書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

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「夜明けの縁をさ迷う人々」小川洋子
評価:
小川 洋子
角川書店(角川グループパブリッシング)

●本日の読書
・「夜明けの縁をさ迷う人々」小川洋子/角川文庫


 小川洋子ワールド全開の短編集。静かで奇妙な現象に、それを不思議とも思わない人々が織り成す日常の物語。不動産屋や高校の野球部や中華料理店など普通の場所を舞台に始まるお話が、ふとした瞬間に奇妙にねじれていつの間にか日常離れしたシチュエーションに導かれて抜け出せなくなります。時間も場所もあっさりと超越します。小川洋子の文章の魔力。

 登場する職業も奇妙です。楽器に擦り込むと音が良くなる涙を売る少女「涙売り」、エレベーターの中で生まれエレベーターの中で暮らす育たない少年が主人公の「イービーのかなわぬ望み」、奇妙な来歴を持つ家ばかりが集まる不動産屋が舞台の「お探しの物件」、全部で九つの短編が収録されています。

 中で気に入ったのは冒頭の「曲芸と野球」と中ほどにある「パラソルチョコレート」です。この二編は日常離れした設定が横行する本作の中で、しっとりとした優しい読後感を与えてくれる作品です。「曲芸と野球」は、草野球チームで練習する少年と、同じ広場で椅子を積み上げる曲芸の練習をしている曲芸師との話。「パラソルチョコレート」は幼い頃世話になったベビーシッターのおばさんと、彼女に連なるちょっと不思議な世界のお話。つまりはわたし、あまり「取り返しの付かない」感じの話よりも、ゆるっと日常の延長戦にありそうな話が好きなんですね。小川洋子は何冊か読んでおりますが、短編集としてはかなり上位に位置する、よい短編集だと思います。
| 国内あ行(小川 洋子) | 17:51 | comments(0) | trackbacks(0) |
「物語の役割」小川洋子
●本日の読書
・「物語の役割」小川洋子/ちくまプリマー新書


 タイトル間違えていました。「物語の方法」ではなく「物語の役割」。小川氏の講演をまとめた、氏の物語に対する考え方の記録です。三章立てで、「物語の役割」「物語が生まれる現場」「物語と私」となっています。最も記憶に残ったのは二章目の「物語が生まれる現場」。これは芸術系の学校での講演を元にしている為に、氏が小説を書く方法や順番などを他章に比べて具体的に書いてあるので、良く分かりました。写真や情景などからインスピレーションを得て、映像が浮かべばそれはもう小説になり得る状態でうある、と云うのが、体験的には分かりませんが、理屈としては良く分かります。

 小説と云うものに興味があって、あまたの小説作法本を読み倒してきた自分にとっては、この本、即ち小川氏の平易な言葉しか並んでないのに情景を想像できる文章が非常に合っており、どの本よりも小説が生まれる瞬間が分かるように思えました。思い出した時に拾い読みしたい一冊です。ちくプリだから、装丁もいいしね。
| 国内あ行(小川 洋子) | 17:58 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ミーナの行進」小川洋子
評価:
小川 洋子
中央公論新社

●本日の読書
・「ミーナの行進」小川洋子/中央公論新社 ISBN:4-12-003721-5


 読売新聞連載時、飛び飛びに読んでおりましたが一冊にまとまったので通して読む。連載時には大きな山も波乱もない話だと云う印象が強く、またそれは通して読んだ後も確かにそうなのだけれど、物語後半からゆっくりと中くらいのうねりが見られる。芦屋の豪邸で暮らす病弱な美少女ミーナと、事情でそこに同居する事になった朋子を中心にした物語。

 以前読んだ小川洋子の小説の印象はと言えば、生活感が薄く、登場人物みんな綺麗で、汗をかかない人間しか存在しないような世界、だった。しかし「ミーナの行進」は、確かに芦屋の豪邸を舞台に広げられるある種シンデレラ気分の話ではありつつも、登場人物がきちんとその家での「生活」に欠かせない存在であり、即ち生活が感じられた。と、そう云う御託はどうでも良くて、うん、いいなあ、読んでて気持ちが良かったなあ。

 朋子とミーナがそれぞれの人生における短い期間、生活を共にし、毎日の小さな出来事の積み重ねの中でそうとは知らずに成長していく展開は輝く毎日のように見えつつも、巧妙に伏せられた小さな不幸は存在し、そこが非常に現実的。タイトルの「行進」も物語の前半と後半では持つ意味を変え、それは二人の少女の成長を意味している。読後感の良い小説です。
| 国内あ行(小川 洋子) | 19:45 | comments(0) | trackbacks(0) |
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