書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

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「犬婿入り」多和田葉子
評価:
多和田 葉子
講談社
コメント:エロい。劇画っぽいグロすれすれ故のエロさ。

●本日の読書
・「犬婿入り」多和田葉子/講談社


 表題作で著者は第 108 回芥川賞を受賞しております。1993 年受賞? 22 年前? もうそんなに前か。割と最近受賞したと思っておりました。当時、報道を見て「芥川? 作家キャリアがこんなに長い人に? 直木じゃなくて?」と思ったのを覚えております。本作は中篇「ペルソナ」と「犬婿入り」の二本が収録されていて、「ペルソナ」は芥川賞にノミネートされながらも受賞を逃しております。「犬婿入り」の選評を読むと「『ペルソナ』の方が良かった」と云う意見が散見され、そんなら「ペルソナ」に授賞しろよと思いますね。まあ他の作品との絡みもありますが。

 それはさておき。

 著者の小説を分類するとしたらわたしは幻想文学の箱に入れます。「ペルソナ」は日常の話を描いているんだけれど、何かこの世の話でないような、生々しい明け方の夢のような妙な雰囲気の話です。日常を描きながらどことなく幻想的な印象の小説と言えば小川洋子が有名ですが、あの静謐で清潔な世界観とはまた異なった、奇妙にねじれた感じが魅力です。「ペルソナ」は弟と一緒にドイツへ留学している姉を主人公として展開される話ですが、登場人物が文中に現れて少し語られると、いつの間にかその場面に出て来る別の人物の話にすり替わっており、そう言うのが延々繋がっている話です。主人公の日常に新たな登場人物が現れては気付かれぬうちに去り、現れては去り、で、なんか朦朧としている内に話は終局を迎えます。ってこんなこと書いているとこの話の魅力が全然伝わらない。主人公の道子は感情の起伏があまりなく、自分の周りのドイツ人や韓国人、日本人をとても遠いところから自分と相いれない不思議な存在と見ているような表現で描かれます。物語中の道子は特にそうも思っていないかも知れませんが、読者は道子が浮世離れしているように感じます。別に大きな事件は起こりませんが、この雰囲気は好きです。

 対して「犬婿入り」は更に変な話です。超常現象的色合いが濃い。「民話や伝承の異種結婚譚と言えば『つる女房』が有名だけど、『犬婿入り』って話もあるのよ」と小学生の生徒に奇妙な話を吹き込む個人塾講師、みつこが主人公です。団地内で妙な信頼感を持って存在するキタムラ塾。講師の北村みつこは得体の知れない中年女で、勉強もちゃんと教えてるんだか教えていないんだか分からないけれど小学生たちがそこに通いたがるのは、先に描いたような変な話をみつこが時おり話すから。「犬婿入り」の話はと言えば、ずぼらな召使がお姫様が用を足した後の世話をさぼりたくて「お姫様のお尻を舐めて綺麗にしてあげたら、いつかお姫様と結婚出来るよ」と犬に吹き込んで世話をさせていたと云うエログロな始まり方をします。長い話の顛末は子どもによって変わり、ある子は犬と姫が結婚すると言うし、ある子は犬は撃ち殺されたと言う。この伝承の雰囲気がそのまま「犬婿入り」の話全編を貫いています。てゆうか親としてはこんな先生嫌だけど、子どもは怖いもの見たさと言うか、蓮っ葉な大人の魅力にはまるだろうなあと思います。

 そんなみつこのところにある日突然さわやかな男が転がり込んで来ます。でもよくあるラブストーリーでは全然なくて、男はみつこの身体のにおいに異常に執着し、昼は寝ていて夕方にみつことまぐわい夜は外出する生活をします。みつこに挿入した後すぐに抜いてもやしを炒めたりします。みつこの肛門をぺろぺろ舐めます。変。

「犬婿入り」の話が読者の脳裏をよぎります。

 カタルシスとか分かりやすさを求めてこの著者の話を読んでも報われないけれど、わたしはこの「変なのに確固とした」著者の世界が好きです。話の好みでいえば「文字移植」の方が好きですが、文字移植の方が訳わかんないので、少し興味がある人だったら「犬婿入り」の方がいい、かも(読む人を選ぶので勧めにくい)。

JUGEMテーマ:小説全般
| 国内た行(その他) | 01:19 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ほぉ…、ここが ちきゅうの ほいくえんか」てぃ先生
評価:
てぃ先生
ベストセラーズ
コメント:かわいい。子どもも、先生も。

●本日の読書
・「ほぉ…、ここが ちきゅうの ほいくえんか」てぃ先生/KKベストセラーズ


 かわいい。子どもも、先生も。保育園の若い男性保育士てぃ先生の、時に笑いを誘い、時に心温まるツイートの数々は本を読む前からいくつか目にしていたのですが、この度書籍にまとまったと云うことで改めて通して読んでみました。いやあ、子どもは可愛いねえ。そして独身であることを園児にもからかわれて苦笑しているてぃ先生も可愛い。保育にまじめに取り組み、そして子供のことが大好きな先生なんだろうなあと思います。自分が子どもをしょっちゅう怒鳴りつけていることを鑑みて反省。

 本の構成は各子ども毎に章分けしてあり、扉でその子どもの特徴や傾向を紹介し、彼や彼女の日常の出来事を対話形式で書いてあります。わたしはツイートの方を先に見てその書き方が面白いと思っていたので、このような対話形式に直してあるのがすこーしだけ残念でした。でも面白いことに変わりはないんですけどね。

元ツイート
散歩先の公園で遊んでいたら、ベンチに座っていたおばあさんが「カッコいい先生ねぇ」と話しかけてくれて、内心「(えへへ)」なんて照れていたんですけど、それを聞いていた女の子(5歳)が「でも かのじょ いないんです」とすかさず入ってきたので、本当よくできた子だなって悲しくなりました。

書籍収録
 公園で遊んでいると、知らないおばあさんに先生が話しかけられました。
おばあさん「カッコいい先生ねぇ」
先生(照れながら)「いやいや、そんなことは……」
うめ「でも かのじょ いないんです」
 すかさず会話に入り込んでくる出来の良さに、「さすが」と感心するとともに、「余計なお世話!」とツッコみたくなりました。

 なんとなくツイートの方が文字数制限あることもあり、ドライブ感がある気がします。

 章の合間合間にちょっとした育児アドバイスも入っていて、楽しめる一冊でした。子ども可愛いなあ。そしててぃ先生に良縁がありますように!
| 国内た行(その他) | 17:46 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ドミトリーともきんす」高野文子
評価:
高野 文子
中央公論新社
コメント:科学者たちの著作へいざなう玄関のような漫画

●本日の読書
・「ドミトリーともきんす」高野文子/中央公論新社


 科学者たちの業績、著作へのガイダンス漫画です。売れているみたいですな。

 とも子さんは娘のきん子ちゃんに語って聞かせます。
「100 に近いくらい上の、大昔の科学者さんたちがご近所にいたら、こんにちは、ごきげんいかが、って声をかけてみたいわ」
そしてとも子さんは想像を膨らませます。とも子さんときん子ちゃんは母娘ふたりで下宿屋さんをまかなっており、そこに学生さんを住まわせています。寮生さんは、朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹の四人。彼らの功績は衆人の知るところですが、彼らのエッセイや著作はあまり広く読まれているとは言えません。四人の自然科学上の発見から少し脇へ逸れて、思い出や日々雑感を綴った著作をひも解き、漫画を入り口として読者を彼らが綴った言葉の世界へといざないます。

 漫画に慣れた人は文章を読み飛ばすかも知れませんが、各話の最後一コマに書かれた科学者たちの著作の抜粋、次ページ見返しに載せられた著作についての説明が、この本のとても大切な部分です。絶対に飛ばさないように。

 この四人の科学者に限らず、昔の偉人は教養高く、全分野について常人を上回っているイメージがわたしにはあります。森鴎外が軍医としてより文人として名高いことや、物理学者の寺田寅彦が多くの名随筆を残していることで知られているように。本書の中では「綴り方が苦手だった」と書いている湯川秀樹の著作を、悩みながら少しずつ読んでみたいなあと思いました。それよりさきにちくま学芸文庫の寺田寅彦著作集を読まなきゃね、わたし。

JUGEMテーマ:小説全般
| 国内た行(その他) | 10:21 | comments(0) | trackbacks(0) |
「共喰い」田中慎弥
評価:
田中 慎弥
集英社
コメント:親を憎みつつ親に似る自分を見て更に親を憎む、典型的厨二病小説

●本日の読書
・「共喰い」田中慎弥/集英社


 父親を嫌悪しながらも自分の中に父に似た性質を見付けるにつけ、更に父を憎むようになっていく思春期の葛藤を描いた典型的な厨二病小説ですな!

 作品の内容云々よりも、第 146 回下半期芥川賞授賞の時の屈折した受け答えや一度も職に就いたことがないその経歴などで有名になって「不機嫌眼鏡王子」の愛称を得た著者のキャラクターが有名になって仕舞っていますが、内容は上記段落で事足りるかと思います(自分の中では)。うー、授賞会見見たかったなー。丁度海外出張してたんだよなー。

 で済ませるのはあんまりなので。

 性交時に相手に暴力を振るい、愛人の存在も隠さない父親を嫌悪する高校生の遠馬。自分の恋人との性交時に暴力を振るって興奮を得て嫌悪する父親の血を己の中に見ていきり立ち、その憎しみを益々父に向けます。魚屋を営む母親は離婚したが同じ町に住んでおり、鰻釣りの機会を通して交流を続けています。話としては文学で繰り返し語られるテーマですが、いわゆるセックス&バイオレンスが読んでて少々厭な気分になりますな。てかもう遠馬の父親の性格が最悪です。併録の「第三紀層の魚」の方がずっとずっといいです。

 もう一度言います。併録の「第三紀層の魚」の方がずっとずっといいです。重要だから二度言いました。

 個人的には「第三紀層の魚」の方が、死にかけている曾祖父と魚釣りを通して交流する中学生ということできちんとしてすがすがしい話なので好みです。こっちを先に読んでいたら遡って著作を読みたいと思ったことでしょう(いや、過去に芥川賞にノミネートされながらも落選した「図書実験室」の頃から興味はあったので、文庫が出たら読むと思いますけれどね)。

| 国内た行(その他) | 23:22 | comments(0) | trackbacks(0) |
「文字移植」多和田葉子
●本日の読書
・「文字移植」多和田葉子/河出文庫


 わかんない、わかんないけどとても惹かれて先が気になる小説でした。「海に落とした名前」よりも好きです。

「現代版聖ゲオルク伝説を翻訳するために火山島を訪れた<わたし>」が散らばる言葉と進まない翻訳、想像の世界で<作者>とコミュニケーションを取り、次第に自分が変身してゆくイメージに囚われてダメージを受ける。果たして翻訳は完了するのか、物語世界に飲み込まれるのか……と書くと良くある類の「翻訳している内に物語世界に取り込まれて、物語世界を生きるようになる話」と思われそうですが全くそうではなく、もっと更に分からない話です。翻訳から食らう肉体的ダメージも靴に小石が入っているとか肌がかぶれるとか、痛いけれど重くないそんな症状で、なるべく早くに翻訳を終えて島から原稿を放して仕舞わねばならないと強迫観念に駆られる日々。

<作者>と共に噴火口の縁を歩いているイメージが、翻訳という作業を通して母語と翻訳語の間で揺れる<わたし>のメタファーであるという解説を読むと「ああ、そうかー」と思うのだけれど、読んでいるときはそれに全く気付かないくらいのわたしの読解力。そんなわたしがこの小説の何に惹かれているのかと云うと、舞台となる火山島に暮らすどことなく無機質な人々と、進まない翻訳の行方です。時折挟まれる言葉の断片は単語の羅列だったのでそれがまさか翻訳文だと思いませんでしたが、どうやらこれが彼女の翻訳らしいです。そしてその物語も佳境に入っているのですが単語の羅列であるが故に盛り上がりに欠け、しかし確実に物語も翻訳も終わりに向かっていることが分かるのです。

<わたし>が来訪を恐れているゲオルグの存在も謎です。実在の人物なのか、物語の中の聖ゲオルグなのかも明らかにされていませんが、彼が登場しないままで<わたし>を動かしている「不在の中心」です。後半、物語がまるで自力でどうにもならない夢の中の様相を呈してきますが、不思議に惹かれる物語でした。多和田葉子作品、もっと読んでみたいです。
| 国内た行(その他) | 01:04 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ものがたり水滸伝」陳舜臣
評価:
陳 舜臣
中央公論新社
¥ 760
コメント:平易な語り口で水滸伝(七十回)のものがたりを読む

●本日の読書
・「ものがたり水滸伝」陳舜臣/中公文庫


 人多すぎ! そしてお前ら殺しすぎ!

 陳舜臣の「ものがたり」シリーズの文庫化第一弾です。この後に「史記」と「唐代伝奇」が刊行されております。

 水滸伝は横山光輝の漫画「水滸伝」を中学生の頃に立ち読みしただけで、基礎知識はさほどありません。読む前に覚えていた登場人物の名前は、九紋竜史進、智多星呉用、黒旋風李逵、宋江、魯智深、一丈青扈三娘、呼延灼くらいです(結構覚えているもんだな)。豹子頭林沖を覚えていなかったのが不思議。呼延灼を覚えていたのはジャイアントロボの所為だと思います、見たことないけれど。

「ものがたり」と銘打っている通り、読みやすく進行も早いです。ぽんぽんぽーんと新しい人物が登場してぽんぽんぽーんと舞台が変わっていき、梁山泊に百八人が集まって行きます。話は百八星が集結したところまでで、講談本で言うところの七十回本を底本にしています。百八人が朝廷に招安されて、一人また一人と死んでいく寂しい下り(百二十回本)はなしです。この本を読むまで、その後があることを知りませんでした。初めて水滸伝を読む方にはお勧めです。文庫本一冊で美味しいところ取りで百八人のエピソードが描かれ(多分ね、数えてないけれど)、気持ちの良いところで終わります。吉川英治の「新・水滸伝」は文庫五冊だし、著者逝去により未完だし、それならこっちの方が入門書として適当ですヨ!

 読んでいて思ったのが「いいなー、二つ名」と云う事でした。二つ名って言うか綽名ですね。三十歳過ぎて何言ってるんだこの女はと思われる向きもあるでしょうが、自分を表すキャッチフレーズですよ。欲しい! あだ名で命が助かったり義兄弟の契りを結んだりするんです。九紋竜とか智多星とか素敵。最も格好良い二つ名は、樊瑞(はんずい)の混生魔王(こんせいまおう)だと思います。混生魔王・樊瑞。超強そう。あと、キャラクターとしては昔から軍師に惹かれる性質なので呉用が好きです。でも招安後の生き方を考えると小旋風の柴進が死なないのでいいなあ。

 朝廷に召喚されて、山賊から政府軍になった後、バッタバッタとみんな戦死していくので、その辺りが読めないのが安心でもあり、知りたくもありです。混江龍・李俊がシャムに渡って王になるってのも知りませんでした。いつか、続きが読んでみたいものです。

| 国内た行(その他) | 11:14 | comments(0) | trackbacks(0) |
「愛する源氏物語」俵万智

評価:
俵 万智
文藝春秋
¥ 560
コメント:古典の短歌を現代語の短歌に詠み替えて解説してある源氏物語の入門書
●本日の読書
・「愛する源氏物語」俵万智/文春文庫


 どうしてこんなに源氏物語の周辺書物が好きなんだろうなああたし。その割には「あさきゆめみし」以外では原作に通ずるものは読んでいないのが自分でも妙。与謝野源氏も谷崎源氏も円地源氏も田辺源氏も瀬戸内源氏もどれも読んでいないです。あ、橋本治の「窯変 源氏物語」は一巻だけ買って読んだけれど、どうも馴染めなかったんだった。閑話休題。

「恋する伊勢物語」に続き、古典の短歌を現代語の短歌に詠み替えて解説してある源氏物語の入門書と云うか副読書と云うか、関連書籍です。面白いです。源氏物語はその物語性や登場人物の人間性について語ってある本は多いけれど、和歌について考察した本は意外に少ないのではないでしょうか(研究書除く)。そもそも古語で書かれた和歌を現代語に慣れた我々が読んでも殆ど分からないところを、俵万智風の翻訳和歌でその時の登場人物の気持ちを読めると云うのは贅沢であり、また源氏理解も深まります。面白いです。

(いつか追記予定)
| 国内た行(その他) | 00:07 | comments(0) | trackbacks(0) |
「海に落とした名前」多和田葉子

評価:
多和田 葉子
新潮社
¥ 1,575
コメント:不時着した飛行機に乗っていた女性は記憶喪失。手元のレシートだけが彼女を彼女たらしめている。
●本日の読書
・「海に落とした名前」多和田葉子/新潮社 ISBN:4-10-436103-8


 多和田葉子の小説は「不思議な世界」とか「独特の雰囲気」とよく評されるのだが、そう簡単に良く分かる言葉で評していいのかなあと云う思いもわたしの中にある。「不思議」だからどうである、「独特」だからどうであると、その先に踏み込んで受け止めなければならない何かが、その文章の中にあると感じた。

 などと書きつつ、「文字移植」(河出文庫)は途中で挫折しているのだが。

 本作品は四つの短篇で構成される。冒頭の「時差」は、段落が変わるごとに三人の語り手が入れ替わり立ち代りする構成だが、割とすんなりと読めた(ゲイの話だが)。二篇目が非常に前衛的な小説で、何を表現したいのかわたしの読解力では読み取れなかった。なにしろ、本文中に主人公の行動選択肢が設けられているのだ。

 「土木計画」は飛ばして、表題作の「海に落とした名前」。これが非常に印象深い作品である。不時着した飛行機に乗っていた女性は記憶を失っており、手元に残されたレシートだけが彼女を彼女たらしめている。その彼女の担当医師の甥と姪がそれぞれ病室を訪れてなにくれとなく彼女の世話を焼くのだが、この兄妹がどうも怪しいと云うか胡散臭いと云うか、裏事情がありそうな雰囲気。記憶が戻るかどうかなど、些細な問題である。
| 国内た行(その他) | 23:58 | comments(0) | trackbacks(0) |
「脳のからくり」竹内薫
評価:
竹内 薫,茂木 健一郎
新潮社
コメント:初心者向け

●本日の読書
・「脳のからくり」茂木健一郎・竹内薫/新潮文庫


「99%は仮説」でその名を知られるようになったサイエンスライターの竹内薫氏が、朋友茂木健一郎氏と組んで著した脳科学入門書。本当に初歩の初歩からの話なので、前エントリー「進化しすぎた脳」(池谷裕二/ブルーバックス)に躓いた人、これからそっちを読もうとしているけれどちょっと予備知識が欲しいなあと云う人向けです。私は「進化しすぎた脳」→「脳のからくり」の順に読みましたが、前者の内容の二割くらいを取り出して丁寧に説明したのが本書だと感じました。ある意味、いいとこ取りです。

 共著ではあるのですが、殆どが竹内薫氏の文です。茂木氏はその内の一章だけを手がけています(全編に亘っての校正チェックは行っているようですが)。竹内氏の語り口は平明で、喩えも分かりやすいし切り口も良いです。読んだ順の所為でどうしても「進化しすぎた脳」に比べて印象が薄くなって仕舞ったのが残念ですが、
「脳トレの流行りはなかなか廃れないなー。脳ってなんだろ」
と思っている方に取っては最適の一冊だと思います。
| 国内た行(その他) | 12:45 | comments(0) | trackbacks(0) |
「踊るナマズ」高瀬ちひろ
●本日の読書
・「踊るナマズ」高瀬ちひろ/集英社 ISBN : 4-08-774793-X


 表題作は第 29 回すばる文学賞受賞作。「踊るナマズ」と「上海テレイド」の二つの中篇が収録されています。装丁が綺麗なので図書館で読了。変わった作風の人だと思いました。「踊るナマズ」は、ナマズについての言い伝えがありナマズをトレードマークとしている町に育った女性が、出産を目前に控えて胎児に語るナマズの言い伝えの思い出。ナマズのように胎内を動く子供に対して語られるのは、町の言い伝えではなく、主人公が中学生の頃にさる老人から語り聞かされた殆ど猥談と言える物語です。

 先ず特筆すべきは対話が殆ど無い事。いや、登場人物はちゃんと対話しているのですが、小説には普通に附いているかぎ括弧での対話文が皆無です。会話は括弧がないまま地の文に含まれており、従って改行が少なく一段落が長いです。しかし読むに当たってストレスは少なく、そう云う点では上手な文章だと思いました。物語の結末は割と冒頭で読めましたが、老人が細切れに語る伝説への興味だけで読者を引っ張れるのもまた面白いやり方と云うか何と云うか。不思議な空気の小説でした。

 同時収録「上海テレイド」も殆ど括弧による会話文はなく、万華鏡作家の由利さんによる一人語りで物語は進みます。万華鏡=カレイドスコープに対してテレイドスコープと云うものを知らなかったのですが、万華鏡が筒の中に封じ込められた具材の作る模様を眺めるのに対し、球形のレンズを通して外の風景を三面鏡に写して眺めるものであるよう。父の土産のテレイドスコープを間に置いて展開する、姉と弟のタブーに関する物語です。話の素っ頓狂さからわたしは「踊るナマズ」の方が好きですが、「上海テレイド」の生活感のなさは昔の小川洋子の作品にも通じるところがあり、好きな人は好きだろうなあと思わされます。出たての方なので、今後の作品も読んでみたいと思います。
| 国内た行(その他) | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) |
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