですが「以前東京でお会いした時には編集者としてバリバリ働いてお洒落だった佐久間さんが、ニューヨークでさぞお洒落な生活を送っていると思っていたらすっきりシンプルになっていて……」みたいな文脈で、記事の末尾に著者新刊として本書がリンクされていたのが、ある時「そう言えばこの前この書影見たな」と思ったからです。相変わらず片付けとか断捨離には、それが達成出来ていないからずっと興味を引かれ続けている格好のカモなわたしでございますな。しかし別に本書は片付けとかすっきりライフスタイルとかの本ではなく、どちらかと云えばジェンダー関係のエッセイ集です。

 

 ニューヨークではシングル女性でも日本ほど生きにくくない、ステレオタイプのライフスタイルを強要される雰囲気が薄いと云うことが全編通して感じられます。著者は離婚歴がありますが、別に「再婚しないの」とか「一人で寂しくない?」などと尋ねられることはなく、自分がしたいことを自分の力で実行して、良い友人に恵まれて彼女らの生活を通して自分を見つめ直して更に QOL を向上させている、素敵な人だと思います。人によって幸福の形は違うから、類型に当てはめてそうでない人を「幸せじゃない」と邪推したりそれを口に出したりするのはいくない。わたしもいつもやっちゃって後から滅茶苦茶後悔すること良くある。結婚してなくても子どもがいなくても愛の対象がどういう性別でもそれに頓着しない雰囲気が、アメリカにはある。

 

 多分わたしは日本の窮屈な価値観でずっと生きていて、多分そこから一生自由になれないままだし不自由とすら思わないで生きて、色んな人に失礼なこと言ったり傷付けたりして過ごして仕舞うのだけれど、著者のようなフラットで自分と周りを大切にすることを動機とした行動力はいいなと思います。

 

JUGEMテーマ:ビジネス書

 

| 国内さ行(その他) | 15:56 | comments(0) | trackbacks(0) |
「夫・車谷長吉」高橋順子
評価:
高橋 順子
文藝春秋
コメント:見届ける、と云うことの覚悟。

●本日の読書

・「夫・車谷長吉」高橋順子/文藝春秋

 

 その文章の凄みと内容の凄まじさ、精神の極限を書くことに於いて非常に好きな作家である車谷長吉氏が亡くなったことを新聞紙上で読んだのはもう二年前のことか。もう二年経ったのかとも思うし、もっと昔に亡くなっていたような気もする、そんな氏の妻、詩人の高橋順子氏が書き下ろした車谷長吉との生活についての本。読むしかない。

 想像はしていたものの車谷氏との夫婦生活は凄まじく、常人であればとっとと逃げ出すと想像される。しかし高橋氏は「共に闘ってゆく者」として車谷氏との二十六年に渡る生活を全うし、彼の人生を見届けた。

 本書は馴れ初めから車谷氏の三回忌までを綴る。そもそもの馴れ初めは車谷氏が高橋氏の詩を読んで心を動かされ、彼女に手紙を出したことに始まる。その手紙も、まあ普通の人が受け取ったらその切羽詰まった感や意味の分からなさに不気味さを感じて放っておくようなものだと個人的には思う。しかし高橋氏はストイックに小説に向き合い言葉を継ぐ車谷氏に次第に惹かれ、彼の出家を止めて結婚。車谷氏四十八歳、高橋氏四十九歳、ともに初婚。

 最も苛烈なのは「狂気」の章で、強迫神経症を患った車谷氏が「足に付喪神がついた」と言って毎日家じゅうを雑巾で拭き続け、流水で五時間手を洗い続け、妻には見えないたたり神を祓うために靴下を日に何度も変えさせ、といった生活が延々と続くくだり。結果的に病院へ行き神経症の診断を下されるのだが、そこに至るまでの車谷氏の差し迫り方、それに付き合う高橋氏の諦めを含んだ心情、破綻した生活の描写が淡々と書かれるのが最も心に残った。この時代に「萬蔵の場合」や「漂流物」が書かれたかと思うと、文士と云うのは本当に狂気と正気の境目にいるものだというのが良く分かる。後日、氏の代表作となり直木三十五賞を受賞する「赤目四十八滝心中未遂」がこの頃から書き続けられていたことにも驚いた。狂うのはもう少し先の話だと思っていたら、わたしが最も好きな車谷作品が書かれた時代が最も狂っていたということを知って「嗚呼」と思った。今時分、ここまで自分を削って他人も傷付けまくって文に対峙する作家がどれほどいることか(とは云え、いくらファンでも車谷氏のやっていることは酷すぎるとは思うのだが)。

 次の章は車谷氏の作品中で実名で傷付けられまくった人々からの恨みや訴訟の時代。それが一段落付くと、癒しが感じられる晩年期が到来。高橋氏が車谷氏を長期旅行に連れ出したり、それぞれの講演会依頼に合わせて旅先で落ち合ったり、二人でお遍路に出掛けたり。脳梗塞を患ってからは車谷氏は小説を書かなくなり、そしてそのままある日誤嚥性窒息で命を失う。いつ自殺しても不思議でない車谷氏が自ら意図していないタイミングで命を失ったのがいいのか悪いのか分からないけれど、ひとの死にいいも悪いもないとは思う。でも熱烈でないにしてもいち読者としては氏の訃報に接し心の赴くまま文章を書き散らした過去があるので、それはやはり衝撃だった。

 高橋氏の文章は、きっともっと起伏があったであろう生活を最小限の感情表現で著されており、とても読みやすかった。失礼を承知で敢えて言うなら高橋氏は、車谷氏にはもったいない「出来た女性」だと思う。車谷氏のほぼ全ての小説を(完読していないものもありながらも)所持している身としては、本書を読んだのはとても有意義だった。

 

JUGEMテーマ:小説全般

| 国内か行(車谷 長吉) | 04:56 | comments(0) | trackbacks(0) |
「一九八四年(新訳版)」ジョージ・オーウェル
評価:
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コメント:あまりに有名なディストピア小説

●本日の読書
・「一九八四年(新訳版)」ジョージ・オーウェル/ハヤカワepi文庫

 

 やっと読んだよ、かの著名なディストピア小説。村上春樹の「1Q84」はこの話とどういう関係にあるかは後者を読んでいないので分からないけれど、Kindle で安くなっていた時に購入して三年ほど放っておいたのをちまちまと読み進めて、ああ確かにこういう未来に、今わたしたちはいるのかも知れないと皮肉っぽく思った次第です。

 1984年(が遥か未来だった頃に書かれた小説ね)、共産主義を思わせる政府機関で働く主人公の仕事は、日々政府に都合の良いように書き換えられていく「過去の歴史」を正当化するために、その証拠となる出版記事を校閲して、修正不可能なものは永久に破棄するというもの。絶対的正義の存在「ビッグ・ブラザー」が支配する世界は全てが徹底的に管理されており、全国民が死角なくに監視され、反政府的動きの密告を推奨されているという正にディストピア(対義語は言うまでもなくユートピア)。そんな生活に息苦しさを感じる感覚も麻痺した状態の主人公ですが、ある日同じ建物で働く顔見知り程度の若い女性に心惹かれます。しかし戸籍上は結婚している彼が個人的に彼女と連絡を取ることは、この監視社会では不可能。ばれたらいつの間にか存在を跡形もなく消されます。事実、彼の知り合いの中にはいつの間にか姿を見なくなり、そして後には誰もその存在を知らなくなる人が何人もいる状態。知り合いたちがどこへどのように消えたのか、どうなったのかを調べることは即ち自分の身を「消される」危険に直結します。

 その女性、ジュリアとは次第に秘密で連絡を取り合う仲になるのですが、この小説の読みどころは後半です。非情なる非常識な監視社会が成立するその仕組みが明らかにされていきます。最近海外でこの作品が舞台化した折、観客の中で途中気分が悪くなる人が出た、というのも頷ける展開。その衝撃的な結末。うわあそう終わるのか、と。あまり書きすぎるとネタバレになるのでこの辺でやめますが、ちょっと世をシニカルに見たい時に読んでみるといいと思います。あと懺悔しますが、巻末のピンチョンの解説、読み飛ばしましたごめんなさい。

 

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| 海外(その他) | 22:55 | comments(0) | trackbacks(0) |
「水声」川上弘美
評価:
川上 弘美
文藝春秋
コメント:姉と弟がたどり着いた、家族の形

●本日の読書
・「水声」川上弘美/文春文庫

 

 ううううーん。分からなくもないけれどちょっと腑に落ちない感じの設定のお話でした。

 世間的に見て変わっている、だが魅力的な母から生まれた姉(都)と弟(陵)のお話。彼らは成長するに従って、自分たちの父と母の関係はどうも普通の家庭と違うようだと気付いていくし、そしてそれは事実変わっているし、彼らの人生にも大きな影響を与えます。

 ほら女性なら今までで一人くらいは知り合いにいたでしょう、別に美人でも可愛くもないのにやたら男受けのいい女性。本人は意識せず周りの男性を振り回し、別に男性側は迷惑とも思わないんだけれど特定の女友達しかいない、そんな女性。主人公たちの母はそんな女性です。そして彼女と一緒に暮らす父は、別に母にぞっこん(古い表現)と云う訳でもなさそうだし、何か不思議な不穏さを内包して彼らは成長します。

 物語は現代と昔を章ごとに行き来します。小学生の頃の母との思い出が語られた次には、三十五歳の主人公がイラストレーターとして生業を立てている話。都の唯一の仲良い友人、奈保子との出会いが描かれた次の章には、地下鉄サリン事件を契機に再度同居するようになった弟、陵との生活が描かれます。

 地下鉄サリン事件を契機にゆるゆると変化する姉と弟の関係も、何というか、腑に落ちない。文章の一つ一つはわたしの好きな川上さんの文章んだけど、ずっと「話の核心」が隠されて物語が進むのが気にかかりました。冒頭から何がどうなっているのかなんとなく分かる分、敢えて中心をよけて周辺を細かく描写して輪郭をくっきりさせて、でも一番大切なことはいつまで経っても現れない感じ。喩えるならモヘアのセーターの脇が少しほつれているのに気付いているんだけど、それに気付いてないかのように袖口の描写ばかり続くような。うーん分かりにくい喩えだったか。でも、ずっと柔らかく何かに包まれているんだけど首元チクチクする感じが、モヘアのセーターっぽいんだよね……。

 家族に隠された秘密は後半で一つづつつまびらかにされていくのですが、彼らの生活のかたちは、彼らにしか分からない「幸せのかたち」なのでしょう。それについてわたしみたいに「腑に落ちない」とか言うのは多分野暮なのです。

 

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| 国内か行(川上 弘美) | 22:56 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ビブリア古書堂の事件手帖7」三上延

●本日の読書

・「ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと」三上延/メディアワークス文庫

 

 ええっと、コレいつ読んだんだ……ブログ下書きが7月2日……。と云うことでちょいちょい読了した本は溜まっているのですが感想文書く体力的余裕がない日々を過ごしております皆様お元気ですか。

 シリーズ完結編です。今回のテーマはシェイクスピアの稀覯本。大変楽しく、そしてシリーズを締めるに相応しい終わり方でした。最終巻と言うこともありますが、前巻までの内容を把握していないと、本作で登場する人物が誰なのか、主人公たちに取ってどう云う関係の相手なのかが分からないので、シリーズ通読している人向け。通読している自分ですがあまり内容を覚えていなかったりするので、「○○の事件で世話になった」とか書いてあっても、はてどなたでしたっけ? ってなっていますけど(と毎巻書いている)。

 ざっくり粗筋。ビブリア古書堂の若く美しい店主、栞子さんの母で古書のためなら手段を選ばない篠川智恵子。彼女と浅からぬ縁を持つ久我山尚大が、亡くなる間際に智恵子に出題した稀覯本に関する試験問題は「色の異なる三冊の特装本のうち、本物は一冊だけ。手を触れずにどれが本物か当てたら、自分の古書店の跡継ぎにしてやる」というもの。智恵子はその申し出を断り、尚大の恨みを買ったことから今回の話が始まります。智恵子が「手を触れなくても見分けられる」と宣言した三冊の特装本はその後世界各国に散り散りになります。ある日、尚大の側近だった男がビブリア古書堂を訪れ、栞子さんと五浦大輔くんもシェイクスピア稀覯本の謎に巻き込まれていきます。

 相変わらず古書と稀覯本と古書店商売についての蘊蓄は豊富で読んでいて面白いです。シェイクスピアに限らず、過去に出版された本の作り方、それが今に残ってどのように古書市場で価値を出しているかなどなど。

 三冊のシェイクスピア初版本(ファーストフォリオ)に関する謎解きはそこまで込み入ったものではなかったのですが、わたし一つ最後まで分からなかったのが、篠川智恵子がどうして「手を触れなくても見分けられる」と言ったのかについて。最後までその謎については解明されていなかったと思うんですが、どうして分かるんだろう。

 もう一つ、完結作として良かったのが、栞子さんと五浦くんの関係に決着がつくこと。シリーズ読者なら大体の結末分かっていると思いますが、やはりきちんと結末を付けてもらえるのは大変嬉しいことでございますね。いや今回、内容について書き過ぎたな。

 

JUGEMテーマ:小説全般

| 国内ま行(三上 延) | 07:05 | comments(0) | trackbacks(0) |
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