書評・三八堂

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「天地明察(上)」沖方丁
評価:
冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)

●昨日の読書
・「天地明察(上)」沖方丁/角川文庫


 これ、文庫も上下巻合冊で良かったんじゃないかなあ、単行本みたいに。

 吉川英治新人賞と本屋対象は伊達じゃないですね、大変面白いです。江戸時代に生きた渋川春海の生き様を描いた小説です。主人公の渋川春海は囲碁の名家に生まれ、お城碁と云って幕府の重役に碁の指導(指導碁と言います)を行う役職にあります。囲碁の腕を磨きながらも定石を守りデモンストレーションの域を出ない指導碁に情熱を見いだせず、かと言って決まりごととして碁打ち同士の真剣勝負を行うことも許されていない身の上の彼は、持て余した情熱を多方面の趣味探求に向けます。その中で彼の心を捉えたのが算術。今で言う数学の問題解き、そして新しい問題の作成に情熱を傾けます。

 上記の行動で渋川春海が血気盛んで若さ故の情熱を持て余している人物かというと実はそうではなく、わりと淡々と実直にやるべきことをこなし、囲碁に関する上昇志向にも欠ける感じです。そしてとぼけていていい人。この愛すべき若者は、難しい算術の問題を一瞬で解いてしまう「関」なる人物の名を知り、まだ見ぬ同年の彼に畏敬とも執着とも言えない複雑な感情を抱き、自分の作った算術の問題に向き合って欲しいと云う心からの願いを持ちます。

 変態ですな、一種の。数学的変態。非常に稀な感じの。

 上巻では、そんな春海が憧れの「関」さん(誰だか明白なのですが敢えて伏せます)と算術のやりとりを行う内に、幕府から意外なお役目を与えられて全国行脚する様子が描かれています。指導碁ではないお役目の裏には何があるのか、春海ならずとも興味が沸き、それが徐々に明らかになっていく様がページをめくる手を止めさせません。

 この小説なにが良いって、春海が感じる「時代が動くこと」「自分に課せられた大きな役目を果たすこと」「時代を俯瞰すること」の途徹もなさとそれに立ち向かう高揚感がたまらないです。時代を変える巨大事業、それを成し遂げんとする若さと可能性。気持ちのいい青春小説です。

 一年三ヶ月を越える全国行脚を経て春海が身に付けた武器を手に、下巻ではいよいよ徳川の世を変える事業が始まります。春海は恩人の期待に応えられるのか、事業は春海が生きている内に成し遂げられるのか、関さんとの勝負の行方はいかに、乞うご期待!

……やっぱこれ、分冊にする意味無いと思うなあ。
| 国内あ行(沖方 丁) | 15:48 | comments(0) | trackbacks(0) |
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