一定期間更新がないため広告を表示しています
書評・三八堂のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます
|
2018.05.06 Sunday
「校閲ガール」宮木あや子
●連休中の読書一冊目 ・「校閲ガール」宮木あや子/角川文庫 テンポ良く、大変楽しいお話でした。もっと早く読んでドラマに間に合えば良かった。結構前に kindle でセールやってて購入し、なんかのついでに続刊(と云うか番外編)の「校閲ガール ア・ラ・モード」も購入、最新刊の「校閲ガール トルネード」は当時単行本だった為に買い控えていましたらドラマ併せで原作を読みたくなった父に kindle paperwhite ごと貸した時にポチッとワンクリックによってそれとは知らずに購入されて「あーあー! あたしのクレジット決済千円!」と軽く親子喧嘩をしたりとかそう云う他人にとっては心底どうでもいいエピソードを紹介しつつ、本書の感想に入りますよ。マクラとしては観客の興味を引かないこと甚だしいですな。 タイトル通り、文芸誌の校閲部所というあまり存在を認識されていないお仕事に就いた女性のお話ですが、この主人公、河野悦子(こうのえつこ)、名前が校閲っぽいと云う理由での配属。しかし彼女は自社のファッション誌「Lassy」にものすごく拘泥しており、Lassy 編集部に入りたいために根性で出版社に合格したにも拘わらずの校閲部配属。毎日、Lassy に異動する日を夢見て仕事をしています。わたし彼女について大変偉いと思いますのは、校閲と云う仕事が本意でなくても、希望の編集部に異動する為には手柄を認められての異動であるべきだと云う考えの基、全力で校閲の仕事を全うしているところ。偉い。 校閲と云う仕事は文章の間違い、漢字の間違いや統一などを正すだけの仕事ではなく、文中の事実関係の確認、連載小説であれば過去の出来事との整合性などにも注意を払い、明らかな訂正には赤(朱)を入れ、著者に再考を促す場合にはエンピツを入れて編集者に返します。基本的に著者にその存在を認識されない立場。 でも河野悦子はファッション誌に対する異常な記憶力の良さとたまたまなタイミングなどで著者と交流を持っちゃったり、校閲者として気になることを追っていたら問題ごとを解決しちゃったりと、大変面白いエンターテイメント作品です。ファッションに拘泥している可愛い女の子同士の会話もテンポ良くて楽しい。アフロのモデルとの恋が始まりそうなのも気になる。全収入をファッションにつぎ込んで貧乏暮らしなのも可愛い。ああ明日ドラマの DVD 借りて来よう。 著者の宮木あや子さんは「女性のための R-18 文学賞」でデビューしておりますが、その読者投票の時にわたしも一票入れています。いや、だからどうだって話ではないのですが、なんか応援している人が著作が増えて売れていってるのって嬉しい。「俺の見る目は間違いなかった!」みたいな。 てことで近日中に「トルネード」まで読み終わりますので感想がんがん書くよ!
JUGEMテーマ:小説全般 2016.01.03 Sunday
「Nのために」湊かなえ
●新年一冊目の読了
・「N のために」湊かなえ/双葉文庫 2016 年、新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。本日一月三日ですがまだ初夢を見ていません。そして元日から買い物が連続でハズれており、雑誌や新聞諸々の占い結果が当たっていることを痛感している正月です。本年もどうぞ宜しくお願いいたします。 さて新年一発目の読書感想文です。書籍化はとうの昔で、既に文庫にもなっておる本作、昨年ドラマ化してそれも終わって大分経った今、どうしてこんなハズしたタイミングでこの本を読んだかっつー話です(別に聞きたくない)。わたしは出先で手持ち無沙汰になった時に手元に本がないと震え出す性癖を持っているので、外出バッグにはそれぞれ文庫を一冊ずつ入れて並行して読み進めています。偶々年始周りで親戚宅に行ってゆっくりさせて頂いた際に携帯していたバッグに入っていたのが本書だったんですな。出先で半分くらいまで読み進めてハマり、そのまま晩に続きを読み、二日で勢い読了、やー面白かった。帯には「純愛ミステリー」とありますが、そうであるような違うような。寧ろ文庫の解説でミステリ評論家の千街晶之が引いているインタビューにある著者の言葉「立体パズル(のようなミステリー)を作りたかった」と云うのが適切な表現だと思います。 登場人物はイニシャルに N を持つ四人。杉下希美、内藤望、成瀬慎司、西崎真人。彼らが関わる会社重役の野口さんとその妻、奈央子。後日、野口夫妻の変死体が発見されたマンションに居合わせた四人は、それぞれが彼の大切な「N のために」、人生を賭した行動をし、それを証言します。本当はそこで何が起こったのか、真実はどうなのか、嘘はどこに隠されているのか。章ごとに語り手が順に変わっていく著者定番の手法で徐々にパズルのピースは嵌められ、真実が薄っすらと明らかになっていきます。上手いねー。 小説は活字であるが故にミスリーディングを仕掛けられるので、至るところに罠があると思って読み進めて下さい。こう云う「誠実でない語り手」タイプのミステリは小説の醍醐味ですね(って書いて実は全然そんな話じゃない、って云う「叙述ミステリ感想文」と云う芸風を身に着けようと頑張っている最中です★)。 JUGEMテーマ:小説全般 2014.07.30 Wednesday
「かんたん短歌の作り方」桝野浩一
・「かんたん短歌の作り方」桝野浩一/ちくま文庫 わたしに短歌作るのは無理やなあ。文章読んだり書いたりするのは好きだけど、言葉を吟味して順番を変えたり言い回しを変えたりして一つの短歌の究極に向かって推敲し続けられるかというと、堪え性がないから無理っぽいです。でも短歌に興味はありますの。 さて桝野浩一です。客観的代表歌は「毎日のように手紙は届くけどあなた以外の人からである」、個人的に好きな歌は「無理してる自分の無理も自分だと思う自分も無理する自分」と云う感じの歌を作る歌人です。本作はキューティー・コミックと云うサブカル寄り女性向けコミック誌の連載で、読者から短歌の投稿を募りそれを添削する形式で進む短歌入門書です。とても分かりやすく、読んでいると自分も短歌を作ってみたくなります。著者の本を何冊か読んだことある筈と思って過去の読書感想文を読んでみたら見つかりませんでした、あれー。「君の鳥は歌を歌える」と「石川くん」は間違いなく読んでるんだけどな。 連載は 1997 年 12 月から 2000 年 2 月に掛けてのもので、今ほど現代語で短歌を作ることが広まってなかった時代の内容です。短歌を客観的評価に晒すには新聞の歌壇や短歌誌への葉書投稿しか手段がなく、現代語・口語で短歌を作る人として有名なのはほぼ俵万智一人、桝野浩一は短歌界とはちょっと離れたところで一人短歌の普及に励んでいると云った状況だと思われます。今だったら twitter でハッシュタグ「#tanka」入れたらすぐに色んな短歌を見ることが出来て、自分も短歌を飛ばすことが出来るんですけどね。ただ発信する敷居は低くなったとはいえ準備は必要、推敲はもっと必要。この本はタイトル通り短歌を作ることへの気持ち的敷居を下げ、且つ重要なことを折り込んで解説している入門書として優れた一冊です。でーすーが、著者が漫画家の南Q太と結婚し離婚している経緯を知っている我が身としては、連載と並行して南Q太と絶賛恋愛進行中だった著者の地の文が痛ましく、また時にうっとおしく感じて仕舞うのでその点はマイナスです。 この連載やその他の短歌講座で著者が加藤千恵と天野慶と佐藤真由美を世に出したのは凄いと思います。わたし佐藤真由美編集の「恋のうた」、大学時代に買って読んでたわ、そう言えば。 それはさておき短歌を作りたい人の為の「かんたん短歌」大原則は下の三つだそうです。 ア、あくまで五七五七七で! イ、いつもの言葉づかいで! ウ、嘘をついてでも面白く! わたしも破調より定型の方が好きだなあ。七五調ってリズムいいし、破調で詠嘆したい人は散文や詩方面を開拓すればいいのだし。短歌の五七五七七は様式美ですよね。そして(ウ)にあるように、面白いことを普通に短歌にするのではなく、面白く書くこと、面白く表現することを大切だと正面切って言った指導書はなかなかないと思います。そう、嘘をついてでも面白く! 最近は同じ短歌の歌人の穂村弘にも心惹かれていますし田中章義のある歌がものすごく好きだったりと一途ではないわたしですが、著者の言葉は分かりやすいので短歌に興味のある方は手に取って、短歌詠んでみて下さい。下に格好よく短歌書こうかと思いましたがどうしても思いつきません。 2014.07.24 Thursday
「カラスの教科書」松原始
・「カラスの教科書」松原始/雷鳥社 カラス愛に溢れた熱い一冊。しかも厚い。どれくらい厚いかというと京極夏彦「鉄鼠の檻」レベルです(もちろん講談社ノベルス版ね)。 カラスって都市にも山中にもいるけど、あまり気に止めている人はいなさそうだしきちんと研究するには行動範囲が広すぎて困難らしいです。鳥研究のオーソドックスな方法、標識を付けて追うのが出来ないとなったら確かに困るよねえ。しかも山里なら目視で追うことも出来なくはないけれど、これが都会の街中などだと人間の建造物が邪魔をして追うのも困難そうです。そんな中でカラスの生体をこれだけ観察し、一冊にまとめ上げた著者の情熱にはひれ伏します。愛ですね、愛。 もし電子書籍で読んでいたらハイライト(付箋みたいなもん)付けまくりの面白さでした。最初からガンガン読み進めていくのもいいですが、後ろ五分の一ほどを占める「よくある質問」を先ずは読んでカラスの世界に馴染みを覚えるのがお勧めの読み方です。京都と東京での観察が主なので、ハシブトガラスとハシボソガラスについての記述が多いですが、これを読んでからうちの近所で見かけるカラスがどちらの種類なのか見極めに挑戦し始めました(まだハシブトかハシボソか分かりません)。著者のスケッチしたカラスも、大層お上手で驚きます。 中で最もカラスの愛らしさを感じたのは「カラスの遊びと知能」についての記述で、まつぼっくりを足の下に入れてごーろごろと転がす行動が観察された、と云うくだり。うおう、これは可愛い。見てみたい。 そしてカラスの愛らしさではなく観察者の愛らしさとしては、鳥学会に集う人々も挙げられます。学会会場でスライドの字を読むために口径30ミリや40ミリのゴツい双眼鏡を取り出し、どうかするとそれがスワロフスキやツァイスだったりするのは鳥学会だけ、ってところが鳥そのものより愛らしいです。カラスの本論に関係ないところでときめいておりますが、鳥を愛する人って観察対象としていいですよね。 そしてもう一つ実生活で役立つ知識は、カラスのゴミ漁りを防ぐ方法ですね。単純な方法ですが集積場のゴミ袋にネットを掛けることだそうです。「え、うちの町内それやっててもカラスに荒らされるんだけど」と云う方々には、ネットが地面まですっぽり被さっていないことが原因かも知れませんよ、とのこと。ゴミ袋が少しでもはみ出しているとそこを取っかかりにカラスがゴミを荒らしてしまうのだとか。どうぞご検討下さいませ。 帯に書いてある通り「くちばしの先から脚の先までカラスのことが分かる本」です。少しでもカラスに興味ある方、お勧めです。 2013.01.29 Tuesday
「かもめ食堂」群ようこ
・「かもめ食堂」群ようこ/幻冬舎文庫 小林聡美主演の映画の方が有名で、原作付きだと云うことを知らない方もおられるかと思いますが、あの、フィンランドで食堂やる話の原作本です。 わたしは映画の方を先に見てから原作を読みましたが、両方手に取った感覚としては「映画の原作再現率、高すぎ」と云うことです。いやもう、あの映画と全く同じ雰囲気の小説でした。キャスティングも絶妙ですね、サチエに小林聡美はぴったりだし、ミドリさんの頑張ってる感じも片桐はいりがやると「そうそう、そんな感じー」だし、丁寧で落ち着いた物腰のマサコさんは確かにもたいまさこであります。 pasco の TVCF でもお馴染み「かもめ食堂」の粗筋は、全く当てもツテもないフィンランドで、38歳のサチエが食堂を開いています。食堂の一押しメニューはおにぎり。実直で地道な営業に徐々に客は増えていきますが、日本食に馴染みのないフィンランドではお勧めのおにぎりは売れないまま。そこに色々な人が少しずつ絡んで来て、物語は淡々と進みます。ほんわかとする癒しの物語です。ってかな、癒しとか安易な言葉嫌いだけど他に適当な言葉が見つからないので使う。 まーなんつかもう少しぶっちゃけたこと言うと、映画の再現率が高いので原作か映画かどっちか見ればそれでいい、とか思っていますごめんなさい。あと、映画のメインテーマの着メロをずっと探しているんですが見つかりません。 2012.07.08 Sunday
「第2図書係補佐」又吉直樹
・「第2図書係補佐」又吉直樹/幻冬舎よしもと文庫 あー、いい趣味だなー。この人と本の話をしたいなー。以下はこの本の中で紹介されている書籍のリストで、書名の後の記号は自分が既読○か未読×か、です。 「尾崎放哉全句集」尾崎放哉 × 「昔日の客」関口良雄 × 「夫婦善哉」織田作之助 × 「杳子(「杳子・妻隠」より)」古井由吉 × 「炎上する君」西加奈子 × 「万延元年のフットボール」大江健三郎× 「赤目四十八瀧心中未遂」車谷長吉 ○ 「サッカーという名の神様」近藤篤 × 「何もかも憂鬱な夜に」中村文則 × 「世界音痴」穂村弘 × 「エロ事師たち」野坂昭如 × 「親友交歓(「ヴィヨンの妻」より)」太宰治 × 「月の砂漠をさばさばと」北村薫 × 「高円寺純情商店街」ねじめ正一 × 「巷説百物語」京極夏彦 ○ 「告白」町田康 △(所持未読) 「江戸川乱歩傑作選」江戸川乱歩 ○ 「螢川・泥の河」宮本輝 ○ 「中陰の花」玄侑宗久 ○ 「香水 ある人殺しの物語」パトリック・ジュースキント × 「イニシエーション・ラブ」乾くるみ × 「山月記(「李陵・山月記」より)」中島敦 ○ 「コインロッカー・ベイビーズ」村上龍 × 「銃」中村文則 × 「あらゆる場所に花束が……」中原昌也 × 「人間コク宝」吉田豪 × 「アラビアの夜の種族」古川日出男 × 「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」村上春樹 ○ 「銀河鉄道の夜」宮沢賢治 ○ 「逃亡くそたわけ」絲山秋子 ○ 「四十日と四十夜のメルヘン」青木淳悟 ○ 「人間失格」太宰治 × 「異邦の騎士(改訂完全版)」島田荘司 × 「リンダリンダラバーソール」大槻ケンヂ × 「変身」フランツ・カフカ ○ 「笙野頼子三冠小説集」笙野頼子 ○ 「ジョン・レノン対火星人」高橋源一郎× 「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦 × 「袋小路の男」絲山秋子 ○ 「パンク侍、斬られて候」町田康 × 「異邦人」カミュ × 「深い河」遠藤周作 × 「キッチン」吉本ばなな ○ 「わたしたちに許された特別な時間の終わり」岡田利規 × 「友達(「友達・棒になった男」より)」安部公房 × 「渋谷ルシファー」花村萬月 × 「宇田川心中」小林恭二 × 全47冊紹介の内、既読14冊、未読33冊、勝率42%。うーん、低い。しかし、これだけ趣味があう人の紹介だから、このエッセイに紹介されている本を上から順に読んでいくのもいいかも知れん。興味があって読みたいと思っている本が七割だし(古川日出男と、大江賞の「わたしたちに許された〜」と高橋源一郎は読みたいと思っていた。あと太宰を意外なほど呼んでいないので、太宰も。そして安部公房は人生掛けて全部読む)。 この本とその著者について少し。お笑い芸人「ピース」の不気味な方、と認識されているであろう又吉直樹による本にまつわるエッセイ。書評本……と云うのとは少々趣が異なります。本の内容の紹介というよりは、その本の内容に触れて自分の体験を書き下ろした文章です。「コインロッカー・ベイビーズ」の紹介なんて最高よ。是非読んで頂きたい。読書に全く興味のない人に本の内容を紹介するのに、この「あらすじ紹介をしない」スタイルは思いの外に向いている気がします。初出はよしもとのお笑いライブで配布されるフリーペーパーへの連載だそうで、読者を想定し自分の趣味を上手に絡めながら興味を引く手腕は素晴らしい。この本読む前から又吉氏が太宰にめちゃくちゃ入れ込んでいる読書家と聞いて大いに好感を持っていました。これ読んでさらに好きになりました。ごちそうさまでした。 2012.06.29 Friday
「告白」湊かなえ
・「告白」湊かなえ/双葉文庫 わたしは、小さい子供が殺される話が大っ嫌いです。 なので蔵書にはありつつ二年くらいずーっと放っておいた一冊ですが、読み始めたら先が気になりすぐに読み終えました。中学校内で女性教師の娘が不幸な事故で亡くなります。が、それは事故ではなく「この学校の生徒に殺された」のだと云う、教師の告白で物語は幕を開けます。物語は章立てで、告白者は各章ごとに級友、犯人の家族、犯人……と変わっていきます。 この小説が上手いのは、語り部が次々に移っていく形式を選んだところです。同じ事件について立場の違う人々の一人称で語られると云うことは、個人の思い込みが随所に入っていると云うことです。例えば、ある人は「この人物のこの行動が犯人に影響を与えた」と思っていても、犯人は「(全く別の)あのことがあったために自分はこういう行動に出た」と全然違うことが書かれているとすると、前の方を読んでいるときには「ふんふん、そうなのね」と思っていたのが、後で「え、そうだったん?」となり、何を、誰の発言を信じればいいのか読者が段々と分からなくなっていきます。 でも実際の世界も、実際の事件もそんなものです。 語り部が移っていくという形式は「各立場から見たそれぞれの真実」の描写に非常に向いていると思います。逆に言えば人の数だけ受け取り方があり、真実なんて誰も知らんのだと思います。……話が逸れてるな。秀逸なのは娘を亡くした教師、森口の語り。彼女の「告白」はモノローグではなく全て話し言葉であり、つまりその語りの裏側には聞き手への駆け引きが含まれていることに気づくと、彼女の考えていることが最も分かりません。この人が一番怖い。 最初に書いたようにわたしは子供が死ぬ話が大っ嫌いです。ですが、文庫の裏表紙の言葉をそのまま拝借した「衝撃の結末」については一読の価値はあると思います。 2012.02.29 Wednesday
「ヰタ・セクスアリス」森鴎外
・「ヰタ・セクスアリス」森鴎外/新潮文庫 電子書籍で読みました。嘘です、青空文庫のデータを iPod の文庫リーダーアプリに入れて読んだだけです。電子書籍って言ってみたかっただけです。ま、本物の文庫本も十五年ほど前に古書店で購入しており、iPod で読んだ後に注釈と解説を読むために文庫も読み直しましたけれどね。 「ヰタ・セクスアリス」、訳すと「性的生活」です。言葉通り、金井湛(しずか)と云う主人公に仮託して森鴎外その人の幼少時から壮年期までの性的経験が綴られています。この作品が掲載されたスバルは発禁になったと云うエピソードもあり、発表当時はあけすけ過ぎてセンセーショナルなものだったと想像されます。だがしかしわたし個人の乾燥を言わせて頂ければ、幼少期(7歳〜15歳頃)の性の目覚めに関する話についてと、初めての性体験についての描写は非常に読ませる(エロいからいい、とかでなく、エロいことをきちんと整った日本語で書いているからいい)のですが、結婚してからの描写が薄すぎるのが気になります。だって、結婚すれば特定の異性と好きなだけどうこうする訳ですから、より体験談は重なり、経験値は上がる訳です。そこを活写しないで何が性的生活かと。二番目の妻に関する描写がないのは、まあ実際のところとして仕方がないと思いますが、早くに逝去した一番目の妻との描写がないのはいかんだろう、と思う訳です。まあそれも二番目の妻への遠慮かも知れませんが。あとは死者への気遣いとかか。 と不平を言いつつも、これだけ感情と身体を結びつけて、露骨でありながらも文学に昇華させている様は流石です。普通の人が書けば単なる露悪的なエロ小説になるでしょう。解説にもありましたが、日本語として時代の評価に耐えうると云うのはその通りだと思います。「高瀬舟」だけでなくて、こう云うのもいいですよね。 因みに話は全く変わって、電子書籍で本を読むことの自分内メリットとデメリットを考えてみました。メリットは、暗い場所でも読めること。実際、会社の社屋を出て駐車場へ歩いていく途上でこの本の殆どを読みました、三週間くらい掛かりましたが。そしてデメリットは本の貸し借りが出来ないこと。わたしの家族は本好きが多いので、貸し借りが出来ないことはメリットを潰して余りあるデメリットです(端末丸ごと貸すということは出来るが、それは自分が不便なので却下)。 2009.07.26 Sunday
「「法則」のトリセツ」水野俊哉
●本日の読書 うあー、また自己啓発本読んじまったー。面白そうなタイトルに惹かれて読み初め、すぐ自己啓発本と分かったのに読み通して仕舞った。代わりに文芸本一冊読んどきゃ良かったのに自分。ま、いいんですがね。 私は本を内容によって「感情を動かす本」(小説等の文芸本)と「知識を得る為の本」(自己啓発本や専門書)に分けていて、後者を軽んじる向きがあります(と言いつつ講談社ブルーバックス等は好きですが)。だもんで、自己啓発本を読んだらその時間で鴎外一冊読めたなあなんて出来もしないことを思ってるだけです、ええ、自分のしたことですよ。閑話休題。 当該本ですが、ぶつくさ言っている割には面白かったです。六編から成る一冊で、それぞれ職場の法則、仕事の法則、ビジネスの法則、勉強の法則、心の法則、成功本の成功法則として、楽しく「成功者」になる為であったり人生を少し生きやすくする為であったりのコツを実存の法則の紹介と云う方法で解説してあるのです。その切り口や良し。 個人的に役立った部分は、情報整理に関する法則の紹介で情報系と書評のブログが一覧で載せられていたところと、成功本の成功法則の部分で数多ある成功本の内容が要約されていたところ。これで他の本を読まなくても内容が引けます。 余談ですが、著者の姓が「水野」だったのでてっきり「夢を叶えるゾウ」の著者の人だと思っていたら全くの別人でした。 2009.07.04 Saturday
「生きてるだけで、愛」本谷有希子
●本日の読書 何なんだ、この人たち。 凄く迷惑な人の周辺事情というか、恋愛でもないような男女の関係性というか、上手く言えないのですが友人にいたらとても厭なタイプの女性を主人公とした話です。うん、この人凄く迷惑。 美人だけど躁鬱で抑えが効かない主人公はそのエキセントリックな言動から昔のあだ名がエキ子で、その名に恥じぬはた迷惑な行動で読む者を驚かせます。ここで「周りを巻き込んで」などと書かないのは、同棲している雑誌編集者の津奈木と云う男がのれんに腕押しを体現したような男で、彼女の行動で激高したりせず、言われるがまま淡々と同棲生活を続けているのです。 何なんだ、この人たち。 だから、読んでいて消化不良というか、自分の身の回りにこういう人たちがいなくて良かったなーと思うというか、つまりは自分の常識で計れない人々の物語なので、曰く言い難い読後感なのです。 |