書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

「小松とうさちゃん」絲山秋子
評価:
絲山秋子
河出書房新社
コメント:うさみせんぱいかっこいー。

●本日の読書
・「小松とうさちゃん」絲山秋子/河出書房新社


 五十二歳の大学非常勤講師、小松と、その飲み友達の将棋の飛車のような顔をした宇佐美、おっさん二人の話です。小松は仕事で新潟へ向かう途中に電車で隣り合った妙齢の女性、みどりと知り合いになり、宇佐美はシミュレーション系ネットワークゲームで複数のプレイヤーが所属する同盟の盟主を務めています。二人の仕事とプライベート両方が交互に語られ「そう、確かに私たちはこうして暮らしている」と、社会人たる自分を客観的に見ているような錯覚を覚えました、出てきているのは仕事も違うおっさんだけど。

 ネットワークゲームでは、宇佐美が盟主の小さな領地「うさぴょん同盟」は大きな戦争の巻き添えを食う形でチームメンバーの戦力も宇佐美自身の設備もどんどん削られてゲーム内では瀕死。盟主としての戦意鼓舞、敵との交渉などの雑務をこなす宇佐美は、昔あんなに楽しかったゲームに飽きているけれど立場上止められない状態。対する小松はみどりとの仲が少しずつ、少しずつ近付き、目当ても張り合いもなかった生活に彩りが出て来ます。

 みどりの職業に関する不穏な空気をまといながらも、物語は特段大きな事件が起こるでもなく淡々と三人の日常を描いて進むのですが、時おり心をえぐる描写が出てきてはっとします。蛍光灯が切れる瞬間の残像、昔の電車に備え受けられていた水を飲むためのぺたんこの白い紙製のコップ(中がビニルコーティングされているあれ)、電車の路線が地下化して暮らしている風景が激変すること、すっかり忘れているのだけど、都内に住んでいないわたしたちもこう云った思い出と変化は共有していて、そしてある時目にした光景や物語の中で不意にそういったことが飛び出してドキリとしたりチクリとしたりする。そう云う瞬間が欲しくて私は本を読んでいるのかも知れないとさえ思います。

 本作は弊録されている「騾馬と飛車」と云う短編の登場人物たちを気に入った作者が書き上げた長編ですが、元となった「騾馬と飛車」も必要十分な言葉で表されて余韻を残す好きな話でした。同じく弊録のクラゲの話が毛色が異なっているですが、これがまた刹那的で、切なく、心揺らされるものでした。

JUGEMテーマ:小説全般
| 国内あ行(絲山 秋子) | 14:23 | comments(0) | trackbacks(0) |
スポンサーサイト
| - | 14:23 | - | - |









http://38-do.jugem.jp/trackback/674