書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

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「弱くても勝てます 〜開成高校野球部のセオリー〜」高橋秀実

●本日の読書

・「弱くても勝てます 〜開成高校野球部のセオリー〜」高橋秀実/新潮社

 

 あー面白かった。著者独特の淡々としたおかしみ滲む言い回しに何度も吹き出しました。

 本書は、偏差値が高く東大進学率 No.1 の開成高校野球部が甲子園を目指すルポタージュです。開成高校野球部はとにかく野球が下手で普通であれば試合で勝てる筈もないものを、部を率いる青木秀憲監督の独特の打順と独特の指導により、不思議と勝てちゃったりする様を描いています。ゴロはトンネルするし、フライが上がるとぼーっと見て後になって慌てて落下地点に向かって走ったり、キャッチボールで暴投するしで、基本的にみんながみんな異様に下手。ある生徒は「エラーは開成の伝統」と言い切り、「こんなにエラーすると相手が相当油断するじゃないですか。油断を誘うみたいなところもあるんです」とまるで戦略みたいに語る。いや、捕ろうよ。

 ではそんな開成高校野球部の秘密を少しだけ開陳。打順は普通、1番強打者、2番に技巧者、3番〜5番に強打者を置くのがセオリーですが、青木監督は打順を輪だと考え、1番、2番に強打者を置き、以降そこそこ打てる順番に配置。下位打者が出塁した状態で打順が始めに戻ったら「ドサクサに紛れて」大量得点を図る、という戦略です。守備が下手なので点数を取られるのは当たり前、それを上回る得点を一気にもぎ取る作戦で勝ちに行きます。うーん東大の考えることはよく分からん(青木監督は東大野球部出身)。

 しかしその方法論が本書の魅力ではありません。本書の一番の魅力は、著者と野球部の面々の禅問答のような会話です。

――それで野球のほうは成果が上がっているんですか?

 あらためて私がたずねると、彼は真剣な面持ちでこう答えた。

「素振りはやっているんですが、球は前から来るもんですから」

――前から来る?

 当たり前すぎることで、私は一瞬何のことかわからなかった。

「球が前から来ると、素振りと違うんですよね」

 彼の抱える問題は、「球が前から来る」という野球の本質にかかわることだった。

(154ページ)

 野球部でしょ!? 野球部なんでしょ!? なんか色々おかしくない? ……いや、彼なりに野球に真剣に向き合っているからこその問題提起であり、でもやっぱなんつーかおかしい。この会話に限らず、全体的に開成高校野球部の面々は理屈で物事を図り、自分の納得のいく言葉によって言語化されないと動けない。身体を動かすより理論を優先する。それは青木監督も分かっていて、だから指導の言葉が理屈っぽい。この理屈っぽい言葉が開成の生徒には効果があり、だから「ドサクサに紛れて」勝っちゃったりもする。

 この本はもしかしたら、コーチング理論とかセオリーを破ること、着眼点などの参考にするべきものなのかも知れませんが、わたしに取っては会話のおかしさを噛み締める本でした。ちょっと分かりにくい喩えだけど、土屋賢二のエッセイ読む感じ。

 

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