書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

「神の子供たちはみな踊る」村上春樹
評価:
村上 春樹
新潮社
¥ 460
コメント:阪神大震災が見え隠れする短編集

●本日の読書
・「神の子供たちはみな踊る」村上春樹/新潮文庫

 そう言えば「かえるくん、東京を救う」以外を読んでいなかったなと思い出し、上下組みの長編「1Q84」に取り掛かる前の助走として手に取ったら、一日で読んで仕舞いました。全て、阪神大震災の影響がちょっとずつ見える(但し直接被害に遭った人は出てこない、ほんのちょっとした関わり方の)話が六編納められています。

 やっぱり村上春樹は短編がいいですね。どんな長編よりも短編一本の方が余韻も深く、上手な小説だと思います。一番気に入ったのが「タイランド」で、小説として美しいのは「UFO が釧路に降りる」と「アイロンのある風景」。何がどうあれば小説として美しいかというのは人それぞれだと思いますが、私の場合は感性の隙を突いてはっとさせられる、良く出来た嘘の話を高く評価します。短編でも話の作りと人物造形がしっかりしていれば、話が終わっても登場人物たちにのその後の生活が想像出来るような、そんなのがいい小説だと思うのです。あと、別にきちんと落ちなくてもいいです。ある一点に向かってテンションが上がっていく、落ちギリギリのところで話がすぽんと終わってもいいです(それが余韻)。

 と云う事でこれで心置きなく「1Q84」に取り掛かれます。冒頭から既に「かえるくん〜」ほど魅力的じゃないのがアレですが、長編向きのテンションと短編向きのテンションってあるしなあ。最初からフックが強いと牽引力を続かせるのが大変だしなあ。

| 国内ま行(村上 春樹) | 23:57 | comments(0) | trackbacks(0) |
「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」村上春樹
評価:
村上 春樹
新潮社
¥ 2,520
コメント:触れ合う二つの世界のはざまで自我を追い求める

●本日の読書
・「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」村上春樹/新潮社


 え、そんな終わり方?

 と云うのが読了後の率直な感想ですが、既読の村上作品の中では最も良かったです。うん、先達は誠にあらまほしきことなり。薦めてくれたしょうまんくん、まおちゃん、旦那、面白かったよー。

「ハードボイルド・ワンダーランド」と「世界の終り」と云う二つの節が交互に語られて、寄り添うようにその二つの世界が繋がっていく長編小説です。邂逅と云うよりは、「寄り添う」とか「表裏一体」と云う言葉の方が適切かと思います。「ハードボイルド・ワンダーランド」は物語が動いていくので面白いのですが、「世界の終り」は序盤いささか退屈。しかし後半になると「世界の終り」の方が面白くなって来ました。

 筋書きはこのくらいにして、これを機会に考えてみました、「村上春樹とわたし」。

 村上作品はそこそこ読んでいますが、何度も書くように語り口が鼻につくところが多く、大ファンとは云えません。どこでそう思うかと云うとほんのちっちゃなところなのですが、例えばこの話だと紙を止めるクリップを「ペーパー・クリップ」といちいち表記してあるところ。二回目以降「クリップ」で良くないですか? 自分はあの文房具を「ゼムクリップ」と呼んでいるのでいちいち気になります。何で中点が入るかな、とか。簡単にまとめれば、妙にアメリカナイズドされているところがやたら目立って感じられるのです。音楽の趣味などは言うに及ばずですが、趣味の良し悪しではなく、時代を感じさせる日本の文化が最低限しか登場していないのも不自然に感じたり。

 あと毎回書いてますが、登場人物の男の、スキルが高そうなのに無地っぽくて世間ずれしていないところと、登場人物の女の、男にすんなり寄り添える都合の良さ(男にとって都合が良いのではなく、作者にとって都合が良いように感じられる人物造型)などがやはり苦手で。

 ただ他の村上作品に比べると、冒頭で「計算士」「記号士」と云う架空の職業が登場し、これが日常世界の物語ではなくファンタジーであることが示唆されているのは、このアメリカナイズドから厭らしさを取り除いているので良いです。同じ匂いでも「海辺のカフカ」の様に明らかな日本の話でそれをされるよりずっと清々しいです。

 まとめると、この作品は確かに村上春樹世界の匂いが強いのですが、世界設定を練り込んで考えてある為、自我を見つめ直す男のファンタジーとして面白く読めました。長編の中では一番好きです(でも短編には敵わない)。

| 国内ま行(村上 春樹) | 15:50 | comments(0) | trackbacks(0) |
「蛍・納屋を焼く・その他の短編」村上春樹
評価:
村上 春樹
新潮社
¥ 380
コメント:「ノルウェイの森」「世界の終りと〜」作品世界に繋がる短編集

●本日の読書
・「蛍・納屋を焼く・その他の短編」村上春樹/新潮文庫


 村上春樹ってこんなに良かったっけ?

 のっけからハルキスト及びゆるやか村上春樹ファンに喧嘩を売るような書き方で申し訳ありません。いやはや吃驚しました。いい、すごくいいよこの短編集。食い入るように一日で読了しましたが、ずーっと「いいわー、上手いわー」と心の中で喝采を贈りながらページを捲っていました。はあ(余韻)。

 収録作品は以下です。
・「蛍」
・「納屋を焼く」
・「踊る小人」
・「めくらやなぎと眠る女」
・「三つのドイツ幻想」

 うち、「蛍」「めくらやなぎと眠る女」は「ノルウェイの森」の作品世界のお話(番外編と云うか、脇道にそれたようなお話)で、「踊る小人」は「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」の作品世界のお話です。後者は未読だったので、旦那に教えて貰って初めて知りました。

「ノルウェイの森」を読んでいた時、付き合っていた人(現旦那)にこの短編集を薦められて何がしか読んだ記憶があったのですが、おそらくは「蛍」と「めくらやなぎと眠る女」だけだったのだと思います。その頃は特にこの短編集が上手いとも良いとも思わず「ふーん」で済んでいたように思うのですが、十年経って再読したら受け取り方がまるで違いました。白黒世界に色が付いたような。

 再読のきっかけもジュンパ・ラヒリが「見知らぬ場所」で受賞したフランク・オコナー国際短編賞の第二回受賞作品が「めくらやなぎと眠る女」だったから、さてどんなだったかしらと云う、ある種村上春樹を試すような不純な動機だったのですが、新鮮な驚きを与えられて、いやはや読んで良かったです。

 こうして手放しで絶賛していますが、一体この短編集の何がいいんだろう。簡素な文章だけど奇麗で、登場人物を丁寧に描いているところでしょうか。何か紋切り型の下手糞な評価しか出来ないのですが、気持ちの良い文章でした。あ、文章は気持ちが良くて上手いけれど、登場人物の性格が嫌いなのは変わりませんけどね(そう、私は村上作品に頻出する、ちょっとすかしたお洒落っぽい趣味の、無個性な割に女にモテる男が嫌いなのです)。

| 国内ま行(村上 春樹) | 10:56 | comments(2) | trackbacks(0) |
 1/1