書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

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「ショコラティエの勲章」上田早夕里
評価:
上田 早夕里
東京創元社
コメント:SFから入ったので意外な一作。出て来るもん全部美味しそう。

●本日の読書
・「ショコラティエの勲章」上田早夕里/東京創元社

 著者の本は「華竜の宮」「リリエンタールの末裔」二作を読んでおり、両方とも想像を超えた進化の果てなる種族「魚舟」が登場するSFであったため、本作のような現代を舞台にしたミステリ作品を書いておられるとは意外の一言でした。「火星ダーク・バラード」で小松左京賞を受賞しデビューした経歴からも、異世界を見事に構築する想像力と筆力が(多少失礼な表現になりますが)、良くある普通のミステリだと勿体ないんじゃないかと思ったんですよ。

 ショコラトリー(チョコレート専門店)を舞台にした、読んでいてチョコだのケーキだのがやたらめったら食べたくなる、微に入り細に入った味の描写が堪らんミステリです。人が死なない話で、日常に起こるちょっと不思議な出来事を解決していきます。腕のいい寡黙な男性ショコラティエ、長峰が理知的に不思議の答えを明らかにする探偵役で、でもミステリ的な探偵ではなくて、洞察力のある一般人って感じです。語り部は、長峰がシェフを務める人気ショコラトリー「ショコラ・ド・ルイ」の二軒隣の老舗和菓子屋「福桜堂」の工場長の娘、絢部さん。絢部さんは若い娘さんなのに浮ついてなくて、ちょっと中年女性っぽい落ち着きがあります。だから年上で感情をあまり出さない長峰さんとやり取り出来るんだろうなあ。

 不思議解明がメインになるような、所謂トリックのための小説ではなくて、登場人物の描写がリアルで深みのある物語です。安易なお話だと、人はお互いを分かり合うために(または作者の意図のために)喋り過ぎるきらいがあって、その会話によって誤解が解けたり恋が芽生えたりしがちでひねくれ者の私は「えー」と思うのですが、本作の登場人物は「他人同士は分かり合えない(こともある)」ということを認めており、それがリアルでした。一つの出来事が解決したからと云ってそれまでの確執はなかったことになる訳ではなくて、やっぱり何らかのわだかまりや感情のしこりは現実に残るもの。それをちゃんと描いており、全てをめでたしめでたしに収めないところが好感が持てました。感想として変ですかね? だってそう思ったしなー。

 にしても登場人物みんなお菓子の味に詳しいのな! すごくいい舌持ってんのな! 舞台が舞台なもんで、チョコだのケーキだの和菓子だのがバンバン出て来るんですが、それがもういちいち美味しそうで、なのにあまり菓子にこだわりのないわたしは出て来る用語(特に洋菓子)が分からんのなんの。フランボワーズって何ぞね。クーベルチュールは食べ物ですか技法ですか。チョコ食べて、それに花のフレーバーが入っているのを感じるとか未知すぎる。でもお菓子好きな人や、製菓に詳しい人なら堪らんだろうなあ。多分実際に作ろうと思ったら作れるリアリティがある内容だと思います。アマゾンのレビューで読んだんですが、著者には菓子業界で長く働いた経験があるのだとか。うん、納得。個人的には第一話「鏡の声」、第二話「七番目のフェーヴ」、第四話「約束」が良かったです。本書の前作に当たる「ラ・パティスリー」も機会があったら読んでみたいです。

 でもわたしは、著者の作品なら、あの奇想天外な生き物が登場する骨太SFの方が好きだなあ、と再確認いたしました。

JUGEMテーマ:小説全般

| 国内あ行(その他) | 22:58 | comments(0) | trackbacks(0) |
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