書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

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「文字移植」多和田葉子
●本日の読書
・「文字移植」多和田葉子/河出文庫


 わかんない、わかんないけどとても惹かれて先が気になる小説でした。「海に落とした名前」よりも好きです。

「現代版聖ゲオルク伝説を翻訳するために火山島を訪れた<わたし>」が散らばる言葉と進まない翻訳、想像の世界で<作者>とコミュニケーションを取り、次第に自分が変身してゆくイメージに囚われてダメージを受ける。果たして翻訳は完了するのか、物語世界に飲み込まれるのか……と書くと良くある類の「翻訳している内に物語世界に取り込まれて、物語世界を生きるようになる話」と思われそうですが全くそうではなく、もっと更に分からない話です。翻訳から食らう肉体的ダメージも靴に小石が入っているとか肌がかぶれるとか、痛いけれど重くないそんな症状で、なるべく早くに翻訳を終えて島から原稿を放して仕舞わねばならないと強迫観念に駆られる日々。

<作者>と共に噴火口の縁を歩いているイメージが、翻訳という作業を通して母語と翻訳語の間で揺れる<わたし>のメタファーであるという解説を読むと「ああ、そうかー」と思うのだけれど、読んでいるときはそれに全く気付かないくらいのわたしの読解力。そんなわたしがこの小説の何に惹かれているのかと云うと、舞台となる火山島に暮らすどことなく無機質な人々と、進まない翻訳の行方です。時折挟まれる言葉の断片は単語の羅列だったのでそれがまさか翻訳文だと思いませんでしたが、どうやらこれが彼女の翻訳らしいです。そしてその物語も佳境に入っているのですが単語の羅列であるが故に盛り上がりに欠け、しかし確実に物語も翻訳も終わりに向かっていることが分かるのです。

<わたし>が来訪を恐れているゲオルグの存在も謎です。実在の人物なのか、物語の中の聖ゲオルグなのかも明らかにされていませんが、彼が登場しないままで<わたし>を動かしている「不在の中心」です。後半、物語がまるで自力でどうにもならない夢の中の様相を呈してきますが、不思議に惹かれる物語でした。多和田葉子作品、もっと読んでみたいです。
| 国内た行(その他) | 01:04 | comments(0) | trackbacks(0) |
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