書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

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「見知らぬ場所」ジュンパ・ラヒリ
評価:
ジュンパ ラヒリ
新潮社
¥ 2,415
コメント:連作短編を含む、七つの短編を納めた珠玉の一冊

●本日の読書
・「見知らぬ場所」ジュンパ・ラヒリ/新潮クレスト・ブックス


 良かった。とても良かった。アリス・マンローよりもジュンパ・ラヒリの方が好きだなあ。

 七つの短篇、うち三篇は連作短編「ヘーマとカウシク」を納めた一冊です。九年前の短篇集「停電の夜に」とはまた違った趣で良かったです。何が良いのだろうと考えてみましたが、登場人物の心の動きとその描写の、さらっとしていながら丁寧な所だと思います。しっとりと寄り添うような、かといってべったりしすぎていない突き放した感じもあって。うーん、これはその文章に肌が合うか合わないかの問題だと云う気がします。

 著者がインド出身アメリカ在住と云う事があり、主人公のほぼ全員が何らかの形でインドに繋がりを持っています。ですので最初は「またインドかー」と思う事も無きにしも非ずなのですが、「停電の夜に」がインド第一世代のアメリカ生活のあれこれを書いたものが多かったのに対し、この「見知らぬ場所」はインド第二世代、つまり両親世代がアメリカに移住して来て、自分自身はアメリカで生まれ育った人々の物語が多いことに気付かされます。

 好みで言えば表題作の「見知らぬ場所」が最も美しく気持ちの良い話でしたが、連作短編の「ヘーマとカウシク」のもの寂しい突き放したような結末も嫌いではありません。心に残る一冊です。

| 海外(ジュンパ・ラヒリ) | 11:34 | comments(0) | trackbacks(0) |
「停電の夜に」ジュンパ・ラヒリ
●本日の読書
・「停電の夜に」ジュンパ・ラヒリ/新潮文庫 ISBN:4-10-214211-8


 良かった。この本を推薦して貸して呉れた友人に大感謝。インド系のアメリカ人作家である著者の短篇小説にはインド出身者が登場したり舞台がインドだったりと、何らかの形でインドと云う国が描かれている。勿論そのエキゾチックな雰囲気が小説の上手さなのではなく、語り口と物語の作り方が上手いのである。短篇小説にありがちな、落ちがついて「上手いでしょう」と云うところがなく、落ちがつかないから「上手い」と思わせるのは並大抵の手腕ではない。しかし著者はそれをいとも簡単にやってのけている(ように思わせる)。

 個人的に気に入った短篇は、過去の栄光に縋り付いてそれを吹聴して歩く事でアイデンティティーを保っていた階段掃除婦の話「ブーリー・マー」と、アメリカ人家族を観光案内するインド人通訳が家族の妻から打ち明けられた秘密についての話「病気の通訳」。両方、ラストシーンの風景がまるで見たように思い描け、且つ心に刻まれると云う点で秀逸です。あとどちらの話も切なく報われないのが良い。そう云う弁で言えば、この短編集のどの話も報われないのだが。

 O・ヘンリー賞、ピュリツァー賞、ヘミングウェイ賞等、数々の賞を受賞したと云うのも頷ける素晴らしい短篇集。でも賞暦がどうのよりも、作品として素晴らしいので、折に触れて再読したいと思う。新潮文庫じゃなくて、新潮クレスト・ブックスで蔵書したい。あと、著者がこんなに小説が上手くて美人であるというのも素晴らしいな。ちょっと嫉妬。
| 海外(ジュンパ・ラヒリ) | 17:23 | comments(0) | trackbacks(1) |
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