書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

「文鳥・夢十夜」夏目漱石

評価:
夏目 漱石
新潮社
¥ 420
コメント:全七編の小品、随筆等を納めた一冊

●本日の読書
・「文鳥・夢十夜」夏目漱石/新潮文庫


 漱石先生に感想を述べると云うのもおこがましい話ですが。

 短編、随想ばかりを集めた一冊です。「文鳥」「夢十夜」「永日小品」「思い出す事など」「ケーベル先生」「変な音」「手紙」を収録。中で長いのは「思い出す事など」で、これは中編小説程度の長さですが小説ではなく新聞に連載された随筆だそうです。「夢十夜」の評価が高いですが、私は「文鳥」の方が好きです。なにしろ文鳥の描写が美しいです。ああ、日本語っていいなあ。

 ただ、一つ言いたい。作品紹介では「家人の不注意によって文鳥を亡くし〜」と書いてあるのですが、どうしたって漱石、あんたが悪いよ。明治時代の家長にペットの世話をせいとは言えないのだと思いますが、漱石は執筆の合間に文鳥を眺めて「可愛いなー可愛いなー」って思っているだけで、その世話は妻や使用人任せ。もうちっと親身になれよ、文鳥死んだのあんたの所為だぞー。

 と、作品のあまり重要でない点に突っ込むのはさておき、久し振りに夏目漱石を読みましたがやはり日本語のクオリティが高くて読んでいて心落ち着きます。三島由紀夫ほどきらびやかでなく、谷崎潤一郎ほど艶々でなく、森鴎外ほどかしこまっていない、絶妙な漱石の文章。何気ない言葉も今の話し言葉とは違っている為か新鮮に響き、久々の明治文学として楽しめました。

 最も印象に残った表現が、「永日小品」の中の「心」にある一節で、木の枝に止まった小鳥が飛び立つ瞬間を「枝の上が煙る如くに動いたと思ったら、小鳥はもう奇麗な足で手摺の桟を踏まえている。」としたところ。この「煙る」と云う表現が溜まりません。美しい。一冊通して考えると、この「心」と云う作品が一番好きです。

| 国内な行(夏目 漱石) | 22:23 | comments(0) | trackbacks(0) |
「こころ」夏目漱石
●本日の読書
・「こころ」夏目漱石/岩波文庫:ISBN:4-00-007204-8


 本家の日記からほぼそのまま引用。

 「座右のゲーテ」の影響で古典に手を出しています。漱石については沢山の大家が沢山の解説・解読を行っていますのであたしの方からは特に解読致さないですが、大きくまとめた印象。

 「こころ」はご存知の通り、全体が三部に分かれています。
上・先生と私
中・両親と私
下・先生と遺書
教科書等に採用されている有名は箇所は「下・先生と遺書」に於ける、先生と友人 K との間の話ですね。現国で「こころ」やってる時に必ず流行る言葉、「精神的に向上心のないものは、馬鹿だ」とか「僕は馬鹿だ」が出てくるのが此処。っても分かるんですよ教科書が此処を採用する理由。第一部も第二部も正直面白くない。先生と私を繋げる為に些か強引な状況や心情描写があったり、第三部への伏線と先生への心酔を描く為に第二部を設けたようにしか思えなかったりと、全てが渾身の第三部へと続く為の文章としか思えない訳です。高橋源一郎「日本文学盛衰史」によると、こころは一文を除いて無駄な文章は全く無く素晴らしい完成度の小説と云う事になるのですが、あたしはまだその境地まで読み込みが出来ません。

 しかし確かに漱石は凄いです。明治の文学ですが非常に魅力的な文章で、大層美しいです。何百年経とうとも、我々は文学と云う領域に於いて明治の主題を飽きず繰り返しているだけだと思わされます。畢竟人間は変わっていないと云う事なのか、はたまた其処に文学の限界があるのかは分かりませんが、来年も小説に触れ続けて行こうと思います。
| 国内な行(夏目 漱石) | 22:26 | comments(0) | trackbacks(0) |
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