2023.05.03 Wednesday
スポンサーサイト
一定期間更新がないため広告を表示しています
| - | | - | - |
書評・三八堂のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます
|
2011.07.23 Saturday
「黄金旅風」飯嶋和一
・「黄金旅風」飯嶋和一/小学館文庫 あのね、飯嶋先生の小説は本当に面白いの。途中しんどかったりするけれど面白いの。何が面白いって主人公が強くて頭良くて悪い人を懲らしめるから読んでて頑張れ頑張れってなるの。 と阿呆い書き出しで始めましたが、久しぶりの飯嶋作品読了に清々しさを覚えておる真っ最中です。舞台は鎖国直前の長崎、主人公は長崎代官であり貿易商人の末次平佐衛門。この平佐衛門が真っ直ぐで、長崎の民を守る為に全力を尽くす物語です。 鎖国直前の長崎は、徳川幕府の思惑、配置されている大名・奉行の思惑が入り乱れ、またそれとは別のところで幸せを求めて暮らす長崎町民の思いが混じっています。そしてそれらに深い影響を与えているのが、当地に以前から入っているキリスト教の教え。一世代前まではキリスト教が広く教え説かれていたにも関わらず、それによって民が平等思想を得るに至って幕府の危機感は増し、遂に禁教と弾圧が始まります。それぞれの立場であるものは利益を、あるものは幸福を、あるものは信教を、あるものは大義を目指して物語は進みます。 飯嶋作品の特徴と言えばここで書くまでもなく徹底的に資料を調べ上げて構築された緻密な歴史大河小説であることですが、比較的勧善懲悪色が強いながらも善人も作中で容赦なく死んだり殺されたりするのが思うに侭ならない現実を思わせてリアルです。善人が報われて欲しいと云うのは読者の思いだけど、実際にそう上手くことが運ばないことを我々は知っているし、また上手く運びすぎると読んでいて楽しいかも知れないけれど嘘っぽいなとも思います。ネタバレは避けたいので詳細は書きませんが、生きていて欲しい人が物語から退場したり、正義のための行動が上手く働かなかったりといった困難を乗り越えて、平佐衛門は長崎の民の幸福のために闘います。歴史小説に馴染みのない方は最初読みにくいかと思いますが、一読をお勧めします。 2005.07.22 Friday
「神無き月十番目の夜」飯嶋和一
・「神無き月十番目の夜」飯嶋和一/河出文庫 ……んー、しんどかった。何がしんどかったってのを分かって頂く為には「汝ふたたび故郷へ帰れず」を読んで頂く、又はその拙感想文など読んで比較して頂ければ良いかと思うのですが、この本、特に最初、慣れるまでが辛かった。 「汝ふたたび故郷へ帰れず」は綺麗な語り口の、それでも身を抉るボディーブローを与えてくる文章で綴られた珠玉の現代中篇集でしたが、今回は歴史物。しかも悲惨。先ずは本の裏書きを転載しますな。 『江戸初期、北関東でひとつの村が地上から消えた。「サンリン」と呼ばれる聖なる空間で発見された老人から赤子までの骸は三百余。ここで何が起きたのか。歴史の闇に葬られた謎の“大事件”を甦らせて、高い評価をえた暗黒と戦慄の巨編』 ……そう、もう冒頭で分かっちゃうのですがこれは江戸中期の一村虐殺譚で、読者は「ああこの人もこの人も、最後には皆死んじゃうのかー」と云う思いを抱え乍ら読み続ける訳ですよ。しかも時代小説なもんだから文体も硬くて、「汝〜」が原稿用紙に万年筆で書き綴られた小説だとするなら、「神無き月〜」はノミ一本で彫られた怨念の石碑を読んでいる印象すら受けます。いや、それでも凄い上手でもう何も言えないのですがな。暗くて辛い話なのにどう仕様も無く先が気になるのは筆者の上手さで。 基本的に飯嶋和一の小説は全て勧善懲悪の趣がありますが、この小説は村と幕府を描いた群像劇であるから誰か一人に肩入れして読むと云う風ではなく、出てくる人を、こいついい奴、こいつは莫迦、と振り分けて、いい奴を窮地に陥らせる莫迦に悪態を吐き吐き読んでいく風になります(しかしその思いにも裏には「最後には……」ってのが付き纏ってるんだがな)。ホントこれね、どうにかならんかったんかと悔やまれて仕様が無い事件ですよ。いや、言っても仕様がないけど。しかも(私の方で裏を取ってないけれど)歴史から抹殺された本当の話だとか。それを文字通り見てきた様に甦らせたのであれば、その功績や如何。歴史物に免疫があり重厚な話をお好みの方にはお勧め。話の結末から、余り良い小説でなかった印象を受けるような事を書きましたが、その文章の厳然たる美しさや血の通った人物描写、ディテールの書き込み等には舌を巻きます。もっと評価されて然るべき作家さんだと思います。惚れてるんで「始祖鳥記」も「雷電本紀」も購入済みですよっと(「黄金旅風は?」と云う突っ込みは受けません)。 2005.03.13 Sunday
「汝ふたたび故郷へ帰れず」飯嶋和一
・「汝ふたたび故郷へ帰れず」飯嶋和一/小学館文庫 ISBN:4-09-403312-2 文藝賞受賞の表題作、群像新人賞受賞の「プロミスト・ランド」、中篇「スピリチュアル・ペイン」収録。これが千円以下の文庫で読めるなんてものすっごい倖せな事だと思うぞ。 表題作はボクサーの話、「プロミスト・ランド」はマタギの話、「スピリチュアル・ペイン」は馬の話、って敢えて内容に言及せずに語ってみました。だってこの人の文章が凄く良いので、あたしが下手な先入観を与えたくないし。嗚呼美しくて仕様がねぇ、もうこれは快感。 基本的にはどの話も「弱者から強者への対抗」でそこにぐっと来るのですが(「スピリチュアル・ペイン」だけは少し趣が違うか)、別に勧善懲悪でもないし、相手方も人間臭い。時には対抗したってどう仕様もない事もあるってのを真正面から書く。痺れる。一番興奮し、涙し、心に残ったのは「汝ふたたび故郷へ帰れず」ですが、多分「スピリチュアル・ペイン」の様な、日常に隠れた自力ではどうする事も出来ない弱さを描いた文章の方がこの人はいいと思います。 TBした芝田さんみたく電車こそ乗り越さなかったけれど、電車待ちの時間に読んでいたら、このままもう三十分電車が来なくてもいいなぁと思いました。ずっとずっと読み続けて、終わらなくてもいいくらいの。 いいから読め。飯嶋和一すげぇぞ。一番の問題は何処の本屋にも置いてないって事だ。 1/1 |