書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

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「バーナード嬢曰く。」施川ユウキ
評価:
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一迅社
コメント:最初は「名言集」から始まったんだけど、転じて本全てを扱うようにしたのは正解。作者のコラムが読ませる。面白い。

評価:
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一迅社
コメント:暴力的だった神林しおりが町田さわ子にデレ始める二巻はこちらでございます。

●本日の漫画
・「バーナード嬢曰く。(1)(2)」施川ユウキ/一迅社


 漫画です。本好き、就中、SF 好きに強くお勧めしたい。正直絵はそんなに好みのものではないのですが、それを補って余りある「本好きあるある」「SF あるある」っぷり。一巻で敬遠した人いたら無理してでも二巻読んで。二巻断然面白いよ。絵も上手くなってるし。

 高校の図書室を舞台とした本書の登場人物は四名。主人公のバーナード嬢(自称)こと町田さわ子は人から読書好きに見られたい割に殆ど本を読まないぐうたら娘。その町田さわ子を観察する遠藤君(少し前のベストセラーを読むのが趣味)、遠藤君に恋する図書委員のちょっと小太り長谷川スミカ(シャーロキアン)、そして本物の読書家で SF をこよなく愛する神林しおり。この四人の、本絡みのぐだぐだ高校生活を描いた漫画ですが SF 好きは読め。神林しおりの長セリフ読め。

 町田さわ子が自称している「バーナード嬢」は「ピグマリオン」を書いた劇作家のバーナード・ショーをもじっているのですが、彼女がピグマリオンを読んでいる筈は当然なく、通っぽい読書家と見られたいがためだけの名乗りです。そう云う自分演出をする町田さわ子は嫌なやつかと云うとそうではなく、欲望に忠実で限りなくアホなので愛嬌があっていいです。

 そして神林しおり。ガチの読書家の彼女の存在なくしてはこの漫画は語れません。しおりは町田さわ子が能書きばっかり垂れて読んでもいない本をさも読んだように語るのを許すことが出来ず、よく殴ったりシメたりアイアンクローしたりしています。

町田さわ子「(SF 10 冊読んで)SF は、大体わかった」
神林しおり「わかるかぁ!! 『異星の客』も『月は無慈悲な夜の女王』も読んでねえんだからハインラインすらわかってねえよ!!! 『SF 語るなら最低千冊』! ムリでもせめて普通に本屋で買える青背全部読んでから言え! 」(テーブル引っ繰り返しながら)

ここで青背がハヤカワ文庫(SF が充実。つか国内で SF っつったらこの文庫しかない)を指すと分かる人がどれだけいるかのう。因みにわたしが一番好きな神林しおりのセリフは二巻 32 ページの下段です。敢えて抜粋しないんで読んでみて下さい。

 こんなこと書いてるとわたしめっちゃ SF 読んでる感じに見えるけど、「夏への扉」「星を継ぐもの」「幼年期の終わり」「モンゴルの残光」「虚行船団」「華竜の宮」「虐殺器官」くらいしか読んでないのよね。ただ父親が SF 好きなので、今本棚に並んでるハヤカワ文庫数えたら簡単に 100 冊越えてて勝利感に溢れてる。ハイペリオンもリバーワールドもデューンもあるよ、アーサー・C・クラークとハインラインと J・P・ホーガンとディックとアシモフが豊富にあるよ! 読んでないのに万能感、町田さわ子病。しおりちゃんに殴られる YO!

 SF にばっか特化して感想書いちゃったのですが、村上春樹や KAGEROU、宮沢賢治からホームズシリーズに至るまで細かく手広くネタにしているので、いつか三巻出たら買います。

JUGEMテーマ:漫画/アニメ
| 国内さ行(その他) | 01:15 | comments(0) | trackbacks(0) |
「私たちがプロポーズされないのには、101 の理由があってだな」ジェーン・スー
評価:
ジェーン・スー
ポプラ社
コメント:ジェーン・スーと愉快な未婚のプロたち

●本日の読書
・「私たちがプロポーズされないのには、101 の理由があってだな」ジェーン・スー/ポプラ社


 ジェーン・スーと愉快な未婚のプロたちの、抱腹絶倒自己分析記録。

 さてさて読みましたよ「私たちがプロポーズされないのには、101 の理由があってだな」! 「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」読んだ時に予告した通りだぜ! このタイトルの付け方がもう神業ですよね、言葉の選び方があざといなあ(褒め言葉ね)。相変わらず冴えわたる考察と斬れ味鋭い書き筋、そして女性ならきっと頷く抱腹絶倒の客観的描写をご覧じろ。

 適齢期過ぎて結婚していないことに「未完成な自分」と「あるかも知れない幸福への憧れ」を抱きつつ、独身生活を超絶エンジョイしている未婚のプロたちからのリサーチをまとめて、自分が結婚出来ない=プロポーズされない 101 個の理由を書き下ろしてあります。指摘はいちいちもっともで、体裁も一項目見開き二ページで読みやすい親切設計。著者とその友人たちである未婚のプロは男女共同参画の時代に生まれ育った古い言葉でいうところのバリキャリで、女性であってもガッツリ稼いで仕事では男性と対等に渡り合える、能力も生活力も非常に高い女性たち。つまりは結婚しなくてもやっていける人たちなのでありまして(勿論それも 101 の理由の中の一つだぞ。「077 正直に言えば、一人で生きていける自信がある。」)、だから男性から下に見られることや庇護されることにものすごく警戒心が強くて無意識に打ち負かそうとしたり(075 どうでもいいことでも、勝つまで口論してしまう。)、でもプロポーズされないことに焦って弱い自分を演じてみたりする(044 彼に花を持たせようと、力不足を演じたことがある。)、そんな愛すべき女性たちです。そして同じように全てを笑いに変えられる、いい女友達に囲まれている。だから独身生活が楽しくて結婚しなくても生きていけちゃう(101 病めるときも健やかなるときも、バカ笑いが出来る女友達に囲まれている。)。

 101 の理由はあとがきで更に 10 の属性に分類されているので、この本を指南書として読むのであればそのあとがきと目次の項目を読めばいいっちゃいいのですが、この本の魅力は破壊力の高い本文のドライブ感。私たちがプロポーズされないのには、女性側にも原因があるけれど男性側にもしちめんどくさい原因がある! ああ色々と思い当たるさ! 本書を読んで学習したわたしが乱暴にまとめてしまうと、男性は女性より優位に立ちたいし決して自分を上回って欲しくない。そしてロマンチストで繊細。だから強い女にはプロポーズする気にならない。更に脳構造の違いに起因して、女性はマルチタスク型だけど(例:テレビ見ながら雑誌を読んで友人と電話で会話し、全ての内容を破綻なく理解出来る)男性はシングルタスク型で(テレビ見るとき話しかけられると不愉快になる)、女性が自然に出来ることについて「なんでこれ出来ないの」「この前言ったよね?」等と言われるとカチンと来るし、そもそも何の話をしたのか覚えてない(テレビ見てたから)。女性は女性で、男性に安定した収入や今の自分の生活レヴェルを落とさないことを無意識に要求しちゃうので、そりゃ男性は引くよね。安定収入ある女性はどんどん自分の好みとこだわりにお金を注いでハイメンテナンスの女となり「こいつ養うの金掛かるな」と男をドン引きさせるわけです。ああすれ違い。

 あのですね、女性側の対策としてはこれだけ守って下さい。「女友達にしない/言わないことは、男にしない/言わない」 これ守ればプロポーズされます。女性はコミュニケーション能力が男性よりも高い(と言われている)ので、女性同士の関係を維持するのにはほぼ無意識のとっさの判断で相手を不快にさせない言動を取れるのです。それが恋愛の絡んだ異性相手となるとこの能力が発動せず、自意識過剰で自分本位になるためにプロポーズされないのです。ってジェーン・スーは言ってます。納得。

 一番面白かったのは「079 『アルマゲドン』を観て泣いている彼を、バカにした。」ですね。笑っちゃ駄目なんですよあの映画で。例え宇宙空間でド派手な爆音が響こうとも、布がなびこうとも、彼はブルース・ウイリスの自己犠牲ストーリーにロマンチシズムを感じて感動している真っ最中なので「真空だから音する訳ないよね」って言っちゃ駄目だったんですね。わたしは言っちゃったがな!

 ハイミス(死語)の女性を見る視点の鋭さでは「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」の方がお勧め出来ますが、こっちもこっちで笑えます。独身は麻薬、シングルイズジャンキー!
 
JUGEMテーマ:小説全般
| 国内さ行(その他) | 03:01 | comments(0) | trackbacks(0) |
「コルシア書店の仲間たち」須賀敦子
評価:
須賀 敦子
文藝春秋
コメント:イタリア、一つの時代の始まりと終わりを。

●本日の読書
・「コルシア書店の仲間たち」須賀敦子/文春文庫


 エッセイストとして名高い方ながら著作を拝読したことなく、同じく「いつか読みたい在外エッセイスト」であった米原万里を次々と読んだので、次はこちらを。タイトルから想像するに、イタリア在住の作者が通った書店で見聞きした出来事を綴ったものかとページを開くとちょっと趣が違っていました。コルシア・ディ・セルヴィ書店は「書店」の体裁ではありますが、キリスト教左派の神父が教会の軒先を借りて開いた書店で、神学や思想の本も出版する書店。わたしの受けた印象で言えば、そこは書店と言うよりも政治政党の事務所、いや、サロンのような場所です。

 体格が良く豪快で滝のように笑う詩人で、書店設立の中心的人物であるダヴィデ神父。小柄ながら人を圧倒する気高さと厳しさを持つ書店のパトロン老婦人ツィア・テレーサ。寡黙で明晰で書店の経営実務と出版を担うカミッロ。豊かな家の出で書店の経営にバランスをもたらした折り目正しい女性ルチア。奥ゆかしい性格で後に筆者の夫となるペッピーノ。その他色々なイタリアの人々が書店に滞在したりまた通り過ぎたりしていくのですが、多くの思い出がそうであるように、筆者はその光景や状況を印象深い断片のみ覚えていてその時のことを遠い出来事として少し寂しい雰囲気で綴ります。

 そう、このエッセイは全編寂しい。

 それは描かれた出来事が既に遠く過ぎ去った三十年前のことであることも関係していると思うのですが、時系列に則って後に行くに連れ、書店は時代の波に晒されてそのスタンスを変えざるを得なくなったり、中心人物であるダヴィデ神父がミラノを追放されたり、集う人々の足並みが合わなくなっていったりするのを著者と一緒に眺めている寂しさが漂っているのだと思います。政治と時代は切り離せないとは言え、著者が文中で言っているように、当時は全員が真剣にユートピアの構築に取り組んでいたにも拘らず、振り返って見ればそれは壮大なごっこ遊びだったように思えることも一つの理由かも知れません。小さな団体が国を変えようと働き掛けることで何かが変わることが非常に稀であることを、我々はとっくに知っています。そんな寂しさ。

 全編通した印象がそうだとは言え、一つ一つのエッセイの描写は品があり言葉の選び方も上手で美しく、知的な文章です。ただ個人的な事情を挟めばわたしは既に同じイタリアを舞台にした素晴らしい文を紡ぐエッセイスト、内田洋子さんの本と出会って仕舞っており、そちらの観察眼鋭いウイットに富んだ物語のようなエッセイに惚れて仕舞っているので、どうも点が辛くなって仕舞います。端的に言えば内田さんのエッセイの方が好き。勿論須賀さんのエッセイも読んで損はないと云うかむしろ読んでとお勧め出来る美しさですが、まあ好みってそれぞれですし。

 あー、ドイツでこんな美麗な文の生活に密着したエッセイ書かれたのってないかな。ドイツ大好きなんだよー。ドイツ在住作家って多和田葉子さんしか知らんのだけど彼女は幻想純文学だし、だれかドイツエッセイ書かれたのあったら紹介してー(完全に蛇足)。

JUGEMテーマ:小説全般
| 国内さ行(その他) | 23:57 | comments(0) | trackbacks(0) |
「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」ジェーン・スー
評価:
ジェーン・スー
幻冬舎
コメント:おもろい。アラフォー女子必読。

●本日の読書
・「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」ジェーン・スー/幻冬舎


 いっやこの人めっちゃ筆が立つわ。上手いこと書くわ。女性が女子と云う側面を抱えつつ加齢して女子の枠からはみ出ていく様を余すところなく描き切っており、読んでいて滅茶苦茶面白いし当たりすぎてて膝を打つ。まずタイトルがいかす。「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」。あなたもあたしもそう言いたくなることあったでしょ過去に何度かさあ。四十代向けの女性雑誌が創刊されてその表紙に「いつまでも女子」って大書されたキャッチコピー見た時に「貴様いつまで女子でいるつもりだ」、と。

 著者はれっきとした 41 歳の日本人女性で、作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。本書はブログの記事に加筆修正したものと書き下ろしで構成されています。工学部出身で自分の女性性と過去何度となく衝突したり和解したりを繰り返して生きてきたわたしにとって彼女の書くことが的を射すぎていて頼もしいです。言い回しが面白くて何度も蛍光ペンで線引こうかと思って仕舞いました、妹から借りた本だからやんなかったけど。曰く「(自分の容姿をして)片桐はいり村、一番の美人」とか「(突然の恋を待ちわびる状態を指して)あのドラマが終わって二十年以上経っても、まだ性懲りもなくチュクチュン♪ と「ラブ・ストーリーは突然に」のイントロを脳内で鳴らし続けている。」とか「(笑顔が不自然な自分の写真に)少し快活な地蔵といったレベルです。」……あああ、こうして抜き書きしていても分かって貰える気がしない。

 著者の身の回りのことから話をアラフォー女性のあるあるに敷衍していく展開は見事ですが、あくまで個人的なことから出発するエッセイなので、ジェンダー論として社会一般をばっさばっさ斬る論調ではありません。そう云うのは上野千鶴子先生にやって頂きましょう。ジェーン・スーには身の回りのやるせない、うまくいかない、トホホ(死語)なことを分かりやすく面白い言葉で解説して頂きます。

 特に好きなのを二つ。キリンジへの思い入れと堀込泰行脱退について書かれた「来るべき旅立ちを前に」。一方的に振られた大失恋から立ち直る際にキリンジの曲を貪り聞き歌詞を読み込み関連メディアをくまなくチェックしてどうにか生きていた著者はキリンジに「借りがある」と書き、恋人が別れを切り出すこととキリンジから弟が抜けることをクロスオーバーさせて「告げられる方は唐突だけど、告げる方は着々といろいろ進めてんだよな。」と看破する。

 もう一つは女性が企業内で上手くやっていく著者なりの悟りを書いた「とあるゲームの攻略法」。会社の男性の勤務スタンスには色々あり、やる気十分で男性並みに奮闘する著者がどうしても理解出来ない「役立たず男性社員」を理解しようと努めた末に悟った真理について。働くことを「ゲームに参加する」と捉えると、結婚や出産でのゲーム離脱が容認される女性に対し、男性はゲームから離脱する(会社を辞める)ことが社会的に落第の刻印を押されることと直結しているため、野心や目標がなくてもゲームに居座り続けることが重要であると考えたもの。色んな男性社員への振る舞いパターンなど書かれていて面白いです。

 前作「私たちがプロポーズされないのには、101 の理由があってだな」も読みたい。←後日追記。読んだのでリンク貼りました。

JUGEMテーマ:小説全般
| 国内さ行(その他) | 01:14 | comments(2) | trackbacks(0) |
「電子書籍で1000万円儲かる方法」鈴木みそ・小沢高広
評価:
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学研パブリッシング
コメント:出版社及び漫画業界の話が面白かった

●本日の読書
・「電子書籍で1000万円儲かる方法」鈴木みそ・小沢高広(うめ)/学研パブリッシング


 うーん、興味深い本だったけれどタイトルと内容はいまいち合っていないかと思います。検索等でこの記事に辿り着き読んでおられる方は著者をご存知だったり電子書籍に興味がある、またはもう持ってる読んでる、そして電子に親和性が高い人だと思うのですが、そうでない方は著者を知らなかったりするんでしょうかね。お二人とも漫画に携わる方で、鈴木みそはファミ通の「おとなのしくみ」や講談社ブルーバックスの「マンガ化学式に強くなる」「マンガ物理に強くなる」を読んで知っており、共著の小沢さんは「うめ」名義の漫画家の原作担当で日本初のマンが電子書籍「東京トイボックス」の出版をニュース記事読んで名前だけ知っていたので著者買いです。嘘。Kindle で 1,512 円の本を 100 円でセールしてたから買った。

 タイトルだけ読むと広義の電子書籍(漫画も小説も)を売っていく為にどのような戦略、宣伝を行えばいいかを解説してある本に思えますがさにあらず。漫画業界とそれを取り巻く出版社のスタンスや、漫画家は今後どうあるべきかについての対談集です。小説を電子書籍にして儲けようと画策している人が読んでもあまり参考になりませんが、漫画で戦おうという人には役立つ情報が載っています。じゃあなんでこう云うタイトルになっているのかと云うと、鈴木みそ氏は出版社を通した紙媒体のコミックスを出していますが、同じ作品の電子版はセルフパブリッシング、つまり出版社や取次を通さずに自分で作成して販売しており、2013 年の売り上げが電子版のみで 1000 万円を超えたことが話題となったことに由来しているタイトルなんですな。だから 1000 万円儲ける方法が書かれていると言うよりも、既に一定の読者を得ている鈴木みそだからこそ儲けが 1000 万円の大台に乗った訳で、普通の人がここまで出来る訳じゃない。

 とタイトル詐欺について書きましたが、内容は面白かったですよ。

第一章:マンガ業界こそ究極の“ブラック”だった
第二章:「脱・出版社」を実現する IT サービスの進化
第三章:電子書籍時代の新・マンガ家入門
第四章:ネットで売れるマンガ家・クリエイターとなるために
第五章:これからのマンガ家が取るべき進路とは?

特に一、二章。漫画を雑誌に連載するに際しての「連載契約書」って存在しないとか(もしそれがあると編集部は打ち切りが出来なくなる)、出版社はまだ紙の本の方がデジタルより偉いし電子書籍で儲けが出ると思っていないから著作権については規定を定めていないとか、だからみそさんが出版社に内諾取ってセルフパブリッシングで自作を売ることが出来たとか、漫画は画像データだから昔のネット通信環境だとダウンロードにすごく時間がかかったからマンガをネットで売る/読ませるって現実的ではなかったとか、かといってパッケージソフト化して売るとどのソフト上で動くかと云う問題が発生し当時はまだそこまで使い勝手の良い画像読みソフトが定まってなかったとか、過去から脈々と続くマンガと電子のお話がマニアックにてんこ盛り。

 そう、マニアックなんですよねこの本。結局 Amazon が KDP(Kindle Direct Publishing、即ち自分でデータ作って申請すれば誰でも電子書籍を Amazon で販売出来る仕組み)でばーっと道を作って、日本でも漸く電子書籍で本を読む環境が整った訳だけどまだ紙の漫画に比べれば全然マイナーで、でも作家はそこに対しても鋭敏でいるべきであると、そんな感じの論調です。三章以降はデジタルで漫画を描くソフトや機器についての話や画像の形式、また出版物の宣伝等で使用する SNS や Web サービスについての話が多くなるので読者を選ぶ所。

 結論としては「自分が良いと思う漫画をコツコツ描き続けることが重要」と云うタイトルにあまり関係のない身も蓋もないところへ話が収束していくのですが、漫画と出版業界のあれこれが読めて良かったです。出版社はドル箱を求めていますが、ニッチな漫画にも需要はあり、そういう作品を世に出すためには電子も有効だよね、と。

JUGEMテーマ:小説全般
| 国内さ行(その他) | 23:08 | comments(0) | trackbacks(0) |
「青い鳥」重松清
評価:
重松 清
新潮社
コメント:学校に居心地悪さを感じている人はどうぞ

●本日の読書
・「青い鳥」重松清/新潮社


 この人、ほんと中学生なんじゃないだろうか。著者の重松清のことですが。

 八つの短編が収められた単行本です。中学校に通う生徒の孤独と寂しさに寄り添う吃音の教師、村内先生が登場する連作集となっています。いえもう重松清は職人技がすごくてどの本を読んでも安定して上手なのですが、自分と遥かに年齢の離れた小中学生の心理を描かせて上手なのはなんかもう不思議で仕様がありませんね。なんでここまで学校生活の居心地の悪さが分かるのか。その言葉の選び方一つ取っても実に適切で、ああこの気持ちはこの言葉で表現するんだなるほどなあと、ジグソーパズルが目の前でどんどん組まれて「学校という特殊世界」と墨書きされた絵が徐々に見えてくる感じで読み進めて仕舞います。そう、中学校って、中学生って、ほんと沢山のことを毎日やり過ごしていかなくちゃならなかったなあとしんどい気持ちになりました。

 個人的なことを言えばわたしは中学校までは勉強の成績が良かったので、あまりいじめとか孤独とかに起因する切実な状況に陥ったことが少ないのですが、それでも女子なので面倒な友だち関係とか部活のゴタゴタなんかは人並みに経験しております。いじめられるよりはいじめる方でしたけどね(当時を知る方々、まあ色々と言いたいことはあるでしょうけれどそこはそれ、一つ宜しく)。同じ教室で同じ授業を受けて違うことを考えている生徒たち。その中でも、いじめで追い詰められた人、いじめを黙認した罪悪感に苛まれる人、先生をナイフで刺した人、強引な友だちに巻き込まれて苦しむ人、そう云った学校生活の違和感に苦しむ生徒の前に、臨時講師の村内先生が現れます。「良かった、間に合った」と言いながら。

 村内先生は冴えない中年の男性教師で、何より吃音です。カ行とタ行の言葉が突っかえて「ででででも、たったたたた食べるのか?」と云った話し方で国語を教えています。教師なのに話すことが不得手。でも喋りが達者でない分、先生は大切なことだけを選んで話します。問題を抱えている中学生の「傍にいる」「寄り添う」それだけを解決策にして。

 確かに未成年の傍近くにいる大人は、家族の他には先生しかいません(人によっては親戚とか近所の人とかと親しく付き合える環境にいる人もいますが、都会じゃ稀かと)。表題作の「青い鳥」はいじめでクラスメイトを追い詰めた学級が舞台で、これが最も現代の問題点として大きいと思うのですが、わたしの心に残ったのは冒頭の「ハンカチ」です。学級会で吊し上げられた女の子が失語症になり、そこに同じく喋りに問題を抱える村内先生が臨時講師としてやって来るお話。話すことが困難、と云うことを共通項として織り込みながら、彼女が心の拠りどころにしている小道具、ハンカチの効かせ方も上手いし、結末も美しい。お手本のような短編小説です。学校生活に居心地の悪さを抱えている中学生各位、そして小中学生のお子さんを持つ親御さんにもおすすめの一冊です。阿部寛主演で映画化もされているみたいです。吃音の阿部寛は見てみたいなあ。

JUGEMテーマ:小説全般
| 国内さ行(その他) | 14:48 | comments(0) | trackbacks(0) |
「青空感傷ツアー」柴崎友香
●本日の読書
・「青空感傷ツアー」柴崎友香/河出文庫


 女性二人の、何も起こらないロードムービーのような旅小説。事件のない日常を全力で肯定しているので、読後感は爽やかです。旅に出るのは二人、超美人で強引な音生(ねお)と、面食いの芽衣(めい、語り手)が恋を失ったのをきっかけに仕事を辞めて貯金を使い尽くす、当てのない一ヶ月の旅空を描いたお話です。

 大阪からトルコ、徳島、石垣島まで、パックツアーを使ったり友人を頼ったりと行き当たりばったりのだらだらツアー。冒頭で恋人の二股が発覚し、振られたカタチの音生ですが、その気風のよい性格が幸いしてあまり湿っぽい話になりません。寧ろ、強引に付き合わされた芽衣の方が湿っぽい性格しています。文から想像されるに芽衣は平凡な容姿なのに面食いで、音生ほど行動力もなく過去ばかり振り返ってます。ああー、こんなん友達にいたら厭かも。

 音生は旅に際して過去の知り合い(友達とも言えない程度の薄い付き合いの)に気軽に連絡を取ってチケットや宿泊先を融通してもらいます。芽衣の視点で何度も音生の可愛さが描写されているので、そのいきなりな依頼が「美人だから許されるわがまま」に思われても不思議ではないし、そもそも美人は憎まれやすい(登場人物からも、読者からも)のにちっとも音生は嫌な人物ではありません。むしろ魅力的。それは恐らく語り手の芽衣が音生のことを好ましいと思っていて、芽衣フィルターを通して読者は音生と対峙しているために彼女を魅力的に感じるののではないか、とか考えましたがそんな回りくどい理由ではなく単に音生がカラッとした人柄であるため言動が嫌味に映らないんですね。

 対する芽衣は、読者視点だとそんなに魅力的な人物には見えません。芽衣は語り手であるため彼女を客観視した描写がないと云う不利もありますが、割とうじうじして流されるままの性格なのがその理由です。読みながら「何故、音生は旅の同行者に芽衣を選んだのか(言い換えれば、芽衣のどこに惹かれて友達やってんのか)」と云う疑問も持ったくらいです。これについては「たまたまそこにいて旅に付き合える境遇だから」と云う身も蓋もない理由ではなく、文中で言及されない芽衣の魅力を音生が感じていたのではないか、と思います。思いたい。

 上記のわたしの疑問については、旅の終わりの石垣島で音生の口からほんの僅かにそれらしい総括の言葉が出たりしますが、きちんとした理由を求めるのではなく「あー、女ってこう云うゆるい感じでも友達やってられるよなー、こう云うのもいいよなー」ってスタンスで読むのがいいかも知れませんな。んー、なんかまとまんないままだけど、単館系の映画見た感じの読後感。
| 国内さ行(その他) | 20:15 | comments(0) | trackbacks(0) |
「きみの鳥はうたえる」佐藤泰志
評価:
佐藤 泰志
河出書房新社
コメント:併録の「草の響き」がすごくいい。

●本日の読書
・「きみの鳥はうたえる」佐藤泰志/河出文庫


 四十一歳で自死した作家の初期代表作にして芥川賞候補作(結局その回は「該当作なし」)。「きみの鳥はうたえる」……タイトルの由来は THE BEATLES の「And your bird can sing」からですね。歌人桝野浩一の著書に「君の鳥は歌を歌える」と云うのもありますが無関係(こっちはこっちで、小説や漫画を短歌化すると云うおもしろい試みの本です)。著者の死から時間を経て、故郷の関係者が著者を再評価してもらうために復刊運動が盛り上がりわたしも著者を知るに至ったのですが、一九四八年生まれで団塊世代の方で、わたしの両親の世代の作家なのですね。もっと若いと思っていました。

「きみの鳥はうたえる」と「草の響き」の二編収録です。表題作は僕、そして彼と同居している静雄の間に佐知子と云う女性が入って来るけれど不思議なほどどろどろしない、妙な三角関係の青春小説ですが、書かれた時代が上記なので出てくる小道具、行動などが古びているのはやむを得ないところ。携帯電話など当然ないので連絡は固定電話と郵便です。ジャズ喫茶も隆盛を誇っています。ただそう云う背景を除いても主人公の心境や行動には得心がいかないところがあります。そもそも男性同士で同居って、家賃を浮かす為とはいえ何となくホモセクシュアルの匂いがして不思議(文中にはそのような描写は全くありませんし、そう云うのが普通だった時代なのかも知れませんが)。そして登場する佐知子について、主人公は一旦恋仲になりつつも、執着することなくいともあっさり手放します。二十そこそこの青年が一度は肉体関係を持った女性を単なる話し相手程度にしか認識しておらず、付き合ったとも言えない内に別れるなんて、よほど浮き世離れしているか、同居している静雄の存在が彼の内側に深く根差していてそれ以外の人間など不要と考えているかどちらかとしか思えないです。そうでないとしたら、なんか感情が歪な人だな主人公……。

 主人公の職場での暗い諍いや、佐知子が徐々に彼らの生活領域に馴染んで来る描写などは、短く潔い文章で活写されていますが、わたしはこの付かず離れずの関係に三人の内の誰一人として疑問を抱かないのが奇妙に思えました。男二人が女を奪い合ったり、女の方でもどちらかに惹かれて均衡が崩れて然るべきなのにそうならない。そこが特徴と言われればそれまでですが、全員別の方向に超然とし過ぎです。

 その点、併録の「草の響き」はとても良いです。精神を病んだ主人公が治療の一環としてランニングを始めるのですが、走りに沿って描写される風景は匂いすら感じられる風で、簡潔なのに芳醇です。最初はすぐに顎が上がって仕舞う主人公の「彼」は段々と走る距離を伸ばしスピードを速め、走ることそれ自体に目的を見出すようになる描写がいい。そして最終的にはもうひと巡りして走ることを通して心の病と自分がそれに罹って仕舞ったことを見つめ直します。積極的に人に関わらない「彼」が、走ることで少しだけ関わる人々の生活のかけらがまた良く描けていて、みんなそれぞれの人生の主役を生きていて、それぞれが絶対に侵されない領域を心に持って進んでいくのだなあと考えさせられます。読後に爽快感がある訳ではなく、全体的に暗い影の付きまとう話ですが、いい文章だなあと思います。こちらの話で出て来る友人の研二もなんか無私すぎてまた「ホモか?」とか思っちゃいますが、ここに異性を配するとどうしても筋が生臭くなるので、主人公を助ける存在でありながら深入りしすぎない同性の友人は(話が成立するために)必要なんだろうなあ、と思います。てか今回ホモホモ言いすぎやろワタシ。
| 国内さ行(その他) | 20:52 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ミノタウロス」佐藤亜紀

●出張中の読書2
・「ミノタウロス」佐藤亜紀/講談社文庫

 出張中になにやってんだ/移動中は本読んでました第二弾。前々から気になりつつ読んだことのなかった佐藤亜紀。ピカレスク(悪漢小説)と云うことで、庶民的な読後感想で申し訳ないが「この時代に生まれなくて良かったー、わたしも、家族も、子どもたちも!」と云うのがまずありきでした。男性だったら大体が死ぬし、女性だったら大体が犯されて、運が悪けりゃ死ぬと云う、死にまくりの話です。時代背景のせいかなあ、にしても死にすぎる気がする。

 話が残虐だとどうしてもそっち側に気持ちが引っ張られてしまうと云うか、嫌悪感が先に立つのですが、第一次大戦前後のウクライナ(付近)が舞台。地主の二男に生まれた主人公は放蕩で、何もなければ地主になる筈が戦争の影響で家がなくなり流浪のゲリラになります。主人公の独白で話は進むのですが、まあこの主人公が鹿爪らしく小難しいことを色々言いつつもうろうろしているだけで特に凄くも何ともない。解説には小説のリリックとしてよくある「信頼できない語り手」に対して、この主人公は「信頼できる語り手」であると述べられていたんですが、偉そうなこと言っておきながら凄くも何ともない人間って辺り、わたしはこの主人公を「信頼出来ない語り手」と受け止めて仕舞いますなあ。

 だって、主人公は高等教育を受けて趣味のいい小説を読んだりしている自分を庶民とは違う高い位置に置いて語っており、少年ゲリラになってからも自分以外を小馬鹿にした語り口ですが、どう見たってこの主人公、役立たずですから。運良く生き残っているだけですから。

 とは言え、物語の語り口は重厚で、深い知識でその時代を描ききっています。例えば、生活用品ひとつ出すにしても、この時代はどういう名前だったか、どういう材質でどの程度の生活水準の人が持てたか、と云ったことはよほどきちんと調べないと書けないと思います。そう云うこともさらっとした描写で知識の出し惜しみがない。武器にしてもそうです。この時期の東欧で威力を発揮した戦争用の道具は何か、兵士としては幼い主人公たちが生き残るにはどういう勢力圏内で誰に与し、どんな武器でどう戦うか、そこをごく自然に描いて読ませる筆力はすごい。

 物語の前半は家族、殊に兄との関係、後半は兵士として行動を共にするウルリヒと云う少年兵(のちにもう一人加わる)との関わりが強く印象に残ります。何だろう、この得体のしれない不気味さ。同じ人間なのに気持が交わらずそれぞれに生きていて、でも表面上は調和を保っている感じ。そこをあえて踏み込まず見る主人公の客観性(でもその視線が正しいかと云うと、最初に書いたようにわたしには「信頼出来ない語り手」に思える)。この物語の魅力を簡単には表現出来ませんが、なんかすごく気になる。読了後一週間経ちましたが、何かが心に引っ掛かったままです。

| 国内さ行(その他) | 05:40 | comments(0) | trackbacks(0) |
「一瞬の風になれ 第三部」佐藤多佳子
評価:
佐藤 多佳子
講談社
コメント:高校三年生。最後の大会、物語は完結へ。

●本日の読書
・「一瞬の風になれ 第三部 -ドン-」佐藤多佳子/講談社文庫


 こ、こ、ここで終わるかー。

 散々「文体が合わない」と言っていた割には第三部まで来ると慣れて来て、登場人物の大会記録を気にして仕舞うくらいには物語に入っておりました。最終学年、高校三年生の陸上生活を描いたシリーズ完結の一冊です。それぞれの大会の記述が密になり、主人公神谷と幼馴染でライバルの連の成長と心の変化が描写されます。主人公の身体が頑丈なのがいいですな! 怪我しそうにないし安心!

 確かに「走る」と云うのは非常にプリミティブな行動で、その速さを競う陸上と云う競技は、凡そ全てのスポーツ観戦にまるで興味のないわたしでも「全競技の原点」のようなものを感じます。ボールとか装具とか一切使わないで、肉体のみを武器にして誤魔化しの効かない速さを競う。世界で一番早いってどんな境地なんだろう。ぼやーっと考えます(すぐ止めるけど。想像出来ないから)。まあこの物語の中は関東地区大会が主な舞台なのでオリンピックとかそんなレベルでないですが、走ることの楽しさと厳しさの一端は感じられました。走るって、究極の競技だよなあ、うん。

 ネタばれにならないよう気を付けて書きますが、話は全ての大会が終わり引退するところまでは描かれていません。「一区切り」つくところまでです。が、切りのいいところなので先を想像させて終わる、と云う完結に不満はありません。ただ、もうちょっと先を読みたい、彼らの続きを知りたい、と云う欲は出ますな。あと結局恋愛とかそっち絡みの話は置いてけぼりになっちょる辺りも、もう少しだな、どうにか出来んものかと。

 それとここら辺は完全に個人の趣味による愚痴なんだが、主人公が大会前に意気を上げる為、BUMP OF CHICKEN とか聞いてんのがなー、もうなー、こっ恥ずかしくてなー、読んでて辛いのよー。いや、わたしもバンプ聞いてたことも過去もありますが(インディー盤とかの頃)、なんつーかド定番過ぎて青臭いのよぅ。照れるのよぅ。かと言って主人公がすんげぇマイナーなバンドの曲とか聞いてても作者の(バンドへの)思い入れか? とか勘繰って仕舞うし、つまりはこう云う時代を感じさせる固有名詞を物語に織り込むことについての危険性と好みの問題だわな。

| 国内さ行(その他) | 01:45 | comments(0) | trackbacks(0) |
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