書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

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「青い鳥」重松清
評価:
重松 清
新潮社
コメント:学校に居心地悪さを感じている人はどうぞ

●本日の読書
・「青い鳥」重松清/新潮社


 この人、ほんと中学生なんじゃないだろうか。著者の重松清のことですが。

 八つの短編が収められた単行本です。中学校に通う生徒の孤独と寂しさに寄り添う吃音の教師、村内先生が登場する連作集となっています。いえもう重松清は職人技がすごくてどの本を読んでも安定して上手なのですが、自分と遥かに年齢の離れた小中学生の心理を描かせて上手なのはなんかもう不思議で仕様がありませんね。なんでここまで学校生活の居心地の悪さが分かるのか。その言葉の選び方一つ取っても実に適切で、ああこの気持ちはこの言葉で表現するんだなるほどなあと、ジグソーパズルが目の前でどんどん組まれて「学校という特殊世界」と墨書きされた絵が徐々に見えてくる感じで読み進めて仕舞います。そう、中学校って、中学生って、ほんと沢山のことを毎日やり過ごしていかなくちゃならなかったなあとしんどい気持ちになりました。

 個人的なことを言えばわたしは中学校までは勉強の成績が良かったので、あまりいじめとか孤独とかに起因する切実な状況に陥ったことが少ないのですが、それでも女子なので面倒な友だち関係とか部活のゴタゴタなんかは人並みに経験しております。いじめられるよりはいじめる方でしたけどね(当時を知る方々、まあ色々と言いたいことはあるでしょうけれどそこはそれ、一つ宜しく)。同じ教室で同じ授業を受けて違うことを考えている生徒たち。その中でも、いじめで追い詰められた人、いじめを黙認した罪悪感に苛まれる人、先生をナイフで刺した人、強引な友だちに巻き込まれて苦しむ人、そう云った学校生活の違和感に苦しむ生徒の前に、臨時講師の村内先生が現れます。「良かった、間に合った」と言いながら。

 村内先生は冴えない中年の男性教師で、何より吃音です。カ行とタ行の言葉が突っかえて「ででででも、たったたたた食べるのか?」と云った話し方で国語を教えています。教師なのに話すことが不得手。でも喋りが達者でない分、先生は大切なことだけを選んで話します。問題を抱えている中学生の「傍にいる」「寄り添う」それだけを解決策にして。

 確かに未成年の傍近くにいる大人は、家族の他には先生しかいません(人によっては親戚とか近所の人とかと親しく付き合える環境にいる人もいますが、都会じゃ稀かと)。表題作の「青い鳥」はいじめでクラスメイトを追い詰めた学級が舞台で、これが最も現代の問題点として大きいと思うのですが、わたしの心に残ったのは冒頭の「ハンカチ」です。学級会で吊し上げられた女の子が失語症になり、そこに同じく喋りに問題を抱える村内先生が臨時講師としてやって来るお話。話すことが困難、と云うことを共通項として織り込みながら、彼女が心の拠りどころにしている小道具、ハンカチの効かせ方も上手いし、結末も美しい。お手本のような短編小説です。学校生活に居心地の悪さを抱えている中学生各位、そして小中学生のお子さんを持つ親御さんにもおすすめの一冊です。阿部寛主演で映画化もされているみたいです。吃音の阿部寛は見てみたいなあ。

JUGEMテーマ:小説全般
| 国内さ行(その他) | 14:48 | comments(0) | trackbacks(0) |
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