書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

「ロベルトからの手紙」内田洋子
評価:
内田 洋子
文藝春秋
コメント:表紙が好き。

●本日の読書

・「ロベルトからの手紙」内田洋子/文藝春秋

 足、歩く、歩みなどをテーマにした短篇エッセイ集。表紙の、くるぶしから羽の生えた今にも跳びそうな躍動感ある彫刻の写真が印象的です。

 相変わらず平易な言葉遣いながら的確で、腑に落ちる表現が多く見られる美文です。この文章の雰囲気は変わらず好きなのですが、なんだろう、初めて読んだ「ジーノの家」よりも描写に遠慮がなくなったと言うか、友人でもあまり好ましくないところはそう書くようになったというか、少しとげがチラ見えするような人物描写が多くなったかもなーと思います。ちょっと視点が意地悪というか皮肉っぽくなったと言うか。

 内田さんのイタリアでの生活で起こる出来事は短篇小説ような滋味と不思議な巡り合わせに恵まれ、読んでいて飽きません。三人の姉妹が弟を助ける「わたしたちの弟」や、表題にもなっている「ロベルトからの手紙」が余韻が強く残りました。

 

JUGEMテーマ:小説全般

| 国内あ行(内田 洋子) | 20:51 | comments(0) | trackbacks(0) |
「カテリーナの旅支度」内田洋子
評価:
内田 洋子
集英社
コメント:生き急ぐと人生で忘れ物をする

●本日の読書
・「カテリーナの旅支度」内田洋子/集英社


 内田洋子さんの「ジーノの家」風の、イタリア暮らしで見た聞いた体験したことを綴ったエッセイ集です。相変わらず平易で落ち着いた言葉だけで紡がれているのに心を打つ、得難い短文が並んでいます。本書は「その土地に暮らして」「街が連れて来たもの」の二つの章に大きく分けられており、前半はイタリアの各地に暮らして来た著者の身の上に起きた出来事や袖擦り合った人々との交流を書き、後半はイタリアから国外に出ていく人や EU 外からイタリアに入国する人たちとの触れ合いを中心としたお話になっています。

「ジーノの家」は品よくまとまったいい話が多かったのに対し、こちらは若干陰があるというか、今まで悪感情を文字にすることが少なかった著者が文中で不愉快を表現したり、空しく寂しげな人生を描いたりと、少し毛色が違う感じがして新鮮でした。表題の「カテリーナの旅支度」はその最たるもので、本書の全体から受けるちょっと薄寂しい印象を特に色濃く表しているお話でした。全てが楽しい人生でないのは誰しも知っていることですが、生き急ぐと人生で忘れ物をする……と云った話が多い印象です。わたしは心の温かくなる話が好きなので、母親との楽しかった思い出から植物の研究する道を選ぶ菜食主義の女性の話や、日本文学に傾倒してスーツケース二つにぎっしり本を詰め込んで日本に留学してきた女性の話などが好きです。

 個人的に一番印象に残ったのは「男優と哺乳瓶」です。若い頃から浮き名を流した俳優が、年老いて自分に残ったものを数えていって、本当に大切なものを見つめ直す流れがしみじみとします。安定の高品質エッセイで外れなしです。
| 国内あ行(内田 洋子) | 20:04 | comments(0) | trackbacks(0) |
「イタリアの引き出し」内田洋子
評価:
内田洋子
阪急コミュニケーションズ
コメント:とにかく装丁が素敵

●本日の読書
・「イタリアの引き出し」内田洋子/FIGARO BOOKS


 最近ぞっこんな内田洋子さんのイタリアエッセイ。FIGARO.jp で連載されているコラムを一冊にまとめたもので、とにかく装丁がいい。掌編が 60 本収められているのだけれど全ページフルカラーで、その掌編の関連タグ(「gente 人々」「primavera 春」など)が付箋のように貼られ、文中に登場する人物や風景、物などが小さな小さな、ロケットペンダントにでも入れるようなサイズの写真になってページのあちらこちらに散りばめられています。愛おしい作り。

 ネット連載のコラムをまとめたものであるという性質から、一編一編の長さはまちまちで長くても 3 ページ程度です。個人的には「ジーノの家」程度の起承転結を含んだ長さの短編の方が著者の文章の品、人々を観察する目、巡り合わせの妙などを織り込むことが出来て本領発揮となるように思うのですが、これはこれで皿に並んだカナッペをひょいとつまんで口に運ぶみたいな感じに楽しめる気楽なエッセイになっています。にしてもイタリア料理美味しそうだな。

<ライオンのなりをして入っていったのに、子羊になって出ていった>
 三月のことをイタリアでそう言う。
(59. 三月に会える友だち)


「March comes like lion」、かの羽海野チカの漫画「三月のライオン」のタイトル由来はイタリアの言葉だったんですね。

 イタリアの人々はマイペースで生活することを大切に楽しんで暮らしている、その断片が、引き出しを一段一段開いては覗くように書かれています。著者の好奇心旺盛な人との関わり方、イタリアの隅々からフランスなどどこへでも出掛けていく行動力、そういったもののおこぼれを綺麗な文章で読ませてもらって、イタリアに思いを馳せる読書タイムです。
| 国内あ行(内田 洋子) | 12:11 | comments(0) | trackbacks(0) |
「皿の中に、イタリア」内田洋子
評価:
内田 洋子
講談社
コメント:魚! オリーブオイル! チーズ!

●本日の読書
・「皿の中に、イタリア」内田洋子/講談社


 内田さんのエッセイは品があって味わい深くて、読んでいて陶酔します。それくらい惚れています。本書はイタリアの食に関するお話を二十篇集めたもの。大概は美味しいものにまつわるお話なので「うわー食べたい」「これも食べたい」「どんな味のワインなんだろう」「てゆうか魚料理! カサゴ!」「うちもパンにオリーブオイル垂らして食べてみるかなあ……」と興味は尽きないのですが、稀に登場する美味しくなさそうなものもそれに関わる人々の思い出でしっかり味付けされており、噛みしめたくなる話ばかりです。

 イタリアのマイナー地方、カラブリアについて書き物をすることになった著者。カラブリアの関係者に話を聞こうと知り合いを尋ね回ってもなかなか見付からず、ようやく会えたカラブリア出身の魚屋三兄弟は非常に寡黙、と云うか全く話に応じてくれない始末。打ち解けるまでに非常に長い時間を要するのがカラブリア出身者の特徴と云うことで、腰を据えた著者、毎週金曜日に市場に店を出す三兄弟の魚屋に通い詰め、その都度大量に魚介類を買い込み自宅で調理し「魚の日」として隣近所、知り合い、誰彼構わずに料理を振る舞うことを始めます。著者の手料理も大胆だったり(カサゴ丸揚げ)細かかったり(鯵の素揚げ)と様々でその描写だけでも垂涎なのですが、招待される客たちの魚介類への関わり方や、ゲストの出身地から思い出される地方料理の思い出話など、住んだ者しか手に入れることの出来ないイタリアの食に関するあれこれが美しい文章で奏でられています。食べた者が感涙に咽ぶチーズって、一体どんな味なのか……。

 最近一番惚れている文章書きさんです。まだまだ既刊読んでいないので、楽しみは続きます。
| 国内あ行(内田 洋子) | 23:20 | comments(0) | trackbacks(0) |
「ジーノの家 イタリア10景」内田洋子
評価:
内田 洋子
文藝春秋
コメント:端正なエッセイ。素晴らしい美文に惚れた。

●本日の読書
・「ジーノの家 イタリア10景」内田洋子/文春文庫


 素晴らしい本に出会いました。ここで星五つ付けてるのなんて、堀江敏幸「雪沼とその周辺」とこの本くらいじゃないかと思います。しかも小説じゃなくエッセイ。エッセイあまり買わないわたしに取っては、エッセイでここまで拘泥する文章に出会えたってことは人生の宝です。大袈裟? でもそれくらい品のある素敵な本です。

 副題にもある通り、イタリアに暮らす著者が袖擦り合った市井の人々との日常生活を、落ち着いた、しかし鮮やかに情景が見える筆致で描き出した十篇です。その一篇一篇が一つの短篇小説のように登場人物の生い立ちを浮き上がらせ話に奥行きを持たせています。海外暮らしの経験がないわたしに取っては、何かにのめり込んでいきなり人生の方向を変えたり、流された先で逞しく人生を花開かせたりする、ちょっと独特なイタリアの人々の生活が楽しく読めました。著者はあくまで観察者としてその場に居合わせて文章を紡いでいますが、その姿勢が恐らくは温かみのある控えめなものであるため、相手の人生を分けてもらったような経験・描写が出来るのではないかと思います。

 本作は日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞を史上初のダブル受賞したとのことですが、解説によるとエッセイについての有力な賞は国内にこの二つしかなく、また個性が異なっているとのことですが、それを両方受賞するだけの魅力があります。米原万里が好きな人は肌が合いそうです。

 好奇心からミラノの暗黒街を歩く話、葛飾北斎の生まれ変わりを自称するイタリアの画家に会う話、愛する飼い犬をさらわれた女性とその散歩仲間、果てしない苦労をしてサボテンの実を売る兄弟、大きな船に惚れ込んで退職金を注ぎ込み船の修繕を待つ男性などと触れ合って紡ぎ出された芳醇な文章を是非ご堪能下さい。出てる単行本全部買おうかな。
| 国内あ行(内田 洋子) | 21:51 | comments(0) | trackbacks(0) |
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