書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

「人間そっくり」安部公房
評価:
安部 公房
新潮社
コメント:自分を火星人と名乗る人間そっくりな男が訪れた。本物の火星人か、気狂いか?人間のアイデンティティーを問う一作。

●本日の読書
・「人間そっくり」安部公房/新潮文庫


「砂の女」で衝撃を受け、「他人の顔」「第四間氷期」でその哲学的な問いかけの姿勢と無駄のない文章に惚れている作家で、asahi.com の書評欄で再評価されていると読んで手に取った一冊です。四十年以上前に母が好きだったので、大体の安部公房作品は本棚にあると云うありがたい環境。

「人間そっくり」は、火星人を題材に取り風刺的なラジオ番組を制作している放送作家のところへ、自らを火星人と名乗る男が訪れる場面から幕を開けます。その火星人は火星人らしくなく「人間そっくり」。果たして単なる精神病者なのか、本当の火星人なのか? 普通に気狂いの人をあしらう対話として読んでいると段々と男が本物の火星人のように思えて来たり、いややっぱり単なる狂いかと思ったりと、対話の内容に翻弄されます。火星人の言葉の随所に散らされた内容から実は狂っているのは作家の方ではないかとか、いややっぱり火星人の方がおかしいと疑っている内に事態は思わぬ方向へ進んでいきます。果たしてこの結末に、読者はどのような思いを抱くのか。自分は人間(或いは火星人)であるということを証明するにはどうすればいいのか? アイデンティティーを問う一作です。

 執筆時期は調べていませんが「砂の女」に比べると文章の「削ぎ落とされた」感が薄く、読者を煙に巻くためか放送作家の性格を表現してかくどくどとした独白が多い印象です。アイデンティティーを問うと書きましたが、いわゆる純文学としての問い掛けと言うよりは SF。二人の男が部屋の一室で会話をしているだけなのに、徐々に火星人の信憑性が高まっていく運びは流石。読んでいて星新一を思い出しました。そう言えば wikipedia でこの二人の作家が生前意識的に同席を避けていたと云うのもなんとなく納得出来ます。星氏は SF 的発想をエッセンス抽出してショートショートと云う形にまとめ上げ、安部氏は人間としてのアイデンティティーを問う内省的な方面に進んでいった為に作品の傾向は違うと云う印象ですが、着眼点は「そっくり」なケースが多かったのではないでしょうか。

 この本は「人間そっくり」と「鉛の卵」の二作を収めていますが、前者と後者の割合は 9:1 で殆どが「人間そっくり」。でもわたしは「鉛の卵」の方が面白かったです(ここまでの文章、台無し)。
| 国内あ行(その他) | 23:04 | comments(0) | trackbacks(0) |
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