書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

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「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ
●本日の読書
・「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ/早川 epi 文庫

 あー、ひどい話だ。ひどいひどい。

 どこらじゅうの書評で書かれているでしょうが、内容に触れず書評を書くことが非常に難しい物語です。ある特殊な施設・ヘールシャムで子供時代を過ごした三人の男女を中心とした物語で、その施設の目的が物語の本筋に大きく影響を与えています。そのほの暗い秘密がちらちらと見え隠れしながら否応無く物語は進み、彼らは成長していきます。とは云え、施設の目的は、卒業者が就く職業の「介護者」「提供者」から、序盤で何となく推測が付きますがね。

 この物語で特筆すべきはその施設が設立されたおぞましい目的や発想ではなく、あくまで淡々と見せつつもねちねちと展開する狭いコミュニティ内の人間関係の描写です。主人公のキャシー、その友人で女子のリーダー的存在ルース、生涯を掛けて深い繋がりを持つことになる男性トミーとの、近付いたり距離を置いたりするその些細なきっかけ。小学生から中学生の時期における、どうってことない出来事が人生の一大事のように思って仕舞うあの独特の環境と感情。それが微に入り細に入り描かれている、その美しさ。

 ヘールシャムでの思い出が、卒業後にもカットバックで挿入され、それぞれの人物に影響を与える緻密な展開も見事。いわゆるエンターテイメント小説とは違って、ダイナミックな盛り上がりはありませんが、こう、しみじみとひどい話です。しかし、心を動かされます。

| 海外(その他) | 12:50 | comments(0) | trackbacks(0) |
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