書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

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「ムーミン谷の冬」ヤンソン
評価:
トーベ・ヤンソン
講談社
コメント:いつもは見れない裏側の世界

●本日の読書
・「ムーミン谷の冬」ヤンソン/講談社青い鳥文庫


 ムーミントロールたちが冬眠している間の、秘密を覗くお話。いつもは秋の終わりに松葉をたらふく食べて春が訪れるまでずっと冬眠しているムーミン一家なのに、なぜか真冬に不意に目が覚めてしまったムーミントロールが、今まで知らなかった「冬」と邂逅する、静かなお話です。全体的に暗く、蒼く、秘密めいた、音のない世界が広がる一冊です。毛むくじゃらのご先祖様とマイペースなおしゃまさんが出て来るのはこの巻です。

 ムーミントロールは雪も氷も知りません。自分たちが冬眠している間、ムーミン谷がどのようになってるかを知りません。初めて見る冬の光景、それはムーミントロールのみでなく、ムーミンパパもムーミンママもスノークのおじょうさんも誰も知らない新たな光景です。自分たちが眠っている間、ムーミン屋敷にははい虫などの色々な得体の知れない生き物たちが押し寄せ、桟橋の先端に作られた水あび小屋はおしゃまさんと姿の見えないとんがりねずみたちが暮らし、スニフやスナフキンなどいつもお馴染みのキャラクターたちは登場しません。逆転した世界は、むかしのゲーム「MOTHER 2」を思い出させます(マイナーな喩えですみません)。

 圧巻なのは重さと暗さで世界を支配していた冬が、押し寄せる春に駆逐されていく様です。さすが冬の国フィンランドでヤンソンが紡いだ物語、わずかな暖かさや明るさを体感させる描写が素敵です。ちょっと長いですが、春の序章的な場面を引用します。わたしが一番きれいだと思ったところです。

 まるで、おしばいのさいごのはげしい場面の、幕があがったかのようでした。舞台の上は、水平線のかなたまで、白くがらんとしていて、浜べはぐんぐんくらくなっていきます。ムーミントロールはふぶきにみまわれたことなどありませんでしたから、いまにかみなりが鳴るのだと思いこみました。そこで、ゴロゴロっときてもおどろかないように、かくごをきめました。
 けれども、かみなりは鳴りません。
 いなびかりも、しません。
 そのかわりに、海岸のはずれの、白い丘から、ちょっとした雪のつむじ風がたちのぼりました。

(「ムーミン谷の冬」P146 講談社青い鳥文庫)

 ラストシーンも綺麗にまとまっていて、何か大きな出来事が起こるよりも、こういうこじんまりした話の方が、いわゆる「ムーミンの世界」的なものであるように思います。
| 海外(ヤンソン) | 17:46 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ムーミン谷の夏まつり」ヤンソン
評価:
トーベ・ヤンソン
講談社
コメント:彗星の後は洪水。大変だな君たち。

●本日の読書
・「ムーミン谷の夏まつり」トーベ・ヤンソン/講談社 青い鳥文庫


 前巻の「ムーミン谷の彗星」で起こった出来事は巨大彗星の落下と云う、自分たちの力では何も出来ない不気味な無力感に溢れた一冊であったのに対し(友人は「子どもの頃のトラウマ本だー」と言うくらい)、今作は洪水です。ムーミン屋敷が水没します。今回の読みどころは以下です。

・クールなスナフキンが身よりのない二十四人の子どもたちに懐かれておたおたする
・ニョロニョロの発生のさせ方

 洪水関係ねえじゃん! それはさておき、いつも冷静なスナフキンの違う面を見られるので、スナフキン萌えの諸姉必読の書です(萌えって)。

 ムーミン一家は水没したムーミン屋敷を手放し、流れてきた怪しげな別の建物に移り住みますが、それがなんと劇場。演劇や劇場と云うものを全く知らなかったムーミン一家に、建物に住み込んでいる劇場ねずみのおばあさんが「劇とは何か、劇場ではどう振る舞うべきか、脚本とは何か、脚本の書き方とは」といったことをぶっきらぼうに教えます。そして書くことに興味を持っていたムーミンパパは人生で初めて芝居の脚本を書き始めます。

 今作を勝手に定義すると、適材適所・マッチングの話ではないかと思います。話の中にはいろいろな気まずさを抱えているいきものが登場します。自分の醜さをひたすら気に病んでいる後ろ向きな娘ミーサ。厳格なおじとおばに気が進まないながら毎年夏まつりの招待状を出し続けるフィリフヨンカ。編み物以外何も出来ない小さなヘムルの女の子。彼女らは自分の生き辛さを当然のものと受け止めそこから逃れずに毎日を過ごしていますが、ムーミントロールたちとの騒動に巻き込まれ、新たな場所で自分の快適な生き方を見つけ、羽ばたいていきます。スナフキンが子供の世話に向かないように、それぞれが伸びやかに生きられる場所へと解放されるのって、現実世界ではなかなかないことだと思います。その意味で気持ちの良い読了感の一冊です。
| 海外(ヤンソン) | 17:03 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ムーミン谷の彗星」ヤンソン
●本日の読書
・「ムーミン谷の彗星」トーベ・ヤンソン/講談社 青い鳥文庫


 ムーミンシリーズ2巻ですが時間の流れで言えば「たのしいムーミン一家」より前のお話です。この巻でムーミントロールはスナフキンと出会います。ジャコウネズミは冒頭でムーミン屋敷にやって来て、会議好きのスノーク、その妹でおしゃれ好きなスノークのお嬢さん(アニメで言うフローレン)、切手集めを職業とするヘムレンさんも旅の途中で出会います。因みにヘムレンさん、この巻では「ヘルム」と書かれていますが、訳者が異なるためだと思われます。

 ムーミン谷を目指して大きな赤い彗星が落ちて来ます。彗星について調べるためにムーミントロールとスニフは天文台へと冒険の旅に出発します。彗星は地球に近付くに連れ、海を干上がらせ、豊かな森を荒れ果てた森に変えていきます。

 相変わらず悲しさと皮肉を内包した文章、ユニークで自分勝手なキャラクターたち、地球が滅びると云うのにどこかのんきないきものたち。ムーミンシリーズを通してトーベ・ヤンソンは文明について描きたいと述べているとのことで、地球と文明ということが寓話的に、そしてどこか暢気な平和さをたたえて進みます。

 どうってことない描写ですが、わたしが一番印象に残った会話、少し長いですが引用します。

「きみは、ぼくの命をたすけてくれたよ。とってもかしこい方法で。」
と、ムーミントロールは、スノークのおじょうさんにいいました。
「あれは、もののはずみよ。でも、あんたを大だこから、毎日でもたすけてあげたいわ。」
「いやだよ、そんなの。きみは、よくがふかすぎるよ。おいでよ。ここからでよう。」


不思議な会話です。愛情を示すために毎日でも相手を窮地から救いたいと言ってみたり、惚れた女の子に「よくがふかすぎるよ」と言ってみたり。こう云うところが好きなんだなあ。
| 海外(ヤンソン) | 17:15 | comments(0) | trackbacks(0) |
「たのしいムーミン一家」ヤンソン
●本日の読書
・「たのしいムーミン一家」トーベ・ヤンソン/講談社 青い鳥文庫


 ムーミン好きなんです。シニカルなところが。好きだ好きだと言いながらシリーズ通読していないムーミンを全巻揃えて読み始めましたよ。

 シリーズ一巻(書かれたのは「小さなトロールと大きな洪水」が先ですが、出版社認定の一巻)は大学生の頃に講談社文庫で読了しているのですが、あれから十五年経って子どもに囲まれた生活の今だとどんな気持ちを抱くのかとうきうきと読んだら、あまり変わりませんでした。やっぱりムーミン谷のいきものはみんなそれぞれ違ってて、ムーミンママのように大らかな博愛主義者もいればヘムレンさんのように愛すべき偏屈者もいるし、スニフのように臆病なのもいれば、じゃこうねずみやトフスラン・ビフスランのように自分勝手ないきものもいる。人間社会の縮図であるとまとめて仕舞えばそれまでですが、それでもめいめいがバランスを保って共同生活を行っているのがいい世界だと思います。

 一巻は飛行おにの不思議な帽子にまつわる一冊です。飛行おにはルビーの王様を探して宇宙を飛び回っており、それはそれは恐ろしいものとスナフキンによって語られます。ひょんなことで飛行おにの帽子を手に入れたムーミンたちは、帽子の中に入れたものが妙な変化をすることで楽しんだりひどい目に遭ったりします。蔓草を放り込んだらジャングルが発生したり、水を入れたら木いちごのジュースが出て来たり、予測が付きません。そこに、奇妙な喋り方をするトフスラン・ビフスラン(お気に入り)も加わり、静かな謎は楽しく終結します。

 以降は本の内容とは直接関係のない話です。ムーミンをシリーズ全巻揃えるに当たって、わたしには三つの選択肢がありました。

(1) 講談社文庫
(2) 講談社 青い鳥文庫
(3) 講談社文庫 Kindle 版(電子書籍)

価格で言えば (1) と (2) では若干ですが (1) の講談社文庫の方が安いです(講談社文庫新装版:610円、青い鳥文庫新装版:734円。エントリーアップロード時調べ)。しかしこの差額は大したものではなく、 (3) の電子書籍が最も安価です。セールの実施の有無、値引きの度合いにも依りますが大体三割引くらいで購入出来ます。現時点では 273円 でした。ですが今回わたしはシリーズを青い鳥文庫で揃えました。偏に、子どもに読ませたかったからです。自分で楽しむだけであれば迷わず Kindle、電子書籍を選ぶのですが、電子書籍最大のデメリットは「本を貸し借り出来ないこと」なので、書籍にしました。端末まるごと貸せば他の人も読めますが、わたしのライブラリ覗かれるの厭だし。そして青い鳥文庫を選んだのは本のサイズが大きいこと、文字が大きいこと、あとわたしの趣味です。さて読み進めるよ、ムーミン。
| 海外(ヤンソン) | 15:14 | comments(0) | trackbacks(0) |
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