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書評・三八堂のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます
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2020.09.14 Monday
「三体」劉慈欣
●本日の読書 ・「三体」劉慈欣 著 大森望、光吉さくら、ワン・チャイ 訳/早川書房 方々で話題のSF人気作、第二部が刊行されてやっと第一部を読了しました。長い本を読む体力に欠けてきている今日この頃、皆様お元気ですか。本書はアジア人の作品として初めてヒューゴー賞を受賞しているので面白さはお墨付きなのですが、いやあすごく面白かった。設定、発想、スケール感、描写、登場人物の個性、全てに於いて圧巻の面白さだった。漫画「バーナード嬢曰く。」の登場人物、SF好き女子高生の神林がこの作品を読む回で、終わりに差し掛かろうという時に本を閉じ歩き回るシーンがあります。どうしたのか尋ねられると 「……読んでいてあまりに面白いと『最後までこの面白さキープ出来るの? 大丈夫?』って不安になって手が止まっちゃうんだよね」(「バーナード嬢曰く」第5巻82ページ) と答えるこの気持ちが分かる。最初から最後まで面白い。 一応あらすじらしきものを書きます。中国でナノマテリアルを研究する王水(ワン・ミャオ ワンはさんずいにおう、ミャオは三つの水。漢字出ない)が語り手です。近年、世界的に有名な研究者が次々に自殺をするということが起こり、一度会ったことのある宇宙物理学者で印象的な美しさの楊冬(ヤン・ドン)も自殺者の中に名を連ねたことから、彼も少しずつこの件に関わり始めます。VRのオンラインゲーム「三体」がどうもキーになっているようで、ワン・ミャオはそのゲームをプレイし始めます。このゲームの描写がまたえらいSFチックというか、謎に満ちていて訳の分からないシステムながらこの怪現象のキーになると云うことが読者に示唆されており、非常に魅力的です。上手い。 もう一つ、過去パートとしては、中国の文化大革命で父親を惨殺された葉文潔(イエ・ウェンジェ)が主人公。文革の粛正対象者の親族ということで不遇の彼女は学籍も剥奪され、良く分からない研究組織に属することになります。勤務することになった研究施設は何が研究目的か明かされず、秘密主義組織の得体の知れなさが、施設の特徴的な建造物であるパラボラアンテナの風景と相まって不気味さが際立ちます。現代パートの葉文潔は、自殺した美しき物理学者、楊冬の母として登場します。 中盤、物語は思ってもみない方向に転がります。とあるシーンで「えええええーー!」となりました。ネタバレ避けるためあまり何も言えませんが、最低限言うならこのシリーズはファーストコンタクトものでして、そこで色々察しろ。SF読みつけない人でもエンタメ小説として面白く読めると思います。最初、中国人の名前が覚えられず辟易しましたが、それは海外小説(なかんずくロシア)に比べれば難易度低し、大丈夫大体そのうち覚えます。さて、第二部も読むぞ!
JUGEMテーマ:小説全般 2019.02.17 Sunday
「よしきた、ジーヴス」P ・G・ウッドハウス/国書刊行会
●少し前の読書 ・「よしきた、ジーヴス」P ・G・ウッドハウス 森村たまき 訳/国書刊行会 新年明けましておめでとうございます、本年も宜しくお願いいたします(今二月)。てかあれですね、去年全然本読んでない感じがしますが、読んでても感想書いていないだけなので、少ないながらも読書は続けています。感想書いていない本、五冊くらい? いや、ちょっと見栄張ったな、三冊くらいかな。 皇后陛下がお誕生日のご回答で「ジーヴスも二、三冊待機しています」と仰ったのですが、地元図書館に運良くジーヴスシリーズが全巻揃っておりましたのでそりゃ読むしかないでしょう。皇后陛下と同じ本を読みたい、単なるミーハーです。全十四冊の内これ(シリーズ二冊目)を選んだのは、シリーズ最初の一作「比類なきジーヴス」が貸出中だったからです。 ちょっと昔のイギリスが舞台の、貴族の坊ちゃんと執事のジーヴスが中心となって展開するシリーズもののコメディー小説です。ジーヴスは何か揉め事があると知恵を働かせて解決をするということで、ご主人様であるお坊っちゃまバーティーの親類・友人からの評価が高い執事。今回はバーティーの友人、フィンク・ノトルが自分の恋の問題をジーヴスに相談しに訪れたところから幕を開けます。フィンク・ノトルは変人と堅物を足して二で割らない感じの、恋とか超絶無縁な人物。恋い焦がれる相手がバーティーの親戚という偶然もあり、バーティーは「よしきた僕がくっつけてやる」と前に出て動くことから騒動が始まります。友人が、自分ではなくジーヴスに相談しに来たことでヘソを曲げてる訳ですね。 ジーヴスは「ごもっともでございますご主人様」と言いつつも自分の良いと思うところは曲げない、ちょっと癖のある執事のため、なんか色々と面白い。わたしがあまり海外小説を読んでいないと云うこともありますし、時代背景や風習、聖書の格言が盛り沢山に入った言い回しに慣れるまで少し時間が掛かりましたが、小説最後のまとめはお見事。「残りのページ数でこれどうやって解決するんだ」と思っていたら、ちゃんとジーヴスが解決するもんなあ。 また別の作品も読んでみたいです。 2017.08.14 Monday
「一九八四年(新訳版)」ジョージ・オーウェル
●本日の読書
やっと読んだよ、かの著名なディストピア小説。村上春樹の「1Q84」はこの話とどういう関係にあるかは後者を読んでいないので分からないけれど、Kindle で安くなっていた時に購入して三年ほど放っておいたのをちまちまと読み進めて、ああ確かにこういう未来に、今わたしたちはいるのかも知れないと皮肉っぽく思った次第です。 1984年(が遥か未来だった頃に書かれた小説ね)、共産主義を思わせる政府機関で働く主人公の仕事は、日々政府に都合の良いように書き換えられていく「過去の歴史」を正当化するために、その証拠となる出版記事を校閲して、修正不可能なものは永久に破棄するというもの。絶対的正義の存在「ビッグ・ブラザー」が支配する世界は全てが徹底的に管理されており、全国民が死角なくに監視され、反政府的動きの密告を推奨されているという正にディストピア(対義語は言うまでもなくユートピア)。そんな生活に息苦しさを感じる感覚も麻痺した状態の主人公ですが、ある日同じ建物で働く顔見知り程度の若い女性に心惹かれます。しかし戸籍上は結婚している彼が個人的に彼女と連絡を取ることは、この監視社会では不可能。ばれたらいつの間にか存在を跡形もなく消されます。事実、彼の知り合いの中にはいつの間にか姿を見なくなり、そして後には誰もその存在を知らなくなる人が何人もいる状態。知り合いたちがどこへどのように消えたのか、どうなったのかを調べることは即ち自分の身を「消される」危険に直結します。 その女性、ジュリアとは次第に秘密で連絡を取り合う仲になるのですが、この小説の読みどころは後半です。非情なる非常識な監視社会が成立するその仕組みが明らかにされていきます。最近海外でこの作品が舞台化した折、観客の中で途中気分が悪くなる人が出た、というのも頷ける展開。その衝撃的な結末。うわあそう終わるのか、と。あまり書きすぎるとネタバレになるのでこの辺でやめますが、ちょっと世をシニカルに見たい時に読んでみるといいと思います。あと懺悔しますが、巻末のピンチョンの解説、読み飛ばしましたごめんなさい。
JUGEMテーマ:小説全般 2015.09.05 Saturday
「その女アレックス」ピエール・ルメートル
・「その女アレックス」ピエール・ルメートル 作 橘明美 訳/文春文庫 エグいよ。 史上初の六冠達成と云うことで、知ってるのも知らないのも色々ありますが、以下の賞を受賞しているこの作品。「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト 10」「ミステリが読みたい!」「IN POCKET 文庫翻訳ミステリーベスト 10」「イギリス推理作家協会賞(仏)」「リーブル・ド・ポッシュ読者賞(仏)」……錚々たる賞ですなあ。読んだ感じではミステリーと云うよりサスペンスでしたけれど。 冒頭、若くて美人な女性アレックスが誰とも知れない怪力の男に殴られ誘拐、監禁されます。男はアレックスを全裸にして、体を動かすことの出来ない狭いキューブ型の木枠の檻に閉じ込めて天井から吊り下げます。男は彼女をどうする気なのか、果たして生きて逃げ出すことが出来るのか、極限状態の描写と共に読者の緊張感は高まります。文庫の帯には「101 ページ以降の展開は、誰にも話さないでください。」とありますが、ある程度ミステリを読んでるわたしの感覚では、101 ページ以降ではなく、第三部 337 ページ以降の展開の方が意外なので、101 ページとか早すぎ。 誘拐されたアレックスを探すために尽力するパリ警察の三人の刑事はキャラクターが立っていていいです。極端な小柄で過去の辛い体験により第一線から退いている中年刑事カミーユ。その元部下の超金持ちイケメンスタイリッシュでエレガントな刑事のルイ。同じく元部下でコツコツ作業には定評があるが超絶ケチで友達にしたくないアルマン。上司のル・グェンも頼りになるんですが、刑事たちの人間味を描く感じじゃなくて、キャラクター小説的に強調してあります。だから事件の展開とはあまり関係のない刑事の個人語りや昔の体験などもふんだんに出て来るので、多少間延びした感じに受け取られることはあるかもです。てゆうかルイ格好いいよルイ。 話の意外性に関しては、確かに帯に煽り文句通り意外な転がり方をするので「おおー」と思うのですが、いかんせんエグいです。描写がエグいです。登場人物がそのような残虐な行為に走るには理由があるんですけど、肉体的、精神的に痛そうな描写が苦手なわたしにとっては読み進めるのが結構苦痛でした。 結末は賛否両論あるようですな。わたしはアリだと思うのですが上手にやらないとまずい決断ですし、そこで振りかざす「正義」は果たして正義なのかは疑問が残りますね(読んだ人にしか分からない書き方)。 JUGEMテーマ:小説全般 2014.04.30 Wednesday
「ゲド戦記(4) 帰還」ル=グゥイン
・「ゲド戦記(4) 帰還」ル=グゥイン/岩波少年文庫 感想書くの忘れてた。大魔法使いゲドは前の巻までで魔法を使い尽くし、この巻では全く魔法を使いません。それじゃあ何をするのかと言えば、領主の野望を打ち砕くお話です。 二巻で登場した巫女アルハ(テナー)が再登場して物語は始まります。ボス戦が領主の野望だなんて過去に世界を救った大魔法使いにとってはスケールダウンなジョブに取られそうですが、その分ゲドとテナーと彼女に救われた火傷の少女との触れ合いに注目した物語となっています。なんだかんだでわたしに取ってはこの四巻が今までの中で一番「人間の営み」を読ませた筋書きのため、印象深い一冊になっています。 ゲド、いえ作中ではハイタカの名になっていますが、彼は魔法を使えない代わりに普通の男性がそうするように、テナーと少女を肉弾戦で守ります。読者全員が過去のハイタカの活躍を知っているだけに魔法が使えないことが非常にもどかしい。もどかしいのですが、ファンタジーではない現世に生きるわたしたちに取っては、ハイタカが大切な人を守るために何をどう考え動くか、と云うことを見直すにいいお話だと思います。 オジオンやレバンネンなど、過去にハイタカが出会った人々も再登場するので既刊三冊は読んでからどうぞ。読み終えて暫くしてからジブリのアニメ映画「ゲド戦記」見たのですが、この四巻の内容が映画の物語の中心だったので、ジブリから原作に来る人は頑張って四冊読んで下さいね。 2014.01.07 Tuesday
「ムーミン谷のクリスマス」トーベ・ヤンソン
・「ムーミン谷のクリスマス」トーベ・ヤンソン ラルス・ヤンソン/筑摩書房 クリスマスにくすみ書房さんからお送り頂きました(友の会会員特典)。ムーミンはそのシュールでシニカルな世界が子ども向けではないところからわたしの中で最近急速に株が上がっている作品です。先日も講談社青い鳥文庫の既刊七冊セットを大人買いしたばかりだったので、偶然の嬉しいプレゼントでした。アニメのムーミンは見たことないのですが、ヤンソンの小説やこのムーミン・コミックス読むと、ムーミンの世界は全然童話的でないことがすぐ分かります。コミックスは今回初めて読みましたが、コミックスの方がおかしい。ムーミン谷の住人はムーミンママを除いてみんなおかしい。 そう、ムーミンママただ一人が良識のある生き物です。 文章が横書きの為、漫画は日本のそれと逆開きで左から右のコマへ読み進めるのがちょっと新鮮です。1ページは3×3の9コマで構成されています。この巻には「預言者あらわる」「イチジク茂みのへっぽこ博士」「ムーミン谷のクリスマス」の三本の漫画が収録されていますが、前2本は、ムーミン谷の住人たちが預言者や精神科医の言動をまともに受け止めたためにどんどんおかしくなっていき、全員疲弊してどうしようもなくなっていく話です。ね、おかしいでしょ、童話じゃないでしょ。でもこれが深くて面白いんですよ。因習に囚われること、人の言葉をまともに受け止めすぎることの弊害なんかを感じます。 ただ、非常に個人的な感想としては、これを読んで「ああ、今までの自分は人の言葉に影響を受け過ぎていたなあ」と反省して生き方を変えるとかではなく、単に外から入ってきた変な人に振り回されるムーミントロールたちの物語を読む、と云うスタンスでいいんじゃないかと思います。じっくり読んで自分の人生考え直すのも勝手だけど、単に「ふふ」って唇の片方上げて楽しく読めばそれでいいんじゃないかと思います、なんとなく。 にしても、母は強い生き物ですな。うん。 2012.11.10 Saturday
「WHY DESIGN NOW?」エレン・ラプトン他
・「WHY DESIGN NOW?」エレン・ラプトン、カーラ・マカーティ、マチルダ・マケイド、シンシア・スミス/英治出版 デザインが無関係ではない仕事をしています。つっても全面的にデザインが出ると云うよりは「付加価値としてデザインいい方がいいよねー」と云った感じの微妙なかかわり方ではありますが、デザインセンスはないよりある方が勿論いいので、プロダクトデザインについての本であろう本書を手に取ってみた訳です。 ……システムとしてのデザインに関する本でした。都市計画とか、途上国に労働を生み出すためのデザイン商品とか。あと技術が発展することで可能になったデザインとか(←これはちょっと興味あるけど)。 人間工学的にこのデザインが必要であるとか、この動きを実現するのに最も効率が良いのは従来の形ではなくこの形、とかそういった内容を期待していたので肩透かしでしたが、システムとしてのデザインも今後の地球環境を考えるに無視できない大きな課題であり、そう云った試みを知ると知らないとでは差もあろうと思いますので、興味がある部分だけ重点的に読みました。ヒートセラミックのテーブルウェアとか、フランス AVG 鉄道とか発電効率のよい LED デスクスタンドなどは技術の発達で可能になったデザインで、これは美しい。システムとしては、ガールエフェクトキャンペーンなどは耳にしたことありますな。 章立てとしては「Communication」章に最も興味を惹かれました。皆さん大好き Apple の iPhone や Amazon Kindle など出ています。あと、点字で時刻が表示されて、指でなぞるだけで時間が分かる腕時計や、視認性が良いことで事故を防ぐ高速道路標示用のフォント(これこそデザインの真骨頂)、新しいコミュニケーションツールとして Twitter も紹介されていましたよ。 がつがつのプロダクトデザインの話の方がやはり好みではありますが、そろそろ色んなことを客観的かつ俯瞰的に見る必要がある時期なので(全然出来てないから余計に)、自戒も込めつつ、感想の筆を措きます。 2012.08.07 Tuesday
「幼年期の終り」アーサー・C・クラーク
・「幼年期の終り」アーサー・C・クラーク/ハヤカワ文庫SF 業務出張中に何をしていたんだと云う叱責は甘んじて受けます、申し訳ありません、移動中に本読んでました。 あああ、SF ってすげえなあ。 SFを読んだのは初めてではありませんが、ハインライン「夏への扉」とJ・P ホーガン「星を継ぐもの」の二冊だけで、宇宙と人類の関係を圧倒的な想像力で描いたこれだけスケールの大きな作品は初めてでした。そんで読み終えて打ちのめされて呆然となっていますデルタエアラインの中で。原題は「CHILDHOOD'S END」で昔(うちの父親が SF にのめり込んでいた約三十年前)の版の邦題は「地球幼年期の終り」。これはこれで恰好良いし、「地球」付いていた方が内容に即している気もしますが、先入観なく読み進めるには現在の邦題の方がいいのかも。 物語は、地球の上空に突如として現れた巨大宇宙船団により幕を開けます。乗員の姿は見えないながらも地球文明とは比べものにならないほど圧倒的な科学技術力を持つその宇宙人らは、流暢な英語で人類に語り掛け、地球の平和的な支配が始まります。彼らは不必要に地球に干渉せず、しかし最低限の手出しで地球を平和に導き、数十年の後には地球は理想郷・ユートピアへと変貌を遂げます。彼ら宇宙人は何者か、果たしてその目的は何か、そして地球は、人類はどこへ向かうのか。平和ならいいじゃん、で済まされない巨大で圧倒的な何かが背後に見え隠れします。 物語の構成は「地球と上帝(オーバーロード)たち」「黄金時代」「最後の世代」の三部構成ですが、やはりそのクライマックス「最後の世代」は圧巻です。何が圧巻かについて細かく書くとネタバレに繋がりそうなので書きませんが、人類はいつか「幼年期」を終えるのかもしれません、現実にも。等と書きつつ、読書中一度だけ涙したのは最初の「地球と上帝」の終わり場面でした。あそこはねー、たまらんよ、うん。 わたしはいわゆる現代小説、人間の行動やら感情やらを丁寧に描いて心に響く文章が好きなのですが、SF を読むことはそういった小さな関係の細々した出来事を丁寧に辿る読書ではなく、自分の想像の遙か上空をものすごい勢いで動いていくようなドライブ感があります。更に色々な予想外の物語を読みたい気持ちにさせられます。かといって SF が、つとにこの作品が人間の感情をお座なりにしている訳では決してなく、寧ろアーサー・C・クラークの文章は壮大な力に相対する人々を活写して非常に品があります。もう何と言うか、どうやったらこんな発想が生まれるのか空恐ろしい限りです。クラークの作品は確かな科学技術の知識に裏打ちされているとの定評があるのを、正に体験いたしました。 2012.02.22 Wednesday
「ゲド戦記(3) 〜さいはての島へ〜」ル=グゥイン
・「ゲド戦記 3 〜さいはての島へ〜」アーシュラ・K・ル=グゥイン/岩波少年文庫 ゲド老年期にして本編締めの一作。若き王子アレンの要請で、世界全体に起こっている「ゆがみ」の正体を突き止めるべく、再び旅立つゲドと王子の話です。 老いたゲドはロークの魔法学園で大賢者の座にいます。基本、世界に起こるトラブルを小さいうちに摘み取ることで世界のバランスをとる役目を果たしていると思われるのですが、この物語がアレンの視点で語られているため、冒頭から中盤に至るまで、ゲドの魔法使いらしさやその凄さはなかなか分かりません、アレンにも、読者にも(ただ読者は既刊二冊を読んでいれば、これがゲド流のやり方だと云うことに気づいており、アレンの血気逸る行動を「ふふん」と見ているに違いないのですが)。 特に当てもなくめくらめっぽう世界を旅する二人は、色々な人に会い、色々な経験をします。この辺りが物語の「承」部分に当たり、著者が世界の文化を再構築してアースシーの世界を詳細に作り上げていることが分かります。 旅の途上でアレンは心服していたゲドを疑います。あてどもなく航海して、しかも魔法も使わず疲弊、疲労して、世界をおかしくしている原因も杳として知れない。それは大賢者といえども力を失ったのではないかと疑うには十分だったでしょう。その経験とアレンの人間的成長も物語の醍醐味です(暗いのであまりジュブナイルと云う感じは受けませんが)。 終盤で物語は一気に動きます。全体の物語としては落ち着くのですが、少しだけ物足りなさが残ります。それは回収されていない伏線が気になるのではなく、語られていない物語を読みたい欲です。と云うことで、外伝が読みたいです。 2012.02.18 Saturday
「ゲド戦記(2) こわれた腕環」ル=グウィン
●ちょっと前の読書 |