一定期間更新がないため広告を表示しています
書評・三八堂のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます
|
2021.05.04 Tuesday
「奇譚ルーム」はやみねかおる
●本日の読書 ・「奇譚ルーム」はやみねかおる/朝日新聞出版 はやみねかおるにハズレなし(ってわたしが勝手に言ってる)。中学生の子どもが「これ面白かったよ!」と勧めてくれたので読みました。広義の密室ものミステリーです。 ミステリ好きの主人公はある日、自室の壁に貼られている「奇譚ルーム」への招待パスコードを見つけます。インターネット上の仮想空間「ルーム」にログインした主人公は、同じように誰とも知らぬ者から招待された9人のメンバーと会います。といっても仮想空間なのでそれぞれの招待客は自分で選んだ動物のアバターを纏い、職業と思しきハンドルネームを名乗っています。ゾウの「先生」、ウサギの「アイドル」、くまの「探偵」など……。この奇譚ルームとは何なのか誰が招待したのかなど、集まったメンバーが話し合っていると全部で10人しか入れない「ルーム」に、システム上不可能な筈の11人目の声が響きます。曰く、一人一つの奇譚を話し、それが面白くなければ話者を殺す、というもの。何たる理不尽。抗議した「少年」のアバターは即座にルームから消え、次の日の新聞に高校生の事故記事が掲載されます。奇譚の話者はルーレットによって決められ、次回のルーム開室日に合わせて奇譚を持ってこなくてはならないというルールのもと、一方的な奇譚会は続いていきます。 この小説はインターネット上の仮想空間「ルーム」が舞台のため全編横書きです。それぞれのアバターの会話、そしてそれぞれが持ち寄った奇譚が挟まれていく進行です。謎の殺人者から「面白くない」と言われ、一人ずつ消されていくアバターたち。登録人数を上回る人数はログイン出来ないシステム上の決まりがあるため、殺人者は生き残っている誰かの中にいるという緊張感。犯人探しと、残されたメンバーの頭脳戦が繰り広げられます。 いやー犯人こう来るかー、なるほどねー、というぼかし方でこの記事を終えます。面白かったです。
JUGEMテーマ:小説全般 2014.08.29 Friday
「短歌ください その二」穂村弘
・「短歌ください その二」穂村弘/メディアファクトリー 雑誌「ダ・ヴィンチ」誌上で連載されている短歌コーナーのまとめ本第二弾。連載第 31 回から 60 回をまとめて一冊にしたものです。雰囲気としては一冊目とさほど変わりはないのですが、あとがきによれば投稿者の中から歌集を出す人が出たり、全体として投稿者のレベルが上がっているのが感じられます。「この歌いいなあ」と思ったらよく見る投稿者の名前だったりして、前巻から読んでいると誰かしらのファンになったりしていたりする身近感が特徴でしょうか。 一定レベルを超えて誌上に掲載された短歌が並んでいるので、沢山の短歌を読み比べたい人には向いた本だと思いますが、「短歌を詠んでみたいなあどうやるのかなあ」という人は別の短歌入門の本から入った方がいいように思います。投稿者の年齢層は十代から四十代くらいなので、若い方が同年代の人の現代短歌を沢山見ることが出来るのはいいかな、と思います。わたしもコア世代です。 選者たる著者のブレない価値観として「怖い歌はいい歌」と云うのがあります。日常生活に「あれっ」と云う違和感を感じたとき、それを短歌にしてまとめたら、他人が気付かなかった「怖さ」を醸し出すことがあり、それがいい短歌である、と云うことです。それに気付くことが出来る感性を持つ人が(短歌に限らず)創作に向いているんですね。自分もそう云う感性があれば(または磨くことが出来れば)いいなあ、と思います。で、もう一つ重要なのが臨場感です。読み手に「あるある、こう云うこと」と思わせる情景を切り出しながら、そのありふれた描写を「この視点で攻めるか」「そう表現して来たか」と意外性を持った結句で締めた短歌の評価が高いです。食事中の風景を詠んだ歌と思っていたら結びに妙な言葉が入っていたりとか、急にマクロな視点・ミクロな視点に移ったりとか、自分を意外なものに喩えてみたりとか……。要はセンスです、センス。うう、一番わたしに無いものだ。 あとは、繰り返しの言葉や音など、読んだ時のリズムも大切です。小説でもそうですが、言葉を尽くして長く書くことも労力が掛かりますが、短く適切な言葉でものごとを表現して感動を与えると云うことは非常に難しいことだと、短歌関連の本を読んでいると何度となく思います。日本語の総合芸術だなあ、うん。 2014.08.10 Sunday
「短歌ください」穂村弘
・「短歌ください」穂村弘/角川文庫 雑誌「ダ・ヴィンチ」にて連載されていた短歌の読者投稿ページを 30 回分まとめた一冊。続刊の「短歌ください2」も出ていますね。自分も短歌作りたいわ、コツが知りたいわ、って人向けには枡野浩一「かんたん短歌の作り方」の方が直接的にタメになると思いますが、ちょっと妙な感じのする色んなパターンの短歌を読みたいわ、って向きにはこちらがお勧め。「かんたん短歌」は駄目出しが具体的かつキツめで、人の心に更にフックする歌にするにはどう変えれば良いかを多く解説しているのに対し、「短歌ください」は穂村さんが選んだ短歌が読み手にどう云う感情を起こすかを歌の中の言葉を引いて解説してある感じです。枡野さんは五七五七七の三十一音に厳しく、穂村さんは字余り字足らずにちょっと寛容で掲載前に多少修正も入れています。これ以上は好みなのですが、個人的には枡野さんの解説の方がビシバシしてて好きですね。著者の投稿短歌へのスタンスの違いだと思います。以降は完全に推測ですが「短歌ください」はダ・ヴィンチ連載で「かんたん短歌の作り方」はキューティ・コミック連載。恐らく前者の方が部数が出ていると思います。だもんで「短歌ください」で穂村さんが枡野さん調の厳しさで駄目出ししちゃうと、書かれた方は盛大に凹んじゃうかも知れないから、いいところを取り上げて評価してるんじゃないかなあと勘繰ってみたりしています。……いや、やっぱ単に評者の性格かな。 穂村さんは何度となく「怖い歌はいい歌です」と書いています。どう云うことかと云うと、歌を見た人がちょっと歪んだ日常を感じたり足元がぐらつくような不安を感じるような言葉の選び方、日常の切り取り方が出来る人の感性が素敵だと云うことです。多くの人が普通にこなしている日常のあれこれの動作・出来事にチューニングが合わない人の作る短歌こそがそう云う怖さや意外性を生み出すことが多い、逆に言えば普通のことを普通じゃない目で見る人が短歌に向いている(とそこまで決め付けた書き方はしてありませんが)と考えておられるようです。まあ短歌に限った話でもなく、創作や芸術全般について言えることでしょうけれどね。 俵万智さんの解説によると、投稿者の中にはその後短歌の歌壇で活躍する人の名前もちらほら見られる(どの投稿者かは明らかにされていませんが)とのことで、やはり才能は地に埋もれることがないのだなあと思わされましたが、やっぱりわたしに短歌作るのは無理。でも憧れはあるなあ。著者の歌論集である「短歌の友人」(河出文庫)もいずれ読もうっと。 2014.03.15 Saturday
「絶叫委員会」穂村弘
・「絶叫委員会」穂村弘/ちくま文庫 穂村弘、歌人。「手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)」の発刊時から面白いと評判だったのですが、数ページ読んで「ちょっと合わないかも」と思ってそれ以来手に取らないでおりました。今回この「絶叫委員会」をくすみ書房さんより年間会員向けお勧め本として頂きまして読んだ次第です。 面白い。 めっちゃ面白いよこの人の視点。ちくま書房の機関誌「ちくま」で連載されていたエッセイをまとめたものですが、何度も声に出して笑いました。普段わたしの笑いの沸点は高く、よほどの爆発力がないと笑わないんですが、笑いました。本人曰く「偶然性による結果的ポエム」を集めたものとのことですが、気負わない意図しない言葉のなんて面白いことか。普通の人がスルーする言葉を拾って集めて溜めた結果がこの本。 スピーチの冒頭で「出だしの魔」に捕まって、一番肝心な言葉を言い間違える校長の話。現場力が備わっている経験者の驚くべき対応方法、友人たちの過去の名言集。回転寿司屋で「ウニって本当は宇宙人だったらこわいね」「わざわざ遠くから来てるのにお寿司にされてかわいそう」と話すカップル。数々の「そうくるか!」と云う穂村コレクションを思い出すだけで笑えてきます。個人的に一番ツボに入ったネタは、名前の読み方が分からないお坊さんがお経の途中でどうするか、を書いた箇所。ぐふふふふ(思い出し笑い)。 その他穂村作品にも一挙に興味が沸きました。本来のメイン戦闘場である短歌を鑑賞すべきだとは思うのですが、もっとエッセイを読みたいですね。 2010.02.11 Thursday
「仕事が速い人のすごい習慣〜」
●本日の読書
・「仕事が速い人のすごい習慣&仕事術」浜口直太/PHP 文庫 またビジネス書読んじまったー。 文学作品至上主義のわたくしとしましては、小説>学問の本(ブルーバックス等)>ノンフィクション>>>ビジネス書、なので、誰が買ったかうちに転がってなきゃ読んでなかった一冊。要点をまとめると以下です。 ・具体的な目標を持つ ・その目標への達成度を常に意識する ・朝に強くなる ・朝一番に仕事の優先順位を決める ・思い付いたことをいつでもメモする為、メモ帳か携帯電話を活用する ・頭を使う仕事は午前中に済ませる ・講義や勉強会に積極的に出る なるほど。心掛けるようにします(特にそれ以上の感想がない)。 2010.01.02 Saturday
「静かな木」藤沢周平
●本日の読書 あけましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします。 藤沢周平の小説について私が何をか言わんやと云う気はするのですが、当然のように巧いですな。「用心棒日月抄」はエンターテイメント性の強いものでしたが、この「静かな木」は余韻や行間を楽しむ、味わい深い作品でした。表題作が秀逸です。解説にもありましたが、十分長編になり得るテーマを必要最低限の事柄のみを綴ることで美しく絞った短編にまとめており、こう云うのが「巧み」と云う事なのだろうなあと味わい深く読みました。いいなあ、もっとこう云う良い本をたくさん読みたいなあ。 2009.07.17 Friday
「猫の客」平出隆
●本日の読書 あなたたち、そんなにその猫が好きですか。 と思わず問いたくなるような小説と言うより随筆です。文章は流麗で、翻訳版がフランスで三万部売れたのも納得です(その割に日本での知名度はさほど高くないようですが)。かく言う私も文庫の表紙買いでしたけれど、外すことを予想して読み進めるうちに、その雰囲気のある文章に自然と馴染んで「いい買い物だったな」と思いました。 その不自然な道の折れ曲がり方から「稲妻小路」と名付けられた郊外界隈に住む著者夫婦の借家に、ある日を境に子猫が訪れるようになります。チビと名付けられたその猫は隣家の飼い猫でありながら著者の家に出入りし、かなり長い時間を過ごしています。その小さき獣との交流、別れがひたすら淡々と綴られる話です。それだけと言って仕舞えばそれだけなのですが、随所に挟まれる日本家屋の描写、大家のおばあさんとの交流、季節の移ろいが話に潤いを与えています。何だろうこの感覚、水墨画をずっと眺めているような印象です。 堀江敏幸の文章世界に近いです(好みで言えば、やはり堀江さんですが)。 淡々としていると云うことは裏を返せば起伏がなく退屈に感じる人もいるだろうと云うことですが、割と好きです、この落ち着いた文章。著者の住まいの描写が細かいので、ゆっくり読むと円ぐぁからの風も感じられるかと思います。ただ、読み手の私に伝統的な日本家屋の作りの知識が不足しているので、所々用語が分からなかったりしたのが残念です。もっと堪能出来る話の筈なのに。 また別の作品が出たら読んでみたいです。 2009.05.10 Sunday
「デザインを科学する」ポーポー・ポロダクション
●本日の読書 2009.02.18 Wednesday
「書きあぐねている人の為の小説入門」保坂和志
●本日の読書 2007.08.26 Sunday
「お厚いのがお好き?」
・「お厚いのがお好き?」フジテレビ出版/扶桑社 ISBN:4-594-04202-3 深夜番組らしいですな。見たことはなかったのですが、帯を見て面白そうだったので、お盆の帰省の時に義弟から借りてきました。名前は有名だが殆どの人が読んだ事のない本を俎上に上げ、身近なものに例えてダイジェストで紹介する番組だそうです。読んでいたら大体の番組ビジュアルが想像出来ました。 うん、分かりやすかったです。また、取り上げられている本に興味も沸きました。サルトル、ニーチェ、モンテスキュー、福沢諭吉、アダム・スミス、プルースト……皆聞いたことのある名前ばかり、でも読んだ事はないでしょ。個人的には哲学書よりも小説の方が好きなので、「失われた時を求めて」「城」の二篇が良かったです。 ただこの本はあくまで本を読むきっかけを作るだけの本なので、鵜呑みにしてはいけないと思います。というのは、取り上げられた二十冊の中で唯一読んでいた「三国志演義」の回を読んで思ったのですが、確かにストーリーダイジェストは正しいのですが、要点の余りに一部のみを取り上げている点で、鵜呑みにする事の危うさを感じました。 と少し苦言を呈しはしますが、総じては面白かったです。有名な書籍の紹介に、こう云う切り口もあるのだなあと思いました。でかしたフジテレビ。ちょっと調べたら続編も出ているようですが、紹介されている本のラインナップによっては読んでみたいなあ。 |