書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

「ダーコーヴァ不時着」マリオン・ジマー・ブラッドリー
●本日の読書
・「ダーコーヴァ不時着」マリオン・ジマー・ブラッドリー 細美遥子・宇井千次 訳/創元推理文庫


ダーコーヴァ年代記シリーズ五冊目にして、ダーコーヴァの起源が描かれる長編物語です。にしても「DARK OVER(闇の向こう)」を「ダーコーヴァ」と云う一種不思議な文字表現で翻訳した訳者の才能を改めて称えたいですな。これ原文の英語だとモロ「Darkover」ってなってて、わざと一単語にしてあるとはいえ文字から与えられる「闇」の印象は拭えないと思うのです。それを日本で刊行するに当たり「闇のとばり」などと変に訳さず、馴染みない異世界の雰囲気を醸し出すファンタジーな字面で「ダーコーヴァ」にしたセンス、ほんと最高。「ダーコーバ」にならなくて本当に良かった。大森望天才。

と云う、シリーズ名と翻訳に関する個人的な称賛は置いといてですね(でも海外作品については、翻訳者のセンスって本当に重要だと思っていますが)、物語世界のお話をしましょうか。地球年代で言うところの二十二世紀の初め、人口の増加による環境悪化への対策として地球人たちは宇宙へ飛び出して遠方の惑星に入植し、スペースコロニーで生活する仕組みを生み出しています。冒頭に登場する船もそういった入植用に開拓された惑星、コロニス・コロニーへ向かって飛行していた宇宙船でしたが、全く別の惑星に不時着する事故が起こります。地質学者のレイフェル・マッカラン(レイフ)は、再度目的のコロニーに向けて飛び立つべく宇宙船を修理するスタッフたちの援助をしつつ、合間を縫ってこの星を調べます。幸い大気中の酸素量は多く地球より重力の僅かに軽いこの星では、生き残りの地球人二百人は即座に死滅せず、しばらく急場を凌ぐことは出来そうな状況です。二週間程度の修理で直る見込みであった宇宙船の状態が思ったよりも深刻であると分かるにつれ、長期滞在のために星の情報を集める必要が生じます。レイフは探検隊のメンバーに組織され、友人の医師ユーアン、ユーアンの恋人で動物学者のヘザー、航宙士で観測のプロであるカミラ・デル・レイ女史などの七人チームで調査に出掛けます。物語前半は、高慢でレイフと馬の合わないカミラの二人の関係が描かれるのですが、未知の惑星で起こる多くのトラブルと調査隊各々の様子を活写することで、星の生態系と不思議な現象、メンバーの性格と関係の変化、そして未だ遭遇せぬ知的生命体の存在を読者は感じていきます。正にSF、サイエンス・フィクション(いや、この場合スペースファンタジーの方が近いんですが)。

後半は、この星特有のある現象が起こす混乱を元に二百人の生き残りたちがそれぞれの意思、主義からそれぞれにコミューンを組織し、集団で生き延びることの組織的困難さが非常に魅力的な物語となっています。Society って非常に難しい問題で、それを限られた地域で縮図化して描いたこの展開、わたしはとても興味深く読みました。物事を大局的に、世代を見越して生存計画を立てるような視座って普通に生活していると持てない(賢い人は持てる)のですが、状況的にその視点を持たざるを得なくなった彼らがどのように社会を構築していくかは面白い。この辺りは、「アポロ13」とか「火星の人」などの「あるものを工夫して状況を打開する」話が好きな人は肌が合うかも。ってほどサバイバル感強くないけど。

前四巻で語られたコミンやラランと云う言葉は全く出て来ないのですが、その萌芽は物語の中に登場し、原初を目撃出来るのは嬉しいです。最後の一文は、シリーズ好きなら胸に来るものがあります。あー面白かった!

なんてえっらそうに書いてますが、四冊目から本書の読了までに時間が開いてダーコーヴァの知識を随分と失った状態で読んだので、解説にある「炎の神シャーラで描かれた△△の出来事がここでも語られている」と云う文言に「はて?」ってなってました。次の本はもう少し続けて読みます。
 
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| 海外(ブラッドリー) | 08:32 | comments(0) | trackbacks(0) |
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