書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

「その女アレックス」ピエール・ルメートル
評価:
ピエール ルメートル
文藝春秋
コメント:筋立てとか転換とかはいいんだけどいかんせんエグい

●本日の読書
・「その女アレックス」ピエール・ルメートル 作 橘明美 訳/文春文庫


 エグいよ。

 史上初の六冠達成と云うことで、知ってるのも知らないのも色々ありますが、以下の賞を受賞しているこの作品。「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト 10」「ミステリが読みたい!」「IN POCKET 文庫翻訳ミステリーベスト 10」「イギリス推理作家協会賞(仏)」「リーブル・ド・ポッシュ読者賞(仏)」……錚々たる賞ですなあ。読んだ感じではミステリーと云うよりサスペンスでしたけれど。

 冒頭、若くて美人な女性アレックスが誰とも知れない怪力の男に殴られ誘拐、監禁されます。男はアレックスを全裸にして、体を動かすことの出来ない狭いキューブ型の木枠の檻に閉じ込めて天井から吊り下げます。男は彼女をどうする気なのか、果たして生きて逃げ出すことが出来るのか、極限状態の描写と共に読者の緊張感は高まります。文庫の帯には「101 ページ以降の展開は、誰にも話さないでください。」とありますが、ある程度ミステリを読んでるわたしの感覚では、101 ページ以降ではなく、第三部 337 ページ以降の展開の方が意外なので、101 ページとか早すぎ。

 誘拐されたアレックスを探すために尽力するパリ警察の三人の刑事はキャラクターが立っていていいです。極端な小柄で過去の辛い体験により第一線から退いている中年刑事カミーユ。その元部下の超金持ちイケメンスタイリッシュでエレガントな刑事のルイ。同じく元部下でコツコツ作業には定評があるが超絶ケチで友達にしたくないアルマン。上司のル・グェンも頼りになるんですが、刑事たちの人間味を描く感じじゃなくて、キャラクター小説的に強調してあります。だから事件の展開とはあまり関係のない刑事の個人語りや昔の体験などもふんだんに出て来るので、多少間延びした感じに受け取られることはあるかもです。てゆうかルイ格好いいよルイ。

 話の意外性に関しては、確かに帯に煽り文句通り意外な転がり方をするので「おおー」と思うのですが、いかんせんエグいです。描写がエグいです。登場人物がそのような残虐な行為に走るには理由があるんですけど、肉体的、精神的に痛そうな描写が苦手なわたしにとっては読み進めるのが結構苦痛でした。

 結末は賛否両論あるようですな。わたしはアリだと思うのですが上手にやらないとまずい決断ですし、そこで振りかざす「正義」は果たして正義なのかは疑問が残りますね(読んだ人にしか分からない書き方)。

JUGEMテーマ:小説全般
 
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「ゲド戦記(4) 帰還」ル=グゥイン
評価:
アーシュラ・K. ル=グウィン
岩波書店
コメント:魔法を失った大魔法使い

●ずっと前の読書
・「ゲド戦記(4) 帰還」ル=グゥイン/岩波少年文庫


 感想書くの忘れてた。大魔法使いゲドは前の巻までで魔法を使い尽くし、この巻では全く魔法を使いません。それじゃあ何をするのかと言えば、領主の野望を打ち砕くお話です。

 二巻で登場した巫女アルハ(テナー)が再登場して物語は始まります。ボス戦が領主の野望だなんて過去に世界を救った大魔法使いにとってはスケールダウンなジョブに取られそうですが、その分ゲドとテナーと彼女に救われた火傷の少女との触れ合いに注目した物語となっています。なんだかんだでわたしに取ってはこの四巻が今までの中で一番「人間の営み」を読ませた筋書きのため、印象深い一冊になっています。

 ゲド、いえ作中ではハイタカの名になっていますが、彼は魔法を使えない代わりに普通の男性がそうするように、テナーと少女を肉弾戦で守ります。読者全員が過去のハイタカの活躍を知っているだけに魔法が使えないことが非常にもどかしい。もどかしいのですが、ファンタジーではない現世に生きるわたしたちに取っては、ハイタカが大切な人を守るために何をどう考え動くか、と云うことを見直すにいいお話だと思います。

 オジオンやレバンネンなど、過去にハイタカが出会った人々も再登場するので既刊三冊は読んでからどうぞ。読み終えて暫くしてからジブリのアニメ映画「ゲド戦記」見たのですが、この四巻の内容が映画の物語の中心だったので、ジブリから原作に来る人は頑張って四冊読んで下さいね。
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「ムーミン谷のクリスマス」トーベ・ヤンソン
評価:
トーベ ヤンソン,ラルス ヤンソン,Tove Jansson,Lars Jansson,冨原 眞弓
筑摩書房
コメント:イメージと違うムーミンをどうぞ

●本日の読書
・「ムーミン谷のクリスマス」トーベ・ヤンソン ラルス・ヤンソン/筑摩書房


 クリスマスにくすみ書房さんからお送り頂きました(友の会会員特典)。ムーミンはそのシュールでシニカルな世界が子ども向けではないところからわたしの中で最近急速に株が上がっている作品です。先日も講談社青い鳥文庫の既刊七冊セットを大人買いしたばかりだったので、偶然の嬉しいプレゼントでした。アニメのムーミンは見たことないのですが、ヤンソンの小説やこのムーミン・コミックス読むと、ムーミンの世界は全然童話的でないことがすぐ分かります。コミックスは今回初めて読みましたが、コミックスの方がおかしい。ムーミン谷の住人はムーミンママを除いてみんなおかしい。

 そう、ムーミンママただ一人が良識のある生き物です。

 文章が横書きの為、漫画は日本のそれと逆開きで左から右のコマへ読み進めるのがちょっと新鮮です。1ページは3×3の9コマで構成されています。この巻には「預言者あらわる」「イチジク茂みのへっぽこ博士」「ムーミン谷のクリスマス」の三本の漫画が収録されていますが、前2本は、ムーミン谷の住人たちが預言者や精神科医の言動をまともに受け止めたためにどんどんおかしくなっていき、全員疲弊してどうしようもなくなっていく話です。ね、おかしいでしょ、童話じゃないでしょ。でもこれが深くて面白いんですよ。因習に囚われること、人の言葉をまともに受け止めすぎることの弊害なんかを感じます。

 ただ、非常に個人的な感想としては、これを読んで「ああ、今までの自分は人の言葉に影響を受け過ぎていたなあ」と反省して生き方を変えるとかではなく、単に外から入ってきた変な人に振り回されるムーミントロールたちの物語を読む、と云うスタンスでいいんじゃないかと思います。じっくり読んで自分の人生考え直すのも勝手だけど、単に「ふふ」って唇の片方上げて楽しく読めばそれでいいんじゃないかと思います、なんとなく。

 にしても、母は強い生き物ですな。うん。
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「WHY DESIGN NOW?」エレン・ラプトン他
評価:
エレン ラプトン,カーラ マカーティ,マチルダ マケイド,シンシア スミス
英治出版

●本日の読書
・「WHY DESIGN NOW?」エレン・ラプトン、カーラ・マカーティ、マチルダ・マケイド、シンシア・スミス/英治出版

 デザインが無関係ではない仕事をしています。つっても全面的にデザインが出ると云うよりは「付加価値としてデザインいい方がいいよねー」と云った感じの微妙なかかわり方ではありますが、デザインセンスはないよりある方が勿論いいので、プロダクトデザインについての本であろう本書を手に取ってみた訳です。

……システムとしてのデザインに関する本でした。都市計画とか、途上国に労働を生み出すためのデザイン商品とか。あと技術が発展することで可能になったデザインとか(←これはちょっと興味あるけど)。

 人間工学的にこのデザインが必要であるとか、この動きを実現するのに最も効率が良いのは従来の形ではなくこの形、とかそういった内容を期待していたので肩透かしでしたが、システムとしてのデザインも今後の地球環境を考えるに無視できない大きな課題であり、そう云った試みを知ると知らないとでは差もあろうと思いますので、興味がある部分だけ重点的に読みました。ヒートセラミックのテーブルウェアとか、フランス AVG 鉄道とか発電効率のよい LED デスクスタンドなどは技術の発達で可能になったデザインで、これは美しい。システムとしては、ガールエフェクトキャンペーンなどは耳にしたことありますな。

 章立てとしては「Communication」章に最も興味を惹かれました。皆さん大好き Apple の iPhone や Amazon Kindle など出ています。あと、点字で時刻が表示されて、指でなぞるだけで時間が分かる腕時計や、視認性が良いことで事故を防ぐ高速道路標示用のフォント(これこそデザインの真骨頂)、新しいコミュニケーションツールとして Twitter も紹介されていましたよ。

 がつがつのプロダクトデザインの話の方がやはり好みではありますが、そろそろ色んなことを客観的かつ俯瞰的に見る必要がある時期なので(全然出来てないから余計に)、自戒も込めつつ、感想の筆を措きます。
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「幼年期の終り」アーサー・C・クラーク
評価:
アーサー・C・クラーク
早川書房
コメント:傑作SF

●出張中の読書
・「幼年期の終り」アーサー・C・クラーク/ハヤカワ文庫SF


 業務出張中に何をしていたんだと云う叱責は甘んじて受けます、申し訳ありません、移動中に本読んでました。

 あああ、SF ってすげえなあ。

 SFを読んだのは初めてではありませんが、ハインライン「夏への扉」とJ・P ホーガン「星を継ぐもの」の二冊だけで、宇宙と人類の関係を圧倒的な想像力で描いたこれだけスケールの大きな作品は初めてでした。そんで読み終えて打ちのめされて呆然となっていますデルタエアラインの中で。原題は「CHILDHOOD'S END」で昔(うちの父親が SF にのめり込んでいた約三十年前)の版の邦題は「地球幼年期の終り」。これはこれで恰好良いし、「地球」付いていた方が内容に即している気もしますが、先入観なく読み進めるには現在の邦題の方がいいのかも。

 物語は、地球の上空に突如として現れた巨大宇宙船団により幕を開けます。乗員の姿は見えないながらも地球文明とは比べものにならないほど圧倒的な科学技術力を持つその宇宙人らは、流暢な英語で人類に語り掛け、地球の平和的な支配が始まります。彼らは不必要に地球に干渉せず、しかし最低限の手出しで地球を平和に導き、数十年の後には地球は理想郷・ユートピアへと変貌を遂げます。彼ら宇宙人は何者か、果たしてその目的は何か、そして地球は、人類はどこへ向かうのか。平和ならいいじゃん、で済まされない巨大で圧倒的な何かが背後に見え隠れします。

 物語の構成は「地球と上帝(オーバーロード)たち」「黄金時代」「最後の世代」の三部構成ですが、やはりそのクライマックス「最後の世代」は圧巻です。何が圧巻かについて細かく書くとネタバレに繋がりそうなので書きませんが、人類はいつか「幼年期」を終えるのかもしれません、現実にも。等と書きつつ、読書中一度だけ涙したのは最初の「地球と上帝」の終わり場面でした。あそこはねー、たまらんよ、うん。

 わたしはいわゆる現代小説、人間の行動やら感情やらを丁寧に描いて心に響く文章が好きなのですが、SF を読むことはそういった小さな関係の細々した出来事を丁寧に辿る読書ではなく、自分の想像の遙か上空をものすごい勢いで動いていくようなドライブ感があります。更に色々な予想外の物語を読みたい気持ちにさせられます。かといって SF が、つとにこの作品が人間の感情をお座なりにしている訳では決してなく、寧ろアーサー・C・クラークの文章は壮大な力に相対する人々を活写して非常に品があります。もう何と言うか、どうやったらこんな発想が生まれるのか空恐ろしい限りです。クラークの作品は確かな科学技術の知識に裏打ちされているとの定評があるのを、正に体験いたしました。
| 海外(その他) | 01:25 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ゲド戦記(3) 〜さいはての島へ〜」ル=グゥイン
評価:
アーシュラ・K. ル=グウィン
岩波書店
コメント:世界の揺らぎを感じ、大賢者ゲドと王子アレンは世界を救う旅に出る

●本日の読書
・「ゲド戦記 3 〜さいはての島へ〜」アーシュラ・K・ル=グゥイン/岩波少年文庫


 ゲド老年期にして本編締めの一作。若き王子アレンの要請で、世界全体に起こっている「ゆがみ」の正体を突き止めるべく、再び旅立つゲドと王子の話です。

 老いたゲドはロークの魔法学園で大賢者の座にいます。基本、世界に起こるトラブルを小さいうちに摘み取ることで世界のバランスをとる役目を果たしていると思われるのですが、この物語がアレンの視点で語られているため、冒頭から中盤に至るまで、ゲドの魔法使いらしさやその凄さはなかなか分かりません、アレンにも、読者にも(ただ読者は既刊二冊を読んでいれば、これがゲド流のやり方だと云うことに気づいており、アレンの血気逸る行動を「ふふん」と見ているに違いないのですが)。

 特に当てもなくめくらめっぽう世界を旅する二人は、色々な人に会い、色々な経験をします。この辺りが物語の「承」部分に当たり、著者が世界の文化を再構築してアースシーの世界を詳細に作り上げていることが分かります。

 旅の途上でアレンは心服していたゲドを疑います。あてどもなく航海して、しかも魔法も使わず疲弊、疲労して、世界をおかしくしている原因も杳として知れない。それは大賢者といえども力を失ったのではないかと疑うには十分だったでしょう。その経験とアレンの人間的成長も物語の醍醐味です(暗いのであまりジュブナイルと云う感じは受けませんが)。

 終盤で物語は一気に動きます。全体の物語としては落ち着くのですが、少しだけ物足りなさが残ります。それは回収されていない伏線が気になるのではなく、語られていない物語を読みたい欲です。と云うことで、外伝が読みたいです。
| 海外(その他) | 00:06 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ゲド戦記(2) こわれた腕環」ル=グウィン
評価:
アーシュラ・K. ル=グウィン
岩波書店
コメント:エレス・アクベの腕環のもう半分を探し、ゲドはアチュアンの墓所で大巫女の少女、アルハと出会う。

●ちょっと前の読書
・「ゲド戦記(2) こわれた腕環」アーシュラ・K・ル=グウィン作 清水真砂子訳/岩波少年文庫

 前巻がゲド少年期〜青年期の話とすると、今巻はゲド青年期〜壮年期の話です。しかもゲド本人は物語の中盤まで全く出て来ないと云う、ハリーポッターを期待している方には非常に不親切な物語の第二巻です(繰り返すが、わたしはハリポタ未読。イメージで書いてます)。

 うん、暗い、相変わらず暗いし、魔法でちゃちゃっと解決しないし、自然に逆らわないように生きてるなあ。でもこう云うファンタジーは結構好きです。「風の谷のナウシカ」(原作の漫画全七巻の方)と似た自然との距離感ですな、異論はあるかも知れませんが。そもそもこの世に魔法があるとしてもそれは等価交換であったり、自然の力を少し借りると云うものであろうと考える自分にとっては、この物語の魔法スタンスがしっくり来ます。

 物語は唐突にゲドと無関係な少女から始まります。前半は、歴史ある、と言いつつ若干形骸化している印象の否めない大神殿の大巫女に選ばれた少女テナー・巫女名アルハの生い立ちと大神殿での暮らしが訥々と語られます。大神殿には巨大な地下迷宮があり、退屈な大巫女生活の合間に聞き覚えで地下迷宮の探索を進めるアルハの前に、ある日侵入者と云う形で男が現れます。それが誰あろうゲドその人なのですが、ゲドが現れてからの急激な物語の動き方は、多少冗長に感じる前半の地下迷宮とアルハの心境描写があっての賜物と思います。そしてゲドは力のある魔法使いですが、結構命の危険に晒されていて、少しでもタイミングを誤っていたり言葉の選び方を間違っていたらあっさり死んでいたのではないかと思われるぎりぎり綱渡りっぷり。魔法使いも万能じゃないのよ、と云うのが人間くさくていいじゃないですか。

 ゲドが迷宮を訪れた理由が、前巻で少しだけ登場した半分に割れた腕環、「エレス・アクベの腕環」なのですが、この重要アイテムの登場の仕方が(前巻でも)あっさり書かれ過ぎているので「これってそんなに重要だったの? 良く捨てられなかったなー」と妙な感心をしました。普通、こう云う世界を動かす系のアイテムって、もっと重々しく、歴史も伝説もしこたま持ってたりするもんなんでしょうが、このエレス・アクベの腕環に関しては敢えてそう云うごてごてを取っ払ったのかと思えるほどの簡潔な生い立ち。しかし結末にはちゃんと影響を及ぼします。

 読後感はいいです。外伝でテナー再登場との事らしいので、楽しみにしています。

| 海外(その他) | 02:26 | comments(0) | trackbacks(0) |
「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ
●本日の読書
・「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ/早川 epi 文庫

 あー、ひどい話だ。ひどいひどい。

 どこらじゅうの書評で書かれているでしょうが、内容に触れず書評を書くことが非常に難しい物語です。ある特殊な施設・ヘールシャムで子供時代を過ごした三人の男女を中心とした物語で、その施設の目的が物語の本筋に大きく影響を与えています。そのほの暗い秘密がちらちらと見え隠れしながら否応無く物語は進み、彼らは成長していきます。とは云え、施設の目的は、卒業者が就く職業の「介護者」「提供者」から、序盤で何となく推測が付きますがね。

 この物語で特筆すべきはその施設が設立されたおぞましい目的や発想ではなく、あくまで淡々と見せつつもねちねちと展開する狭いコミュニティ内の人間関係の描写です。主人公のキャシー、その友人で女子のリーダー的存在ルース、生涯を掛けて深い繋がりを持つことになる男性トミーとの、近付いたり距離を置いたりするその些細なきっかけ。小学生から中学生の時期における、どうってことない出来事が人生の一大事のように思って仕舞うあの独特の環境と感情。それが微に入り細に入り描かれている、その美しさ。

 ヘールシャムでの思い出が、卒業後にもカットバックで挿入され、それぞれの人物に影響を与える緻密な展開も見事。いわゆるエンターテイメント小説とは違って、ダイナミックな盛り上がりはありませんが、こう、しみじみとひどい話です。しかし、心を動かされます。

| 海外(その他) | 12:50 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ゲド戦記(1) 影との戦い」ル=グウィン

●本日の読書
・「ゲド戦記(1) 影との戦い」アーシュラ・K・ル=グウィン作 清水真砂子訳/岩波少年文庫


 会社の方にお借りして読んでいます第一巻。魔法が出てくるファンタジーは中学生の時に読んだ「ロードス島戦記」以来です、ってどんだけだ。ハリーポッター(未読)のような少年魔法使い成長譚かと思ったら、意外に暗くて地道な話で、いい方向に期待を裏切られました。

 主人公のゲドは天性の才能があり、ロークの学院で本格的に魔法を学び始めます。しかし驕った性格が災いして、禁断の魔法、使者を復活させる魔術を行ったが故に重傷を負い、得体の知れぬ恐ろしい「影」に追われることになります。生い立ちからこの影との戦いまでを描いたのが第一巻です。

 ファンタジーや魔法にはさほど興味がありませんが、この作品の中の、無から有は生み出せないと云う、漫画「鋼の錬金術師」で言うところの等価交換の概念は好きです。あと、師匠であるオジオン始め、経験を積んだ大魔法使いほど無闇に魔法を使わず謙虚に生きているところなんかも。人間、極めたら仙人みたいになる感じが物語の根底に流れていて良いです。

 あと個人的な不覚ポイント。訳者あとがきに三巻までの大まかなあらすじ(ネタばれ含む)が書かれておった。つい読んじゃった。

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「イラクサ」アリス・マンロー
評価:
アリス・マンロー
新潮社
¥ 2,520
コメント:日常生活に潜む密やかな変化を描いた傑作短編集

●本日の読書
・「イラクサ」アリス・マンロー著 小竹由美子 訳(新潮クレスト・ブックス)


「短編の女王」の異名を取るカナダ人作家アリス・マンローによる短編集。短編小説なのに長編小説を読んだあとのような余韻が残る、と云う謳い文句に最初は「うーん、これがそうなの?」と思っていたのですが、何編か読み進めるにつれて段々と慣れて行き、じっくりかみしめられるようになりました。確かに、長編小説のような味わいがあります。

 直前のエントリーでも書きましたが、海外小説は登場人物の名前や習慣で人となりを決められない分、入って行きにくいのです。しかしこの「イラクサ」に納められた作品は、主となる登場人物以外の人物にも奥行きがあり、彼らは彼らなりの人生を送っており、それぞれが主人公となるような別の物語がどこかにあると思わされるような、簡単でいて深い仕草がさらりと織り込んであるのです。こう云うところが上手なんだなあ。

 物語の構造としては、どれもこれも日常を切り取った、限られた時間を取り出しただけのお話です。手に汗握る大事件やページをめくる手を急がせるようなスリリングな展開はありません。ですがその何気ない一つ一つの透明な空気の積み重ねが致命的な何かを生み出す土壌となります。

 なにげないのに、致命的。

 その致命的な出来事は、繰り返しますが大事件ではありません。しかし主人公の、人生に対するスタンスを確実に転換させる、大きな何かです。このことがあるとないでは、行く手が百八十度変わるような、静かな何かです。その心模様の描写をゆっくり味わうこと、それが読了後に余韻として残るものです。

 短編集と云うものは作品の甲乙が割りとつきやすいものだと思うのですが、この一冊はどの作品も優劣付け難いです。ですが強いて挙げるなら表題作の「イラクサ」が一番好きです。次点は「浮橋」。高価な本だし諸手を挙げてお薦めは出来ませんが、休日の夕方(夕立の日だと更に良い)に読む本がなければ、あなたの人生を七十二度ほど回してくれる素敵な本だと思います。

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