2023.05.03 Wednesday
スポンサーサイト
一定期間更新がないため広告を表示しています
| - | | - | - |
書評・三八堂のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます
|
2014.07.04 Friday
「真昼の星空」米原万里/
・「真昼の星空」米原万里/中公文庫 「真夜中の太陽」よりこっちの方が好きだな。「真夜中〜」が時事問題を扱った集成であるのに対してこちらは日常の出来事をピックアップして米原氏の視点で解読してあるから普遍的で読みやすいです。ロシア語通訳という職業上、見聞きした出来事と自分の経験を並べて日本を相対化して見られるため、初出から十年以上経ってもあまり古くささは受けません。初出は読売新聞日曜版に於いて 1999 年から 2001 年に掛けて掲載されたコラムです。 例えば日本語には、人間関係の機微、面目なるものを異常に気にかける言葉が言葉が多い、と云う金田一晴彦氏の言葉を引いて日本の贈答文化の極まり悪さを考える「日本のクリスマス」、国内に溢れる日記系サイト(今ならブログ)を見て、世界的に日記を公開するのは日本人だけで、これは小学校の宿題で日記を人に読まれる前提で書くことに慣らされた影響だとする「夏休みの宿題」など。そう言や日記って本来プライベートなもんで、人に見せるもんじゃないよなあと気付かされたわたしは根っからの日本人です。この読書感想文も個人的にちまちま綴っていればいいのに、わざわざ公開してるしね。 タイトルの由来である「真昼の星空」は、著者が先生から聞かされたオリガ・ベルゴリツの詩「昼の星」からで、見えないけれど存在する隠されたものについての比喩から取られています。この話も示唆的で好きです。わたしは大局的なものの見方が出来ない自覚があるので、こう云う色々な視点を持つ方の文章を読むと刺激を受けますな。 2014.06.23 Monday
「真夜中の太陽」米原万里
・「真夜中の太陽」米原万里/中公文庫 2000年前後に「ミセス」「婦人公論」「熊本日日新聞」「公研」に掲載されたエッセイをまとめた一冊です。同時購入した「真昼の星空」の方が早い時期に書かれたものだったので、そっち読んでからこっち読めば良かった。夜より昼の方が先に来るんですね。著者はロシア語の翻訳・通訳を生業にしておられる方です念の為。 14年前に書かれたものとは云え内容はあまり古びていない印象を受けるのですが、それは著者が物事を鋭く見て取る力があったことと、日本が政治的に14年間殆ど変わらないことをしていることが理由かと思います。日本政府はアメリカに言われた通りに○○法案をごり押しで通した云々とか、天下り官僚が云々とか、あれっこれって最近のエッセイ? みたいに読めます。思想的に偏向は見えるのと、月刊誌や新聞での時事ネタをまとめたものであるので好き嫌いは分かれると思います。同じ著者で読むなら「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」の方がお勧め。 一番印象に残ったのは「あとがき」にあった書名の由来です。少女の頃に夜の暗闇が恐ろしかった自分に父が、地球は球であること、今自分が居るところが夜であるならば地球の裏側に昼が訪れていることなどを電球を使って説明してくれて、それ以来夜の暗闇の向こう側には昼の明るさがあることを想像出来て怖くなくなった、と云うお話。物事は見る立場を変えれば異なる側面が見えることがあり、それが著者のこのエッセイなのだと思えました。 2014.01.26 Sunday
「旅行者の朝食」米原万里
・「旅行者の朝食」米原万里/文春文庫 色々な媒体に書かれた「食」に関するエッセイをまとめた一冊。初出が色々な媒体のため一編一編の長さはまちまちで、海外の食事に関することから国内の食事に関すること、友人との思い出から家族との食事に至るまで様々な話を収めてあります。人生で二度だけ出会った至高の美味しさを誇るトルコ蜜飴、釣り上げた魚が三動きで凍る極寒の地で鉋削りにした紙のように薄い魚の刺身、ロシア人なら必ず笑いだす「旅行者の朝食」缶詰、ハイジの飲んだ山羊のお乳……読んでいて食欲をそそられる食べ物から出来れば知らずに過ごしたい食べ物まで、著者のユニークな表現で短かめのエッセイが缶詰にされています。第一章はロシアでのエピソード、第二章は物語の中の食べ物、第三章は日本でのエピソードでまとめられています。 食は文化と言われます。東欧を中心として海外で過ごした時間の長い著者は日本の文化と海外の文化を、その胃袋でもって比較し興味深い読み物にしてくれました。あああ、トルコ蜜飴食べてみたい。しかもめちゃくちゃ美味しいトルコ蜜飴にってなかなか出会えないらしい。あと「おにぎりは日本のソウルフード」と云う意見は確からしいです。映画「かもめ食堂」でも同じこと言ってました。嗚呼、内容を振り返るだけでお腹減ってきます。 米原さんについて言えば「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」の方が読み応えも文の魅力も上ですが、家族の思い出と共に独自の食事観を語る第三章は親族総出の気持ちの良い食べっぷりで爽快です。一番印象に残りました。著者は食いしん坊なんですね、だからこんなに食べ物を活写出来るんですね。あと、ロシアの諺「愛は胃袋経由」ってのは正しい。絶対正しい。 2013.11.09 Saturday
「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」米原万里
・「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」米原万里/角川文庫(Kindle版) 数年前に急逝された米原万里さんについてはその文章への評価をそこかしこで目にしていたにも関わらず未読でしたが、今回楽天 kobo のセールに追従した Amazon の角川セール(えげつないよな)に伴って Kindle 版が廉価で購入出来たので購入しました。ロシア語の通訳をされた後にエッセイの名手として知られた氏の著作は多くありますが、本作は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞しており代表的一冊とされています。プラハのソビエト学校で少女期を過ごした著者が、在学中特に仲の良かったギリシア人のリッツァ、ルーマニア人のアーニャ、ユーゴスラビア人のヤスミンカと云う三人の少女との思い出を語り、大人になってから彼女らを探し訪ねる道程について書かれています。 本編は「リッツァの夢見た青空」「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」「白い都のヤスミンカ」と、友の名と色が織り込まれています。ギリシア人でありながらギリシアに一度として行ったことがなく、その青空に憧れる女優志望のリッツァ、ルーマニアの外交官の娘として貴族的な環境で暮らしながらそれを不思議とも思わない虚言癖のある愛国者アーニャ、思慮に長け落ち着いた優等生ながら内に誰よりも強い情熱を秘めて画家を目指すヤスミンカ。三名のうち、主人公=著者マリが最も友情を感じ大切に思っていたのはヤスミンカであるのは一読して明らかですが、タイトルに「嘘つき〜」が採用されているのは恐らく言葉の面白さを優先したからだと思います(題名が「白い都の〜」だったらやはり地味だ)。 十三歳でマリが日本に戻って彼女らと地理的に離れた後は、文通で連絡を取るしかありません。その後ソ連が崩壊し、内戦や民族紛争の勃発で郵便物が届かなくなり、また一家が素性を隠して亡命したりすると、彼女らに会いたいと思っても電話すら繋がらなくなります。それぞれの章の後半は、著者が長じて後にロシア語通訳として東欧圏に行った際に彼女らを探す旅が綴られており、政情不安は人生をいとも簡単にひっくり返して仕舞うのだと云う事が良く分かります(ああ日本人で良かった)。伝手と偶然に導かれて友人に再会し、あの頃の夢と現在の違いに仰天したり、少女時代の思い出を辿り直して真実を知ったりする情景が硬質ながらユーモアを交えた筆致で描かれています。特に「白い都のヤスミンカ」は強い余韻を残す素晴らしい一章なのでお勧め。 てゆうかここまで偉そうに書きましたが、わたしソ連・ロシアについての地理的・歴史的知識が全くないです。こんな状態で読んですみません。プラハってどこの都市? 「プラハの春」ってなんだっけ? チェコスロバキア? チェコスロバキアってチェコとスロバキアに分かれたよね? てゆうかどこら辺にあるの? ……マジでこんな感じです。何故プラハにソビエト学校があるのか、ソ連と東欧諸国の関係、ボスニア・ヘルツェゴビナの民族紛争の悲劇等の常識がないので、大人になったヤスミンカがユーゴスラビアに居ると書かれていてもそのヤバさが分からない、読みながら社会人としての自分は相当まずいんじゃないかと思いました。 ロシア・東欧圏への知識を増やす下心を秘めつつ、同時購入した「旅行者の朝食」もいずれ読みたいと思います。 1/1 |