書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

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「『ぴえん』という病」佐々木チワワ

●本日の読書

・「『ぴえん』という病」佐々木チワワ/扶桑社新書

この記事、個人的な感情を主に書くので感想と言うより自分語りです。最初に謝っておきます、すみません。

わたしは好きなものにのめり込みやすいオタク気質なのは自覚しているのですが、この本を先に読んだ配偶者が「妻や娘が持っているオタク病理と同じものを感じる」と言っており、聞き捨てならぬと概要を聞いたら「その人々はわたしと違う。わたしは同じ行動は取らない」と思ったので確認のため読みました。読了後やはりこの本に出て来る、所謂「トー横キッズ」とわたしや娘は違うと思いましたが、それを説明しても配偶者は納得してくれずモヤモヤが溜まる状態であります。

「トー横キッズ」とは、歌舞伎町のTO-HOシネマ横にたむろする若年層を指す言葉で、売春してホスト等に貢ぎ、額でマウントを取り合い、周りの興味を引くためリストカットしたり、稼げなくなると自分を見限るような、承認欲求が高く自己肯定感が低い若者のことです。まとめ方が雑ですみません。「ぴえん」は、悲しい時にも嬉しい時にも文脈によってどんな風にも使える(しかしそれを使用する世代間では感情が共有出来ている)という便利な言葉だそうで、中年から見ると「ヤバい」と同じだけど、それのもう少し叙情的な感じかと理解しています。

ホストの章を読んでいて、「数百万円貢がないと推しの特別になれないと分かった時点でゲームから降りられるかどうか」がトー横キッズ的存在になるかどうかの境目だと思いました。要は稼ぐために自分がやりたくないことをやれるかどうかということで、自己肯定感が高いかどうかが肝要かと。自己肯定感が高ければ、承認欲求もそれほど高くならないのではないかと思ってるのですが、のめり込んだらそれどころじゃなくなるのだろうか……。

事情は人それぞれなので、トー横キッズ的な考え方や行動に至らないため周囲の人や社会は何が出来るか、というところまでは踏み込まれていないのですが、子どもたちのSNSでのやり取りを把握しきれない以上やれることは限られていると感じました。無力感。既に「推しに貢ぐことが至上の喜び」という思考回路になっちゃっている場合は、その行動を咎められたり止められたりすると不幸だと思っちゃうから、いち母親としては子どもとよく話して意思を尊重する環境を作るしかないよなー。社会構造を変えるのはどうすればいいか分からない。買春する方のモラルが低いのは言うまでもないが、日本はほら、アレだからなあ……(考えるのをやめた)。

考え方や育ってきた文化が違うとは言え、自分の子どもはその世代として育つので、なんだろう、なんと言えば良いか分からんのですが、歌舞伎町界隈を「自分とは違う世界」と切り捨てて理解しようとしないのではなく、どうしてそういう考え方になるのかを考えることはやめてはいけないと思いました。

 

JUGEMテーマ:新書

 

| 国内さ行(その他) | 13:44 | comments(0) | - |
「しくじりから学ぶ13歳からのスマホルール」島袋コウ

●本日の読書

•「しくじりから学ぶ13歳からのスマホルール」島袋コウ(モバイルプリンス)/旬報社

 今年進学を機に我が子にスマホを与えたのですが、子どもがスマホ持った途端にLINEのプロフィールで自分の性別と年齢を明かしてるわ、ファンコミュで見ず知らずの人(多分)と友だちになってるわ、タイムラインで歌ってみた動画を上げようとしてるわ、同級生グループラインで軽いいじめが発生して担任から電話掛かってくるわ等々、入手一ヶ月で立て続けに「やったら危険なこと」の地雷を満遍なく踏み抜くということをしでかしましてスマホを取り上げました。ほんで子どももしばらくは大人しくしていたのですが、ある時気付いたら家の固定電話の番号が別のLINEアカウントに紐づけられており、その人のタイムラインに書かれている内容がどう見ても子どものもの。「裏アカ作った?」と問い詰めると「違う、知らない」と言う様が真剣そのものなので嘘はついていないだろうと考えて放置しつつアカウントの動向を夫婦二人無言で見守っておりましたが、書かれる内容と生活の様子がリンクしているのでどう考えても子どもの裏アカであろうという結論に。タブレットを取り上げて裏取りをしてから再度問い質すと、自分の裏アカであることを認めました。スマホ与えてから僅か一ヶ月半、学校でネットリテラシーの授業を受けていてもなんも分かっていないと分かり、夫婦で相当がっかりしました。いや、実際のところはネットリテラシーのことよりも、真剣に身の上を心配している親に平気な顔であっさりと嘘をつくということが最も衝撃でした。以降、子どもの言うことが嘘でないか全ての発言において疑うようになったので、やはり信頼関係って大切だよなあと思うこと頻りです。

 ということでこの本です。中高生が出会う可能性の高いネットトラブルが分かりやすい実例と予防法と共にまとめられています。ネット情報の引用や無断転載とまとめサイトの問題点、確証バイアス、SNSでの炎上各種(ネットリンチ、バカッター、トーンポリシングの問題点)、ネットの知り合いと会うリスク、リベンジポルノ、アフィリエイト収入、アプリゲームの中毒性などなどなど。子どもたちに「これ課題図書。読んでね」と渡しつつ、自分も改めてこういった出来事の問題点をおさらいして、子どもに尋ねられたときに正しく答えられるようにしようと思いました。

 

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| 国内さ行(その他) | 11:10 | comments(0) | - |
「私がオバさんになったよ」ジェーン・スー

●本日の読書

・「私がオバさんになったよ」ジェーン・スー/幻冬舎

 わたしが大好きジェーン・スー。過去に対談したことのある色々な人ともう少し突っ込んだ話をする対談集です。面白かったのは冒頭二篇、光浦靖子との対談と山内マリコとの対談です。

 光浦靖子対談は一番内容に頷けて、体感的に良く分かった。老化のこととか、女性の相貌のこととか。対談で出てきた「弁の立つババア」って表現いいなあと思う。

 山内マリコ対談は、山内さんが富山県出身の作家ということと最近のフェミニストとしての作家活動が好きなこともあり、東京VS地方都市とか、貴族階級(比喩)と庶民のヒエラルキーとかの話を興味深く読みました。

 全体通して思うのは、それが目的とはされていないかも知れないけれど、この対談集に通底して流れる「ジェンダーのはなし」感。人数が少なかった女性芸人としての立ち位置とか、「女の敵は女」にしておくと男に都合が良いからそれを破る創作をしていることとか、男性学視点から社会を見ると女性差別は男性の抑圧と同時に解消されなくてはならないとか、稼ぐ方に発言権が偏るのであり性差ではないとか、とか、とか。

 わたしは女性比率の低い工学部卒であり、現製造業勤務であることから、日本における女性の生きにくさについて考えることが良くあるのですが、それは男性非難というかたちで現れることが多いです。男性の生きづらさを主張されたところで「てめえらの履いてる下駄の高さを見てから言えや」と思うし、女性ならではの意見を言えと言われれば「はあ? なにそれ美味しいの?」と思うし、とかく男性攻撃に傾きがちなんですよ。多分それは工学部時代からずっとマイノリティとして抑圧を受けていたという記憶があり、その反動で全方位に対してとかく喧嘩売るようにしか動けなくなってしまったためです。ですがこの対談集を読んで、女性の抑圧を解くには男性性が求められることをなくするということとセット、との視点が生まれて、良かったです。具体的に何か出来るかというと難しいけれど。

 

JUGEMテーマ:ビジネス書

| 国内さ行(その他) | 14:52 | comments(0) | - |
「女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。」ジェーン・スー
評価:
ジェーン・スー
文藝春秋
コメント:あなたはわたしですか(本日5回目)

●本日の読書

・「女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。」ジェーン・スー/文藝春秋

 

 旦那が一言「あなた、ジェーン・スー好きだよね」。ええ好きです、大好きです。ジェーン・スーは冴えない中年女全員の、無条件で絶対的な味方です!

 って北陸の冴えない中年女に同一視されても迷惑でしょうけど、だって年の頃も近いし自意識の過剰さとか、なりたい自分になれてないこととか、そのくせそうなれている女に対する「気にしてないよ」の振りしながら内心歯噛みしているところとか全部わたしだもん。わたしだって可愛いって言われたかったし、茶髪で巻き髪にしてピンクのスーツ着てOLやってみたかったし、「何も特別なことしてないよ−」とか言いながら肌を褒められたかったし、モテてみたかったさ! 無理だったけど!

 わたしは自分の取り得るべき最良の道を選んで来たので今の人生に後悔はないんですけど、別の生き方、そしてそれは女性誌でロールモデルとされるような女性としてのモテ人生とニアリーイコールな訳ですけど、そんな道があったんじゃないかとぼんやり思うんですよ。図々しいとか言わないで下さいな、多くの非モテ中年女性は一回はそゆこと考えてると思います。そしてそれを上手な表現と様々なトピックからの切り込みで余すことなく表現しているのがジェーン・スーです。オーガニックへの微妙な距離感とか、カラオケでの選曲とか、コーラスラインのサントラ聞いてやる気を上げるのとか、赤い口紅が似合わないこととか。ああああなたはわたしですね。あ、でもわたしはまだスタバのストロベリーモカなんとかフラペチーノとかはまだキツくない、食べきれる。途中で飽きるけど。

 後書きに相当する「結びに代えて」から一部引用します。

「世間の都合で勝手に定義された女の形に反発しながら、私はその形にぴったり嵌まる自分をどこかで夢見ています。年を重ねることを受容しながら、私は指の間からこぼれ落ちる若さをやや感傷的に眺めています。(中略)

要は、世間の「女」としての基準をクリアした上で、「人」として他社と差別化を図りたいと願っている。」

そうなんです、結局そこ。自分が主人公の物語で、よりよく生きたいだけだけど、どうせなら他人からの評価も受けたい。自分の人生を自己評価だけでなくて周りから褒められることでしか肯定出来ないとい云う構図をきちんと見せてくれる。辛い、辛いけど、その通り過ぎる。

 てことでわたしは今後も新刊が出たら読んで、自分の醜い自意識を、ジェーン・スーの本で言語化して貰い、勝手な共感を感じてつかの間の自己肯定を行うのでございます。

 

JUGEMテーマ:ビジネス書

| 国内さ行(その他) | 16:31 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ピンヒールははかない」佐久間裕美子
評価:
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幻冬舎
コメント:女性がニューヨークで一人で生きていくこと

●先週の読書

・「ピンヒールははかない」佐久間裕美子/幻冬舎

 

 この本を手に取ったのは、著者とどなたかの対談をネット上でふと目にし、その記事は断捨離関係だったと思うのですが「以前東京でお会いした時には編集者としてバリバリ働いてお洒落だった佐久間さんが、ニューヨークでさぞお洒落な生活を送っていると思っていたらすっきりシンプルになっていて……」みたいな文脈で、記事の末尾に著者新刊として本書がリンクされていたのが、ある時「そう言えばこの前この書影見たな」と思ったからです。相変わらず片付けとか断捨離には、それが達成出来ていないからずっと興味を引かれ続けている格好のカモなわたしでございますな。しかし別に本書は片付けとかすっきりライフスタイルとかの本ではなく、どちらかと云えばジェンダー関係のエッセイ集です。

 

 ニューヨークではシングル女性でも日本ほど生きにくくない、ステレオタイプのライフスタイルを強要される雰囲気が薄いと云うことが全編通して感じられます。著者は離婚歴がありますが、別に「再婚しないの」とか「一人で寂しくない?」などと尋ねられることはなく、自分がしたいことを自分の力で実行して、良い友人に恵まれて彼女らの生活を通して自分を見つめ直して更に QOL を向上させている、素敵な人だと思います。人によって幸福の形は違うから、類型に当てはめてそうでない人を「幸せじゃない」と邪推したりそれを口に出したりするのはいくない。わたしもいつもやっちゃって後から滅茶苦茶後悔すること良くある。結婚してなくても子どもがいなくても愛の対象がどういう性別でもそれに頓着しない雰囲気が、アメリカにはある。

 

 多分わたしは日本の窮屈な価値観でずっと生きていて、多分そこから一生自由になれないままだし不自由とすら思わないで生きて、色んな人に失礼なこと言ったり傷付けたりして過ごして仕舞うのだけれど、著者のようなフラットで自分と周りを大切にすることを動機とした行動力はいいなと思います。

 

JUGEMテーマ:ビジネス書

 

| 国内さ行(その他) | 15:56 | comments(0) | trackbacks(0) |
「バーナード嬢曰く。」施川ユウキ
評価:
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一迅社
コメント:最初は「名言集」から始まったんだけど、転じて本全てを扱うようにしたのは正解。作者のコラムが読ませる。面白い。

評価:
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一迅社
コメント:暴力的だった神林しおりが町田さわ子にデレ始める二巻はこちらでございます。

●本日の漫画
・「バーナード嬢曰く。(1)(2)」施川ユウキ/一迅社


 漫画です。本好き、就中、SF 好きに強くお勧めしたい。正直絵はそんなに好みのものではないのですが、それを補って余りある「本好きあるある」「SF あるある」っぷり。一巻で敬遠した人いたら無理してでも二巻読んで。二巻断然面白いよ。絵も上手くなってるし。

 高校の図書室を舞台とした本書の登場人物は四名。主人公のバーナード嬢(自称)こと町田さわ子は人から読書好きに見られたい割に殆ど本を読まないぐうたら娘。その町田さわ子を観察する遠藤君(少し前のベストセラーを読むのが趣味)、遠藤君に恋する図書委員のちょっと小太り長谷川スミカ(シャーロキアン)、そして本物の読書家で SF をこよなく愛する神林しおり。この四人の、本絡みのぐだぐだ高校生活を描いた漫画ですが SF 好きは読め。神林しおりの長セリフ読め。

 町田さわ子が自称している「バーナード嬢」は「ピグマリオン」を書いた劇作家のバーナード・ショーをもじっているのですが、彼女がピグマリオンを読んでいる筈は当然なく、通っぽい読書家と見られたいがためだけの名乗りです。そう云う自分演出をする町田さわ子は嫌なやつかと云うとそうではなく、欲望に忠実で限りなくアホなので愛嬌があっていいです。

 そして神林しおり。ガチの読書家の彼女の存在なくしてはこの漫画は語れません。しおりは町田さわ子が能書きばっかり垂れて読んでもいない本をさも読んだように語るのを許すことが出来ず、よく殴ったりシメたりアイアンクローしたりしています。

町田さわ子「(SF 10 冊読んで)SF は、大体わかった」
神林しおり「わかるかぁ!! 『異星の客』も『月は無慈悲な夜の女王』も読んでねえんだからハインラインすらわかってねえよ!!! 『SF 語るなら最低千冊』! ムリでもせめて普通に本屋で買える青背全部読んでから言え! 」(テーブル引っ繰り返しながら)

ここで青背がハヤカワ文庫(SF が充実。つか国内で SF っつったらこの文庫しかない)を指すと分かる人がどれだけいるかのう。因みにわたしが一番好きな神林しおりのセリフは二巻 32 ページの下段です。敢えて抜粋しないんで読んでみて下さい。

 こんなこと書いてるとわたしめっちゃ SF 読んでる感じに見えるけど、「夏への扉」「星を継ぐもの」「幼年期の終わり」「モンゴルの残光」「虚行船団」「華竜の宮」「虐殺器官」くらいしか読んでないのよね。ただ父親が SF 好きなので、今本棚に並んでるハヤカワ文庫数えたら簡単に 100 冊越えてて勝利感に溢れてる。ハイペリオンもリバーワールドもデューンもあるよ、アーサー・C・クラークとハインラインと J・P・ホーガンとディックとアシモフが豊富にあるよ! 読んでないのに万能感、町田さわ子病。しおりちゃんに殴られる YO!

 SF にばっか特化して感想書いちゃったのですが、村上春樹や KAGEROU、宮沢賢治からホームズシリーズに至るまで細かく手広くネタにしているので、いつか三巻出たら買います。

JUGEMテーマ:漫画/アニメ
| 国内さ行(その他) | 01:15 | comments(0) | trackbacks(0) |
「私たちがプロポーズされないのには、101 の理由があってだな」ジェーン・スー
評価:
ジェーン・スー
ポプラ社
コメント:ジェーン・スーと愉快な未婚のプロたち

●本日の読書
・「私たちがプロポーズされないのには、101 の理由があってだな」ジェーン・スー/ポプラ社


 ジェーン・スーと愉快な未婚のプロたちの、抱腹絶倒自己分析記録。

 さてさて読みましたよ「私たちがプロポーズされないのには、101 の理由があってだな」! 「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」読んだ時に予告した通りだぜ! このタイトルの付け方がもう神業ですよね、言葉の選び方があざといなあ(褒め言葉ね)。相変わらず冴えわたる考察と斬れ味鋭い書き筋、そして女性ならきっと頷く抱腹絶倒の客観的描写をご覧じろ。

 適齢期過ぎて結婚していないことに「未完成な自分」と「あるかも知れない幸福への憧れ」を抱きつつ、独身生活を超絶エンジョイしている未婚のプロたちからのリサーチをまとめて、自分が結婚出来ない=プロポーズされない 101 個の理由を書き下ろしてあります。指摘はいちいちもっともで、体裁も一項目見開き二ページで読みやすい親切設計。著者とその友人たちである未婚のプロは男女共同参画の時代に生まれ育った古い言葉でいうところのバリキャリで、女性であってもガッツリ稼いで仕事では男性と対等に渡り合える、能力も生活力も非常に高い女性たち。つまりは結婚しなくてもやっていける人たちなのでありまして(勿論それも 101 の理由の中の一つだぞ。「077 正直に言えば、一人で生きていける自信がある。」)、だから男性から下に見られることや庇護されることにものすごく警戒心が強くて無意識に打ち負かそうとしたり(075 どうでもいいことでも、勝つまで口論してしまう。)、でもプロポーズされないことに焦って弱い自分を演じてみたりする(044 彼に花を持たせようと、力不足を演じたことがある。)、そんな愛すべき女性たちです。そして同じように全てを笑いに変えられる、いい女友達に囲まれている。だから独身生活が楽しくて結婚しなくても生きていけちゃう(101 病めるときも健やかなるときも、バカ笑いが出来る女友達に囲まれている。)。

 101 の理由はあとがきで更に 10 の属性に分類されているので、この本を指南書として読むのであればそのあとがきと目次の項目を読めばいいっちゃいいのですが、この本の魅力は破壊力の高い本文のドライブ感。私たちがプロポーズされないのには、女性側にも原因があるけれど男性側にもしちめんどくさい原因がある! ああ色々と思い当たるさ! 本書を読んで学習したわたしが乱暴にまとめてしまうと、男性は女性より優位に立ちたいし決して自分を上回って欲しくない。そしてロマンチストで繊細。だから強い女にはプロポーズする気にならない。更に脳構造の違いに起因して、女性はマルチタスク型だけど(例:テレビ見ながら雑誌を読んで友人と電話で会話し、全ての内容を破綻なく理解出来る)男性はシングルタスク型で(テレビ見るとき話しかけられると不愉快になる)、女性が自然に出来ることについて「なんでこれ出来ないの」「この前言ったよね?」等と言われるとカチンと来るし、そもそも何の話をしたのか覚えてない(テレビ見てたから)。女性は女性で、男性に安定した収入や今の自分の生活レヴェルを落とさないことを無意識に要求しちゃうので、そりゃ男性は引くよね。安定収入ある女性はどんどん自分の好みとこだわりにお金を注いでハイメンテナンスの女となり「こいつ養うの金掛かるな」と男をドン引きさせるわけです。ああすれ違い。

 あのですね、女性側の対策としてはこれだけ守って下さい。「女友達にしない/言わないことは、男にしない/言わない」 これ守ればプロポーズされます。女性はコミュニケーション能力が男性よりも高い(と言われている)ので、女性同士の関係を維持するのにはほぼ無意識のとっさの判断で相手を不快にさせない言動を取れるのです。それが恋愛の絡んだ異性相手となるとこの能力が発動せず、自意識過剰で自分本位になるためにプロポーズされないのです。ってジェーン・スーは言ってます。納得。

 一番面白かったのは「079 『アルマゲドン』を観て泣いている彼を、バカにした。」ですね。笑っちゃ駄目なんですよあの映画で。例え宇宙空間でド派手な爆音が響こうとも、布がなびこうとも、彼はブルース・ウイリスの自己犠牲ストーリーにロマンチシズムを感じて感動している真っ最中なので「真空だから音する訳ないよね」って言っちゃ駄目だったんですね。わたしは言っちゃったがな!

 ハイミス(死語)の女性を見る視点の鋭さでは「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」の方がお勧め出来ますが、こっちもこっちで笑えます。独身は麻薬、シングルイズジャンキー!
 
JUGEMテーマ:小説全般
| 国内さ行(その他) | 03:01 | comments(0) | trackbacks(0) |
「コルシア書店の仲間たち」須賀敦子
評価:
須賀 敦子
文藝春秋
コメント:イタリア、一つの時代の始まりと終わりを。

●本日の読書
・「コルシア書店の仲間たち」須賀敦子/文春文庫


 エッセイストとして名高い方ながら著作を拝読したことなく、同じく「いつか読みたい在外エッセイスト」であった米原万里を次々と読んだので、次はこちらを。タイトルから想像するに、イタリア在住の作者が通った書店で見聞きした出来事を綴ったものかとページを開くとちょっと趣が違っていました。コルシア・ディ・セルヴィ書店は「書店」の体裁ではありますが、キリスト教左派の神父が教会の軒先を借りて開いた書店で、神学や思想の本も出版する書店。わたしの受けた印象で言えば、そこは書店と言うよりも政治政党の事務所、いや、サロンのような場所です。

 体格が良く豪快で滝のように笑う詩人で、書店設立の中心的人物であるダヴィデ神父。小柄ながら人を圧倒する気高さと厳しさを持つ書店のパトロン老婦人ツィア・テレーサ。寡黙で明晰で書店の経営実務と出版を担うカミッロ。豊かな家の出で書店の経営にバランスをもたらした折り目正しい女性ルチア。奥ゆかしい性格で後に筆者の夫となるペッピーノ。その他色々なイタリアの人々が書店に滞在したりまた通り過ぎたりしていくのですが、多くの思い出がそうであるように、筆者はその光景や状況を印象深い断片のみ覚えていてその時のことを遠い出来事として少し寂しい雰囲気で綴ります。

 そう、このエッセイは全編寂しい。

 それは描かれた出来事が既に遠く過ぎ去った三十年前のことであることも関係していると思うのですが、時系列に則って後に行くに連れ、書店は時代の波に晒されてそのスタンスを変えざるを得なくなったり、中心人物であるダヴィデ神父がミラノを追放されたり、集う人々の足並みが合わなくなっていったりするのを著者と一緒に眺めている寂しさが漂っているのだと思います。政治と時代は切り離せないとは言え、著者が文中で言っているように、当時は全員が真剣にユートピアの構築に取り組んでいたにも拘らず、振り返って見ればそれは壮大なごっこ遊びだったように思えることも一つの理由かも知れません。小さな団体が国を変えようと働き掛けることで何かが変わることが非常に稀であることを、我々はとっくに知っています。そんな寂しさ。

 全編通した印象がそうだとは言え、一つ一つのエッセイの描写は品があり言葉の選び方も上手で美しく、知的な文章です。ただ個人的な事情を挟めばわたしは既に同じイタリアを舞台にした素晴らしい文を紡ぐエッセイスト、内田洋子さんの本と出会って仕舞っており、そちらの観察眼鋭いウイットに富んだ物語のようなエッセイに惚れて仕舞っているので、どうも点が辛くなって仕舞います。端的に言えば内田さんのエッセイの方が好き。勿論須賀さんのエッセイも読んで損はないと云うかむしろ読んでとお勧め出来る美しさですが、まあ好みってそれぞれですし。

 あー、ドイツでこんな美麗な文の生活に密着したエッセイ書かれたのってないかな。ドイツ大好きなんだよー。ドイツ在住作家って多和田葉子さんしか知らんのだけど彼女は幻想純文学だし、だれかドイツエッセイ書かれたのあったら紹介してー(完全に蛇足)。

JUGEMテーマ:小説全般
| 国内さ行(その他) | 23:57 | comments(0) | trackbacks(0) |
「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」ジェーン・スー
評価:
ジェーン・スー
幻冬舎
コメント:おもろい。アラフォー女子必読。

●本日の読書
・「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」ジェーン・スー/幻冬舎


 いっやこの人めっちゃ筆が立つわ。上手いこと書くわ。女性が女子と云う側面を抱えつつ加齢して女子の枠からはみ出ていく様を余すところなく描き切っており、読んでいて滅茶苦茶面白いし当たりすぎてて膝を打つ。まずタイトルがいかす。「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」。あなたもあたしもそう言いたくなることあったでしょ過去に何度かさあ。四十代向けの女性雑誌が創刊されてその表紙に「いつまでも女子」って大書されたキャッチコピー見た時に「貴様いつまで女子でいるつもりだ」、と。

 著者はれっきとした 41 歳の日本人女性で、作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。本書はブログの記事に加筆修正したものと書き下ろしで構成されています。工学部出身で自分の女性性と過去何度となく衝突したり和解したりを繰り返して生きてきたわたしにとって彼女の書くことが的を射すぎていて頼もしいです。言い回しが面白くて何度も蛍光ペンで線引こうかと思って仕舞いました、妹から借りた本だからやんなかったけど。曰く「(自分の容姿をして)片桐はいり村、一番の美人」とか「(突然の恋を待ちわびる状態を指して)あのドラマが終わって二十年以上経っても、まだ性懲りもなくチュクチュン♪ と「ラブ・ストーリーは突然に」のイントロを脳内で鳴らし続けている。」とか「(笑顔が不自然な自分の写真に)少し快活な地蔵といったレベルです。」……あああ、こうして抜き書きしていても分かって貰える気がしない。

 著者の身の回りのことから話をアラフォー女性のあるあるに敷衍していく展開は見事ですが、あくまで個人的なことから出発するエッセイなので、ジェンダー論として社会一般をばっさばっさ斬る論調ではありません。そう云うのは上野千鶴子先生にやって頂きましょう。ジェーン・スーには身の回りのやるせない、うまくいかない、トホホ(死語)なことを分かりやすく面白い言葉で解説して頂きます。

 特に好きなのを二つ。キリンジへの思い入れと堀込泰行脱退について書かれた「来るべき旅立ちを前に」。一方的に振られた大失恋から立ち直る際にキリンジの曲を貪り聞き歌詞を読み込み関連メディアをくまなくチェックしてどうにか生きていた著者はキリンジに「借りがある」と書き、恋人が別れを切り出すこととキリンジから弟が抜けることをクロスオーバーさせて「告げられる方は唐突だけど、告げる方は着々といろいろ進めてんだよな。」と看破する。

 もう一つは女性が企業内で上手くやっていく著者なりの悟りを書いた「とあるゲームの攻略法」。会社の男性の勤務スタンスには色々あり、やる気十分で男性並みに奮闘する著者がどうしても理解出来ない「役立たず男性社員」を理解しようと努めた末に悟った真理について。働くことを「ゲームに参加する」と捉えると、結婚や出産でのゲーム離脱が容認される女性に対し、男性はゲームから離脱する(会社を辞める)ことが社会的に落第の刻印を押されることと直結しているため、野心や目標がなくてもゲームに居座り続けることが重要であると考えたもの。色んな男性社員への振る舞いパターンなど書かれていて面白いです。

 前作「私たちがプロポーズされないのには、101 の理由があってだな」も読みたい。←後日追記。読んだのでリンク貼りました。

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| 国内さ行(その他) | 01:14 | comments(2) | trackbacks(0) |
「電子書籍で1000万円儲かる方法」鈴木みそ・小沢高広
評価:
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学研パブリッシング
コメント:出版社及び漫画業界の話が面白かった

●本日の読書
・「電子書籍で1000万円儲かる方法」鈴木みそ・小沢高広(うめ)/学研パブリッシング


 うーん、興味深い本だったけれどタイトルと内容はいまいち合っていないかと思います。検索等でこの記事に辿り着き読んでおられる方は著者をご存知だったり電子書籍に興味がある、またはもう持ってる読んでる、そして電子に親和性が高い人だと思うのですが、そうでない方は著者を知らなかったりするんでしょうかね。お二人とも漫画に携わる方で、鈴木みそはファミ通の「おとなのしくみ」や講談社ブルーバックスの「マンガ化学式に強くなる」「マンガ物理に強くなる」を読んで知っており、共著の小沢さんは「うめ」名義の漫画家の原作担当で日本初のマンが電子書籍「東京トイボックス」の出版をニュース記事読んで名前だけ知っていたので著者買いです。嘘。Kindle で 1,512 円の本を 100 円でセールしてたから買った。

 タイトルだけ読むと広義の電子書籍(漫画も小説も)を売っていく為にどのような戦略、宣伝を行えばいいかを解説してある本に思えますがさにあらず。漫画業界とそれを取り巻く出版社のスタンスや、漫画家は今後どうあるべきかについての対談集です。小説を電子書籍にして儲けようと画策している人が読んでもあまり参考になりませんが、漫画で戦おうという人には役立つ情報が載っています。じゃあなんでこう云うタイトルになっているのかと云うと、鈴木みそ氏は出版社を通した紙媒体のコミックスを出していますが、同じ作品の電子版はセルフパブリッシング、つまり出版社や取次を通さずに自分で作成して販売しており、2013 年の売り上げが電子版のみで 1000 万円を超えたことが話題となったことに由来しているタイトルなんですな。だから 1000 万円儲ける方法が書かれていると言うよりも、既に一定の読者を得ている鈴木みそだからこそ儲けが 1000 万円の大台に乗った訳で、普通の人がここまで出来る訳じゃない。

 とタイトル詐欺について書きましたが、内容は面白かったですよ。

第一章:マンガ業界こそ究極の“ブラック”だった
第二章:「脱・出版社」を実現する IT サービスの進化
第三章:電子書籍時代の新・マンガ家入門
第四章:ネットで売れるマンガ家・クリエイターとなるために
第五章:これからのマンガ家が取るべき進路とは?

特に一、二章。漫画を雑誌に連載するに際しての「連載契約書」って存在しないとか(もしそれがあると編集部は打ち切りが出来なくなる)、出版社はまだ紙の本の方がデジタルより偉いし電子書籍で儲けが出ると思っていないから著作権については規定を定めていないとか、だからみそさんが出版社に内諾取ってセルフパブリッシングで自作を売ることが出来たとか、漫画は画像データだから昔のネット通信環境だとダウンロードにすごく時間がかかったからマンガをネットで売る/読ませるって現実的ではなかったとか、かといってパッケージソフト化して売るとどのソフト上で動くかと云う問題が発生し当時はまだそこまで使い勝手の良い画像読みソフトが定まってなかったとか、過去から脈々と続くマンガと電子のお話がマニアックにてんこ盛り。

 そう、マニアックなんですよねこの本。結局 Amazon が KDP(Kindle Direct Publishing、即ち自分でデータ作って申請すれば誰でも電子書籍を Amazon で販売出来る仕組み)でばーっと道を作って、日本でも漸く電子書籍で本を読む環境が整った訳だけどまだ紙の漫画に比べれば全然マイナーで、でも作家はそこに対しても鋭敏でいるべきであると、そんな感じの論調です。三章以降はデジタルで漫画を描くソフトや機器についての話や画像の形式、また出版物の宣伝等で使用する SNS や Web サービスについての話が多くなるので読者を選ぶ所。

 結論としては「自分が良いと思う漫画をコツコツ描き続けることが重要」と云うタイトルにあまり関係のない身も蓋もないところへ話が収束していくのですが、漫画と出版業界のあれこれが読めて良かったです。出版社はドル箱を求めていますが、ニッチな漫画にも需要はあり、そういう作品を世に出すためには電子も有効だよね、と。

JUGEMテーマ:小説全般
| 国内さ行(その他) | 23:08 | comments(0) | trackbacks(0) |
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