書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

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「ナニワ・モンスター」海堂尊
評価:
海堂 尊
新潮社
コメント:一般市民が受け取る情報は既にして操作されている

●本日の読書
・「ナニワ・モンスター」海堂尊/新潮文庫


(結局のところ、海堂作品は全部読むしかないのだ)解説・津田大介

 本作はインフルエンザ・パンデミックに関するメディア情報操作と霞ヶ関官僚の利権に関するお話です。新型インフルエンザ「キャメル」の日本上陸を水際で阻止すべく展開される成田での検疫強化を尻目に、渡航歴のない人間が国内でキャメルを発症……もう既に多くの人の記憶から抜けてしまっていますが、2009 年春頃に国内を騒がせた A/H1N1 新型インフルエンザの蔓延が下敷きになっています。文芸誌連載で読んでいた人はすごく「今まさに起こっていること」との感じが強かったでしょうなあ。著者は現実事件を作品に取り入れて、その根幹にある医療システムの問題点と歪んだ情報操作について問題提起を繰り返していてお見事。わたしなんか、すぐにメディアに踊らされる方だからね、思慮が足りないからね。

 海堂尊は怒ってる。この国のいろいろな歪みに。

 第一部は地域医療を支える町医者の視点で新型インフルエンザがメディアの情報操作のより市井の人々を巻き込んでいく様を描き、第二部は検察官の正義を描き、第三部は自治体の敏腕首長の理想と現実を描いています。どの章も興味深いのですが、第一部が特にエンタテイメントとして面白かったです。キャメルがいかに危険かと云う情報が蔓延し、町に無遠慮な取材が訪れ、地域がおかしくなっていく様が。それを阻止する医者たち、黒幕の活躍を期待してどんどん読み進めて仕舞います。登場人物の未決着の過去の話などが残っているので次回作もきっと読んじゃうんだろうなあ。明らかに橋下徹現大阪市長モデルの村雨知事の活躍も望まれますし(しかし執筆時は知事だったんですよね橋下さん)。

 そして話の筋とはちょっとずれるのですが、第三部の地方自治体に於ける医療施策のモデルとして、解剖率 100% の町、舎人町という自治体が登場するのですが、この町のモデルになった自治体が実際に存在するということが驚きです。福岡県の町だそうですが、「剖検率 100% の町ー九州大学久山町研究室との 40 年」(祢津加奈子/ライフサイエンス出版)という本に興味が湧きます。

「ケルベロスの肖像」で一応の完結を見た田口・白鳥のバチスタシリーズですが、本作は旧知の登場人物にスポットを当てた同時系列の別の作品です。文庫帯には「新章開幕」の字が踊りますが、彦根を主人公にしたシリーズになるんでしょうかどうでしょうか。本作続編の「スカラムーシュ・ムーン」は新潮誌上で連載中とのことですが、バチスタほど長くならないんじゃないかな、彦根の独壇場なので(頭良すぎるやつが主人公だと話が長くならない気がする)。
| 国内か行(海堂 尊) | 11:22 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ケルベロスの肖像」海堂尊
●本日の読書
・「ケルベロスの肖像」海堂尊/宝島社文庫


 バチスタ・シリーズ完結編。と思ったら先日見た新聞広告でスピンオフの「カレイドスコープの箱庭」って出てたぞ、終わんないんじゃないのか。

 それはさて置き、今作を読む前には「螺鈿迷宮」「ブラックペアン1988」を読んでおいて下さい。今気付いたけれど二作とも宝島社文庫じゃないね。

 いよいよ Ai(オートプシー・イメージング。非破壊での死亡時画像診断)の本格運用を目指し、東城大付属病院に Ai センターが建設されました。センター長は何故か不定愁訴外来の田口医師が就任する運びとなります。そんな折、東城大に脅迫状が。「八の月、東城大とケルベロスの塔を破壊する」、ケルベロスの塔とは恐らく新設の Ai センターを指す言葉と予想され、差出人に以前桜宮病院の崩壊と共に死亡した筈の碧翠院小百合/すみれ姉妹の影がちらつきます。過去の事件発生時、姉妹と因縁があった田口医師は事件を再調査し始めます。

 遺体の死因究明に関しては破壊検査である解剖(司法・法医学科)と非破壊検査である Ai(医療・放射線科)の対立の構図がシリーズ初期より描かれています。Ai センターの主導権をどちらの部署が担うかと云うことで権力闘争があり、著者は Ai の普及に努めている立場があるので後者のメリットが詳細に述べられています。遺体の疑わしい箇所を切り開かなくてはならない解剖よりも、遺体のスキャニングで死因を究明出来る Ai の方が利用価値が高かろうと云うことは思います。もし外傷が目立たなかったらその箇所を解剖することはないかも知れませんしね。まあ、そう云う目立たない外傷も見逃さないのがプロなので、解剖医をけなすつもりはありませんし、Ai も放射線医師の読影が未熟であれば真相を見逃す危険性はあります。医者の技術、経験が同等に優れているとしたら、非破壊の Ai を実施した後に解剖で確認するのが、死亡原因の究明には鉄壁の備えと考えられますが、実際の医療はどうなっているのでしょうか。Ai は設備投資費がすごそうなので、普及するにはまだ時間が掛かるのが実際なのではないかと想像しています。

 前作の「アリアドネの弾丸」がミステリとしても白鳥の口攻撃としても痛快で読み応えがあったのに比べると、話をまとめに入っている分、痛快と言うより寂寥と言う感じがしました。白鳥、殆ど活躍しないし(ウザキャラだけど出番が少ないと寂しい)。大オチも「そ、そう来る? この人選は考え直すべきでは?」と思いました個人的に。物語の終盤、脅迫状を出した犯人と対峙するシーンで回収されていない伏線があるので、きっと「カレイドスコープ」はこの事件の天馬大吉視点になるのかしらと想像しております。取り敢えずシリーズ完結お疲れさまでした! 本作を原作に映画も完結編が公開されるようですが、このシリーズの解説として「いわゆるバディもの」と書いてあるのを読むまでバディものだと気付きませんでした。バディものって互いに互いを意識しているライバルコンビと云う印象でいたので、白鳥と田口の一方的師弟関係もバディ扱いなのか、あ、そういや「相棒」での右京さんと甲斐君ってこの関係に近いな、だとするとバチスタも確かにバディものと考えられなくもな……(果てしなく話が逸れていく)
| 国内か行(海堂 尊) | 21:08 | comments(1) | trackbacks(1) |
「アリアドネの弾丸」海堂尊
評価:
海堂 尊
宝島社
コメント:本格ミステリ。

●本日の読書
・「アリアドネの弾丸(上)(下)」海堂尊/宝島社文庫


 だから白鳥は阿部寛でも中村トオルでもないんだってば。中年太りの嫌味なキャラなんだよ。わたしがキャスティングするなら伊集院光かガリガリガリクソンだな。

 シリーズ最終巻「ケルベロスの肖像」を購入した後に、その前に刊行された本作を読んでいないことに気付き慌てて購入した次第。刊行順に読まなきゃね。はい、久しぶりのバチスタシリーズです。調べるとこれの前の「イノセント・ゲリラの祝祭」読んだの 2010 年なのでざっと四年振り、そりゃ登場人物も忘れますわ。そう、今作にも過去の登場人物が簡単な紹介と共に再登場するのですが、四年経っていると「これ誰だっけ」が多すぎて大変でした。と云う事で脇役の素性を知っておきたい人は事前に「螺鈿迷宮」(南雲)と「イノセント・ゲリラの祝祭」(彦根・桧山)、「ナイチンゲールの沈黙」(城崎・牧村)を読んでおいて下さい。あとは「極北ラプソディ」がこの直前に起こった事件の話です。

 さてアリアドネ。丁度ドラマ化もされているようですが、トリックもアリバイ崩しもきちんとしていて、ミステリとして読み応えがありました。ミステリ色の強さはバチスタ並みです。強磁場のため金属の持ち込み厳禁のMRI内部で射殺死体が発見され、側には拳銃を持つ男が気絶し倒れています。被疑者である気絶男はここ東城大病院の高階院長で、彼が犯人である筈がないと信じる田口・白鳥コンビがトリックを明かしていくと云う筋です。医療機器について詳しくなくても大丈夫、医師とは言え専門外の田口医師に、盟友島津医師が解説するという流れで読者も知識を得ることが出来ます。

 さて、次の本で完結だ、楽しみ!
| 国内か行(海堂 尊) | 17:31 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ジェネラル・ルージュの伝説」海堂尊
評価:
海堂 尊
宝島社
コメント:速水晃一の伝説・外伝。著者自作レビューもあり

●本日の読書
・「ジェネラル・ルージュの伝説」海堂尊/宝島社文庫


 海堂尊週間継続中。だって読みやすいんだもん。サクサク読んでます(前エントリーのコピペ)。

 映画化もした「ジェネラル・ルージュの凱旋」と混同されやすい一冊。表紙の色も同じだし、購入した時家族に「これ、持ってなかったっけ?」と言われました。そう見えても仕方が無い、ジェネラル・ルージュ速水晃一の外伝です。外伝好きなら買っとけ。

 収録作品は、短編が三本と作者による自作解説です。どうせなら刊行順に読みたいわたしにはありがたい一冊でした。語り口にもよるけれど、作家本人の自作解説も嫌いじゃないですし(好きでもないが)。

 自作解説で初めて知ったのですが、わたし、著者は医療現場の問題点を著作にことよせて一般市民および行政に注意喚起したいが為の作家活動だと思っていたら、違うとの事。書くことが楽しいみたいでございます。しかし結果的に著者の本が広く読まれることで医療現場が変わって行くのであれば、それはそれで著者にとっては良かろうと思いますがね。

 巻末に、シリーズの登場人物一覧が付いています。同じ人物が、場所、時を変えて複数の著作にあらわれるため、桜宮サーガとも言われる著者一連の作品の登場人物リストですが、名前と立場を書くのみでなく、どの作品に出ているかも書いてあれば更に良かったです。ってこんな瑕疵に突っ込んじゃいかんよな。全体把握が好きなんです。

| 国内か行(海堂 尊) | 23:42 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ジーン・ワルツ」海堂尊
評価:
海堂 尊
新潮社
コメント:出産は安全ではない。代理母問題なども絡めた、今度の舞台は産婦人科。

 ふと思い立って、サイドバー(←)の並び順、変えてみました。ぽつぽつとしか更新しないので、カレンダーとか要らないし。著者ごとのインデックスさえあればそれでいいし(自分がほかの書評サイトみるとき基準)。

●本日の読書

・「ジーン・ワルツ」海堂尊/新潮文庫

 海堂尊週間継続中。だって読みやすいんだもん。サクサク読んでます(コピペ)。

 今作の問題提起は産婦人科と代理母問題について。海堂作品で二番目に面白かったです(一番は「チーム・バチスタ」)。それは恐らく、わたしが経産婦であること、出産して日が浅いこと(産後三か月)が大きいと思います。ま、そゆ時期に読んで良かったな、と思います。

 舞台は東京、天下の帝華大です。バチスタ・シリーズはずっと首都近郊の地方都市である桜宮市が舞台だったので、首都がメインの舞台と云うのは初めてですね。ここから医療の現状を描く訳です。帝華大で発生学を受け持つ曽根崎理恵は「クール・ウイッチ」とあだ名されるやり手の女性助教(昔で言う講師)。体外受精のエキスパートです。大学勤務の傍らで、マリアクリニックと云う産婦人科で検診も行い、出産に携わっています。マリアクリニックはとある問題で閉院を間近に控えており(その問題は「極北クレーマー」にて。未読←文庫落ち待ち)、現在診療中の五人の妊婦が最後の患者です。

 物語では、理恵とその上司である清川吾朗准教授との関わりを軸に、産婦人科の医師不足、出産の困難さ、体外受精にトライする夫婦の苦しみ、代理母問題などを絡めて「産む困難/産まれる奇跡」が描かれます。わたしは幸い子供三人とも通常分娩で五体満足に産まれ育っていますが、これは大変なことなのです。いいですか、出産は安全ではありません。無事に産まれて当たり前、ではありません。無事に産まれて当たり前、ではありません。大切なことだから、二回言いました。子供が健康であるということ、母が出産を無事終えられること、これはぎりぎりの綱渡りで達成される奇跡的なことなのです、本当に。

 代理母問題の倫理的な云々はわたし自身結論を持っていないので(敢えて考えないようにしている)ここでどうこうは書けませんが、現在の日本の法制度では、代理母により生まれた子供の母は卵子提供者ではなく借り腹として実際に出産した女性なんですね。だもんで産みたくて産めなかった卵子提供者は、その子供を養子として迎えるしか親になる方法がありません。まあ出産した者から言えば、出産は非常に大変な出来事なので、産んだ子供がいなくなる(そう云う約束だとしても)と云うのは断腸の思いですよ。仮に金銭的な見返りがあったとしても納得出来るもんじゃないと思います。だから親族による代理出産が行われているんですが、これについてはこの作品の続編にあたる「マドンナ・ヴェルデ」に詳しいと思います(未読)。

 つい余計なことまで書きました。出産っつーとつい熱くなって仕舞います。曽根崎理恵のしたたかさがとても良いです。こうまで切り札が当たり続ける結末は予想出来ませんでした。清川先生もジェネラル・ルージュ速水医師と同じくらい恰好良い医者なので(清川と速水の関係は「ひかりの剣」にて)、今後の曽根崎医師との円滑な交流をお祈りいたします。

 にしてもなあ、少子化対策として厚労省が打つ手って、総じて現場を無視した真逆な方策ばっかだよなあ。

| 国内か行(海堂 尊) | 05:08 | comments(0) | trackbacks(0) |
「イノセント・ゲリラの祝祭」海堂尊

●本日の読書
・「イノセント・ゲリラの祝祭(上)(下)」海堂尊/宝島社文庫


 海堂尊週間ですな。だって読みやすいんだもん。一冊三時間くらい、二冊で二日で読めて仕舞うんだもん。サクサク読んでます。

 と云うことで、田口・白鳥コンビの第四弾は厚生労働省が相手です。著者の、小説でない新書「死因不明社会」で言及されているらしい、日本の死因究明がなされない体勢の悪さや、死体の解剖率の低さに問題提起する作品です。厚生労働省のはみ出し官僚、白鳥圭輔の招致により、医療事故死なんちゃら検討会のメンバーに加わることになってしまった田口医師。ミスター厚労省と言われる八神の官僚主体の対応をすりぬけて、エーアイ(オートプシー・イメージング。画像診断)による死因の判定を現場に導入出来るかどうか、と云うお話です。出来れば「チーム・バチスタの栄光」を読んでからの方が良いです。その他の海堂作品はどこから読んでも大体大丈夫ですが、この作品は「チーム・バチスタ」での事件のその後であると云うことが重要ですから。

 今までの、小説内での丁々発止のやり取りは病院内の委員会などが舞台でしたが、今作は厚労省ですので、相手は弁が立つ上に法制についての知識も豊富、他の検討会メンバーには法医学者や法律家も含まれている為に、医療現場の声を届けにくいというおまけつきです。田口先生の困難度アップ。そこにジョーカーのように登場するのが、奇妙な医師・彦根。学生時代の知り合いで、過去に色々やっちゃっている様子です(文中で語られている彦根の起こした事件は、別の作品になっているのかどうか、今のわたしには分かりません。なってたら読んでみたい)。

 敵は強大ですが、田口の「のめり込み過ぎないながらも、常人として正義感が強い」性質が良い方向に作用します。個性の強い登場人物たちの中で、主人公の田口医師は明らかにキャラ薄ですが、それが彼を通して世界を見ている読者の気持ちを、彼に同調しやすくしているのだと思います。平凡な性格だから、万人が入り込みやすいんですね、我思うに。

 さて、八神を倒して医療改革はなされるのかどうか。現実社会でも同じ問題が討議されているようですが、現実の方もどうにかして頂きたいものです、是非。

| 国内か行(海堂 尊) | 14:26 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ブラックペアン1988」海堂尊

●本日の読書
・「ブラックペアン 1988(上)(下)」海堂尊/講談社文庫


 うん、今回も面白かったです。宝島社文庫「チーム・バチスタ」シリーズでお馴染みの高階病院長の若き日のエピソードです。学生時代の田口医師(「チーム・バチスタ」他)、速水医師(「ジェネラル・ルージュ」)、島津医師(「チーム・バチスタ」他)もちょこっと登場し、「あ、この人知ってる」と優越感を感じることが出来ます(誰に? まだ他作品を読んでいない見ず知らずの読者に)。

 1988 年の東城大学病院。「神の手」を持つとされる佐伯教授の元に、日本の外科手術の権威とされる帝華大から高階講師が派遣されて来る。一見左遷とも取れるその人事だが、高階講師は「スナイプ 1988」なる器具を使用して、現在佐伯教授しか執刀出来ない難しい食道癌手術を簡易なものにし、術数を増やすと言う。果たして高階はあだ名通りの「ビッグマウス」なのか、帝華大からの刺客なのか? 凄腕だが人格に問題のある渡海医師も絡み、外科医一年生・世良の視点で語られる病院の内部をご堪能あれ。

 今作はミステリーではなく、外科に携わる医師の葛藤や確執が主です。

 タイトルにある「ペアン」は手術器具の名称で、物語上の重要なキーワードになるのですが、それがどんな形をしているものなのか良く分からなかったので、クライマックスのシーンを読みながら想像しても、手術シーンがぼんやりしていたのはひとえに自分の所為ですな。

 高階と渡海の対決に象徴されているのですが、この物語の軸の一つに「技術 VS 装置」というものがあります。外科分野において手術の技術を磨くことは勿論非常に重要ですが、装置を使用しての手術で未熟な腕前をカバー出来るのであれば、そう云うものを導入するのもやぶさかではないと個人的には思います。しかし、そういった便利キット(敢えてそう云う軽い表現を使いますが)を普及させることで医者の技術が低下し、装置の不具合→装置を使用しない緊急手術へ切り替え→医師の技術不足により対応不可能、と云う、物語中で佐伯教授が展開する論にも一理あります。装置を普及させながら外科医が技術を磨くことのできる環境があれば良いのですが、あくまで相手は生身の人間、手術の失敗が即人命に繋がるところで、そういう実験的なことは出来るものではありません。現代医療界が内包する問題を、エンターテイメントとして描き出す著者の試みは興味深いものです。問題啓発のみでなく、小説としても面白いですしね。

| 国内か行(海堂 尊) | 22:34 | comments(0) | trackbacks(0) |
「螺鈿迷宮」海堂尊
評価:
海堂 尊
角川書店
コメント:終末期医療を行う桜宮病院に白鳥圭輔が潜り込む

●本日の読書
・「螺鈿迷宮(上)(下)」海堂尊/角川文庫


 先に海堂作品を読んでいる旦那の評価としては、この「螺鈿迷宮」は飛ばしてもよい作品とのことでしたが、どうせ所持しているなら刊行順に読み進めたい頑なな私はそれに逆らって読んでみました。因みにその他の「飛ばしてもよい作品」は「ナイチンゲールの沈黙」で、これは確かに「ジェネラルルージュ」と対にするにはトリックに走り過ぎていて、飛ばしてもよい作品でした。

 下巻は一日で一気に読みました。ええ、面白かったですよ。読んで良かったです。今回の題材は終末期医療。いつもの舞台、桜宮市で終末期医療を一手に引き受ける桜宮病院で、お馴染み厚生労働省の白鳥圭輔が暗躍します。

 桜宮病院は終末期、つまりは回復の見込み泣く死を待つだけの病人を雇用して役割を与え、労働させることで生きがいを与えて余命を引き延ばすという画期的な試みを実践しています。この桜宮病院で立て続けに入院患者が亡くなり、それは終末期の患者であるからあり得ることではありつつも、何か不自然であるということで、諸々の事情で潜入捜査せざるを得なくなった医学部生・天馬大吉がボランティアとして潜り込みます。

 大落ちは読めたのですが、ここで再度強調したいのは、海堂尊が一連の作品を通して訴えたいことです。この人はミステリーも好きなんだと思いますが、医療に対する国の施策や医療現場の辛さを作品を通して一般人(患者にもなり得るし、医師にもなり得るし、役人にもなり得る人々)に啓蒙したい、もっと考えて問題提起して欲しいと思っていると想像します。

 終末期医療は難しい問題です。自宅で最期を迎えたいと思う人は多くとも実際には殆ど全ての病人が病院で最期を迎えます。国の施策で老人医療や終末期医療では金儲けを出来ないようになり、結果、病院はそれらのことに力を割かないようになっているそうです。ミステリとして読むより、これを入り口にして新聞を読むのがいいんじゃないかなあと思います。

| 国内か行(海堂 尊) | 12:16 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ジェネラル・ルージュの凱旋」海堂尊
評価:
海堂 尊
宝島社
コメント:東城大附属病院の緊急救命センター部長、速水晃一に持ち上がった収賄疑惑に、田口・白鳥コンビが挑む

●本日の読書
・「ジェネラル・ルージュの凱旋」海堂尊/宝島社文庫


 くわあ、一日で下巻を読了して仕舞った(上巻は「ナイチンゲール」より先に読んでいた)。因みに現在のワタクシの読書タイム、夜中です。出産後に備えて睡眠中、三〜四時間おきに目覚めるようになってるもんで、夜中起きた時に読んでいます。何か色々と贅沢生活でごめんなさい。

 結論から言うと、「ナイチンゲールの沈黙」よりも面白かったです。旦那と母は正しかった。大森望の解説にもありますが、「ナイチンゲール」は無理にミステリにする為に殺人事件と医療の問題点を絡めているのですが、「ジェネラル・ルージュ」は物語の山場を院内の委員会における丁々発止のやり取りに設定している為、医療の問題点がよりクリアに指摘されているように思います。

 今回の舞台は緊急救命センターです。若くして部長の地位に君臨する速水晃一は凄腕の医師で、一人でも多くの患者の命を救いたい彼の、時折組織体系すら無視したやり方は煙たがられつつも、その存在が東城大附属病院の緊急救命システムを辛うじて維持している状態。そんな折、緊急救命に全精力を傾ける彼に対する収賄疑惑が、同病院の不定愁訴外来医師であり長年の友人でもある田口公平の元に匿名の投書として届けられます。

 速水晃一は先に「ひかりの剣」で剣道に青春を捧げた大学生として性格を知っており、懐かしい人の後日譚を見る感じで読み進めました(明らかに読む順番が逆だった。残念)。ここまですごい、謂わば小説のような医師がいるのかとも思うのですが(笑)、現在の緊急救命の、受け入れを断らざるを得ない現場の苦しみ、患者を受け入れる為の綱渡りな病床運営などが描かれており、それだけでも読む価値はあります。下手に殺人事件とか起きないのがいい。

 前作の「ナイチンゲールの沈黙」と同時間進行で別の出来事を描いている為、所々回収されていない伏線の結末を知る為にはやはり「ナイチンゲール」も読んだ方が良いですが、これだけで十分読ませる物語ですので、将軍・速水の活躍を存分にご堪能下さい。

| 国内か行(海堂 尊) | 14:42 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ナイチンゲールの沈黙」海堂尊
評価:
海堂 尊
宝島社
コメント:田口・白鳥シリーズ第二弾。今度の舞台は小児病棟。二人の歌姫を中心に、殺人事件を解決する。

●本日の読書
・「ナイチンゲールの沈黙」海堂尊/宝島社文庫


 さて随分ご無沙汰しておりまして久し振りの読書感想文なのですが、空白期間もちょこちょこ本を購入しておりましたが読める当てがないので敢えて更新せず、こうして産休に入るまでブログも放置しておりました(そうなんです、現在三人目の子供を産む為の産休中なのです)。

 ちうことでさくっとシリーズ制覇しよう第一弾、田口・白鳥シリーズ第二弾であるところの本書、いつもながらさくっと面白く読めます。実はこれを読む前にシリーズ第三弾の「ジェネラル・ルージュの凱旋」の文庫上巻を読み終えていたのですが、巻末の文庫宣伝を見て「うわ、これ(ジェネラル・ルージュ)が第二弾だと思っていたら、先にもう一つあったのかー」と気付き、急遽ジェネラル・ルージュを放置してナイチンゲールにシフトすると云うことを致しました。先に読了していた旦那と母からは

「ナイチンゲールは読まなくてもよし、ジェネラル・ルージュの方が面白い」

と散々言われたのですが、所有している本は刊行順に読むのがポリシーなので、敢えてスイッチ。皆さんどうなんですかねえ、先に読みかけの方を読み通す人の方が多そうですが。

 今作は、小児科病棟が舞台です。幼くして眼球摘出と云う治療法しかない重病に冒された子どもたちと、病棟の歌姫と呼ばれる看護師の交流、とだけ書くとハートウオーミングな話に思えますが、そこに不定愁訴外来・通称愚痴病棟の田口医師も小児愚痴外来として絡み、また患者関係者の殺人事件が起こることで厚生省役人の白鳥圭輔も絡み、で物語は複雑さを増していきます。そしてジェネラル・ルージュと物語の進行時間が重なっている為に、酔いどれ迦陵頻伽と呼ばれる伝説の歌手・水落冴子の入院も重要なファクターとして働きます。ああ、書き過ぎだ。

 読む前からジェネラル・ルージュに比べて劣勢だった本作、デビュー作にしてこのミス大賞受賞の「チーム・バチスタの栄光」よりも SF 的な設定と現実に存在しない(だろう)捜査方法が殺人事件解決の手法として大いに貢献している為、リアルな設定が魅力の著者にしては多少走り過ぎに思える向きは確かにありました。直訳すると「解決法にちょっと無理がある」。ですが別に目くじら立てて非難するってのではなく、エンターテイメントとしては十二分に読ませる物語でした。……まあ、確かにジェネラル・ルージュの方が現実に即していて優れているなあとは思うけど、もごもご。

| 国内か行(海堂 尊) | 09:36 | comments(0) | trackbacks(0) |
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