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お祝いの言葉
一年生の皆さん、入学おめでとうございます。今日から皆さんは小学生です。ランドセル、素敵ですね!
小学生はなかなか忙しくて、大変です。なんと言っても授業があって、勉強や運動が始まります。
先生方は、勉強を分かりやすく教えてくれます。ちゃんと椅子に座って先生のお話を聞くことが出来ますか? 出来るよって人、元気よく返事をして手を挙げて下さい。
他には、給食や掃除もあります。やったことがなくても大丈夫、先生だけじゃなくて、六年生から二年生までのお兄さんお姉さんたちが、優しくやり方を教えてくれますよ。
素敵な小学生になれる秘密が二つあります。
一つ目は、大きな声であいさつをすることです。朝、人に会ったら「おはようございます」、帰る時は「さようなら」を大きな声で言って下さい。元気なあいさつはみんなを嬉しい気持ちにします。
二つ目は、ちゃんと「ありがとう」を言うことです。嬉しい気持ちになったり、助かったなあと思った時は恥ずかしがらずに「ありがとう」と言って下さい。これでスペシャル一年生の完成です。
保護者の皆さまにおかれましては、お子さまのご入学、誠におめでとうございます。
わたしたちPTAは、子どもたちが楽しく実りある学校生活を送るために、学校や町と協力しながら様々な活動をしています。お忙しい中とは存じますが、PTA活動へのご理解とご協力をお願いいたします。
以上を、お祝いの言葉といたします。
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六年生の皆さん、卒業おめでとうございます。立派になった皆さんの姿を見て本当に嬉しく思います。
保護者の皆様、本日はお子さまのご卒業、おめでとうございます。入学式、足をぶらぶらさせたり、後ろを振り返ったり、落ち着かない様子で椅子に座る姿にハラハラしたあの日から六年、立派に成長したお子さまをご覧になり、胸を熱くされていることと思います。
校長先生を始め、ご指導いただきました先生方。毎日の学校生活の中で、学び、そして人間としての成長を、やさしさと熱意をもって見守って頂きましたこと、保護者を代表して御礼申し上げます。
さて、卒業生の皆さんは、人生の半分が小学生だったことに気付いていますか? 皆さんは六年間、ひとつのクラスの仲間として、人生の半分を一緒に過ごして来たのです。この六年間、いろいろなことがありましたね。楽しかったこと、つらかったこと、みんなで笑いあったこと、一生忘れることのない思い出になると思います。
皆さんは今日、○○小学校を卒業します。そして中学生になり、その先の未来へとどんどん進んでいきます。
もうなんとなく分かっていると思いますが、人生は楽しいことばかりではありません。これからたくさんの困難や、課題をがんばって乗り越えていかなくてはいけません。
では、分からないことや困ったことに突き当たった時、皆さんはどうするでしょうか。
本を読んだり、インターネットで調べたり、友達に相談したり。漫画や小説、音楽や映画の中にも、ヒントや答えがあるかもしれません。
ですが、そんなときに、思い出してください。わたしたちが、そばにいます。わたしたちを頼ってください。皆さんが進んでいく未来に、家族として一緒により添えることを、わたしたちは何よりも嬉しく、そして誇りに思います。
適度な距離は保つつもりですが、近すぎる場合には「ウザい」とか「キモい」とか言わずに、やさしく伝えてもらえたら、ちょっと嬉しいです。
ここにいる○○名の皆さんが、希望に輝く未来を創り、歩んでいけることを、心より願い、お祝いの言葉として贈ります。
令和○○年三月○○日 ○○小学校PTA会長
]]>●本日の読書
・「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」高山羽根子/集英社
平易な出来事を主人公の目線で描いているのだけれど、序盤から中盤で描かれてきた主人公の体験してきた小さな出来事が、小説終盤でポツポツと気泡のように現れて情景を補足していく様が見事だと思いました。この小説の魅力をわたしは上手く文章に出来なくてもどかしいし、所謂伏線回収的なカタルシスのある話ではないのだけれど、人生ってこういう小さな思い出とか記憶とかが後になってフッと何かと結びついたりすることが往々にしてあって、それを満遍なく表現していると思いました。
祖母は煮染めたような高齢者だったけれど背中だけは綺麗だったから亡くなった時にどうにか遺体の背中を見ようとするくだりとか、近所の変質者の話とか、中学生の時の大学寮の学生との出来事とか、災害時にふと入ったお店で知り合った人との交流とか、そういう「人生のピース」で人は構成されていて、時間が下ってからふとそのピースが顔を出す、そんなことの積み重ねの描写がとてもいい。
あとは「中心の不在」。主人公に起こった何か大きな出来事が敢えて描写されていなくて最後にそれが何だったのか分かる仕組みのお話をわたしは「中心の不在」と言っているのだけど、わたしはそういう物語がとても好きです。
JUGEMテーマ:小説全般
]]>●本日の読書
・「書く習慣 〜自分と人生が変わるいちばん大切な文章力〜」いしかわゆき/クロスメディア・パブリッシング
記録を残すというのは結構重要なことだとわたしは思っていて、何故なら読んだ本の感想とか舞台を見た感想だとか生活での出来事などは、それぞれ読書記録、自分のツイート、日記などに記録があることによって思い出せることの解像度がめちゃくちゃ上がることを体感として知っているからです。わたしが一番読書量が多かったのは大学生の時ですが、読んだ本の感想を新潮社の「マイブック」という文庫サイズのノートに書き留めていて、それは後で読み返すと結構楽しかったり忘れていることの多さに驚いたりする、自分にしか価値が分からないけれど貴重なものです。
書くことは好きだし、記録が大事なのはこんな感じで十分承知しているのだけど、いかんせん書く日記止めてるし、習慣化してないよなあと思いこの本を手に取りました。大きくは、「書きたい、でもどうやれば?」という人の背中を押す本です。ライティングの技術についての章もあるけれど、まず悩む前に書き始めること、特別なことじゃなくてもいいこと、個人の感想は他人にとっては特別な情報になり得るから、上手な文章でなくてもいいこと、定型で終わらせる必要はないこと、など、書くことをとっつきやすくするための言葉が溢れています。自分が習慣化して書くことが、読み手の習慣になればいい、というのも面白いと思いました。ライターさんとかだと、人の生活習慣に自分の書いたものを良んでもらう機会が組み込まれることはダイレクトに仕事に影響しそうなので、それは確かにいいと思う、うん。
わたしは「書く」ことへの抵抗はないながらも、日常ツイートとかは所謂タイムライン汚しになるから不要だと思い封じ込んで来たので、それはもう少し解放してもいいのかな、という気持ちになりました。ただ書く内容についてはもちろん配慮が必要で「その人を目の前にして同じことが言えるか」「人の人格を否定していないか」には気をつける、と。うー、家族への不満とかだとそこは疎かにしそうだ………。
巻末に「書く習慣一ヶ月チャレンジ」として書きやすいテーマを30個集めた見開きがあって、これは有効だと思います。何か書きたい人はこのテーマに沿って書いてみるといいと思います。全体的に読みやすく、「書きたい」人の背中を押してくれる本でした。
JUGEMテーマ:新書
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・「『ぴえん』という病」佐々木チワワ/扶桑社新書
この記事、個人的な感情を主に書くので感想と言うより自分語りです。最初に謝っておきます、すみません。
わたしは好きなものにのめり込みやすいオタク気質なのは自覚しているのですが、この本を先に読んだ配偶者が「妻や娘が持っているオタク病理と同じものを感じる」と言っており、聞き捨てならぬと概要を聞いたら「その人々はわたしと違う。わたしは同じ行動は取らない」と思ったので確認のため読みました。読了後やはりこの本に出て来る、所謂「トー横キッズ」とわたしや娘は違うと思いましたが、それを説明しても配偶者は納得してくれずモヤモヤが溜まる状態であります。
「トー横キッズ」とは、歌舞伎町のTO-HOシネマ横にたむろする若年層を指す言葉で、売春してホスト等に貢ぎ、額でマウントを取り合い、周りの興味を引くためリストカットしたり、稼げなくなると自分を見限るような、承認欲求が高く自己肯定感が低い若者のことです。まとめ方が雑ですみません。「ぴえん」は、悲しい時にも嬉しい時にも文脈によってどんな風にも使える(しかしそれを使用する世代間では感情が共有出来ている)という便利な言葉だそうで、中年から見ると「ヤバい」と同じだけど、それのもう少し叙情的な感じかと理解しています。
ホストの章を読んでいて、「数百万円貢がないと推しの特別になれないと分かった時点でゲームから降りられるかどうか」がトー横キッズ的存在になるかどうかの境目だと思いました。要は稼ぐために自分がやりたくないことをやれるかどうかということで、自己肯定感が高いかどうかが肝要かと。自己肯定感が高ければ、承認欲求もそれほど高くならないのではないかと思ってるのですが、のめり込んだらそれどころじゃなくなるのだろうか……。
事情は人それぞれなので、トー横キッズ的な考え方や行動に至らないため周囲の人や社会は何が出来るか、というところまでは踏み込まれていないのですが、子どもたちのSNSでのやり取りを把握しきれない以上やれることは限られていると感じました。無力感。既に「推しに貢ぐことが至上の喜び」という思考回路になっちゃっている場合は、その行動を咎められたり止められたりすると不幸だと思っちゃうから、いち母親としては子どもとよく話して意思を尊重する環境を作るしかないよなー。社会構造を変えるのはどうすればいいか分からない。買春する方のモラルが低いのは言うまでもないが、日本はほら、アレだからなあ……(考えるのをやめた)。
考え方や育ってきた文化が違うとは言え、自分の子どもはその世代として育つので、なんだろう、なんと言えば良いか分からんのですが、歌舞伎町界隈を「自分とは違う世界」と切り捨てて理解しようとしないのではなく、どうしてそういう考え方になるのかを考えることはやめてはいけないと思いました。
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・「くすぶり中年の逆襲」錦鯉/新潮社
奇しくも今日はM-1の決勝戦の日です。2021年のM-1、わたしは錦鯉を応援しています。推しが準決勝で敗退したもんでな! 因みに敗者復活戦で応援しているのはさや香とダイタクです。別に誰も聞いてねえけどな。
遅咲き漫才師、錦鯉の自叙伝ですが、漫才風の対談形式で進むしボケが織り交ぜられてて面白くて一晩で読み切ってしまいました。ボケの長谷川さんの半生が割と壮絶というかまあ色々困難に見舞われた感あるんですが、その悲壮感があまり感じられないくらいトントントーンと話が進む感じ。お笑い芸人を推し始めてから色々と苦労話を読んだり聞いたりするようになったのですが、ほんと芸人として生きるって大変だなあと思いました。錦鯉は面白くて世に出ることが出来たけれど、他にもくすぶっている芸人さんは沢山いるだろうし、芸人を貫くって大変だなあと、全芸人を推す立場で物事を見るようになり……(どんな視点や)。
あと、ツッコミでネタ担当の隆さんは比較的落ち着いているのだけど、それであのバランスの良いネタを作り、ソニーの芸人たちのブレーンとなっているのが何故かというのはあまり分からなかったです。どこからなんだろあの切れ味、不思議。
と言うことで頑張れ錦鯉!
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•「しくじりから学ぶ13歳からのスマホルール」島袋コウ(モバイルプリンス)/旬報社
今年進学を機に我が子にスマホを与えたのですが、子どもがスマホ持った途端にLINEのプロフィールで自分の性別と年齢を明かしてるわ、ファンコミュで見ず知らずの人(多分)と友だちになってるわ、タイムラインで歌ってみた動画を上げようとしてるわ、同級生グループラインで軽いいじめが発生して担任から電話掛かってくるわ等々、入手一ヶ月で立て続けに「やったら危険なこと」の地雷を満遍なく踏み抜くということをしでかしましてスマホを取り上げました。ほんで子どももしばらくは大人しくしていたのですが、ある時気付いたら家の固定電話の番号が別のLINEアカウントに紐づけられており、その人のタイムラインに書かれている内容がどう見ても子どものもの。「裏アカ作った?」と問い詰めると「違う、知らない」と言う様が真剣そのものなので嘘はついていないだろうと考えて放置しつつアカウントの動向を夫婦二人無言で見守っておりましたが、書かれる内容と生活の様子がリンクしているのでどう考えても子どもの裏アカであろうという結論に。タブレットを取り上げて裏取りをしてから再度問い質すと、自分の裏アカであることを認めました。スマホ与えてから僅か一ヶ月半、学校でネットリテラシーの授業を受けていてもなんも分かっていないと分かり、夫婦で相当がっかりしました。いや、実際のところはネットリテラシーのことよりも、真剣に身の上を心配している親に平気な顔であっさりと嘘をつくということが最も衝撃でした。以降、子どもの言うことが嘘でないか全ての発言において疑うようになったので、やはり信頼関係って大切だよなあと思うこと頻りです。
ということでこの本です。中高生が出会う可能性の高いネットトラブルが分かりやすい実例と予防法と共にまとめられています。ネット情報の引用や無断転載とまとめサイトの問題点、確証バイアス、SNSでの炎上各種(ネットリンチ、バカッター、トーンポリシングの問題点)、ネットの知り合いと会うリスク、リベンジポルノ、アフィリエイト収入、アプリゲームの中毒性などなどなど。子どもたちに「これ課題図書。読んでね」と渡しつつ、自分も改めてこういった出来事の問題点をおさらいして、子どもに尋ねられたときに正しく答えられるようにしようと思いました。
JUGEMテーマ:新書
]]>●本日の読書
•「春になったら苺を摘みに」梨木香歩/新潮文庫
著者がイギリスで暮らしていたときの下宿の女主人、ウェスト夫人と彼女の周りに現れる多種多様な国の人々との交友エッセイ。ウェスト夫人は結婚によってイギリスで暮らすようになったアメリカ人であり、著者も日本からイギリスに渡っているということで、生まれた国を離れて異国で暮らすことで見聞きしたエピソードが綴られています。ウェスト夫人は困っている人を放っておけず、普通のルートで住むところを見つけられなかった人々を積極的に下宿させ、独特のコミュニティーを形成しています。色々な背景を持つ人々が集まれば、どうしても差別や宗教の違い、戦争体験など避けようのない話題になることがあります。著者はあるときは差別による不自由を感じ、ある時は自由で気さくな人々のコミュニティーで得難い体験をしたりするのですが、それが美しい情景描写と瑞々しいことばで静かに紡がれていきます。
ベースにはお節介で愛情深いウェスト夫人と、彼女の周りに集まる、イギリスにおけるマイノリティの人々との触れ合いが本書の醍醐味なのですが、個人的に最も印象に残ったのは「夜行列車」の章です。日本の友人たちとプリンスエドワード島へ行く列車の中で、著者は予約したボックスと異なる居住性の悪い車両に案内されます。予約券を見せて主張しても車掌に取り合ってもらえず、そこに僅かな偏見を感じ取った著者は、問題が解決した後に車掌にある言葉を伝えます。著者は車掌を完全に否定することはなく仕事人としての良い面を見て取りながら、それでも己の持つ権利を正しく受けるために「正しい言葉」で気持ちを伝える、その流れがとても良いなあと思いました。
わたしは生まれ故郷の日本以外の国で暮らしたことはないのでこの国で暮らしている限りはまあまあマジョリティとして生きていけます。でも海外、ことに欧米で暮らすと日本人はマイノリティーとなるのでそれによってどう扱われるかと言うことに驚くとは聞きますが、このエッセイを読んで自分のバックグラウンドを大切にしつつ相手の立場に想像力を働かせてしなやかに生きる姿に心が洗われました。想像力を働かせる、相手の立場を思いやる、って言うのは簡単だけど実際にそのように行動するのはとても大変なことだと思います。
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「東大の先生!文系の私に超わかりやすく数学を教えて下さい!」西成活裕 聞き手 郷和貴/かんき出版
目茶苦茶に分かりやすかった。途中で数式に脱落せず、書いてある内容をメモ用紙で計算しながら頑張って一冊読み通した。その結果、解の公式使わなくても中学の二次方程式が解けるようになった。いや、遅いとか言うなよ。
ええと、わたしは一応工学部大学院卒ではあるのですが、手に職をつけるために理系・工学部に進んだもののテストで点数が取れるのは国語と日本史という文系科目が得意な人間です。ほんで高校が県内随一の進学校であったため、息をするように理系科目を解く人に囲まれる環境におって二年の間にものすごい劣等感を醸造しそれを熟成というか腐敗させ、今でも数学と理科には異常なコンプレックスを抱いています。だって分からんもん。高校の理系科目もそうだけど、大学の数学なんて一体なにをやってたのか今でも全然分からんもん。てことでこの本のタイトルには惹かれるでしょ。で、著者が「渋滞学」で有名な西成教授でしょ。読むでしょ。渋滞学の本も大分前に読んでいるのですが、興味深い上に分かりやすかったですよ。
内容は、中学校の数学を「代数(数/式)」「解析(グラフ)」「幾何(図形)」の三分野に分けて、それぞれの分野に攻略すべきラスボスを設定し、それのみ解説するという内容です。代数のラスボスは二次方程式、解析のラスボスは二次関数、幾何のラスボスはピタゴラスの定理です。わたしが一番感動したのは、二次方程式の「平方完成」です。平方完成って中学で習った? わたし中学までは勉強出来たんだけど、平方完成習った記憶が皆目ないんですよ。大体は因数分解で解けるような問題ばっかだったから、例外のものだけ解の公式で解いてて平方完成を知らなかった。これを知っていたら解の公式がいらないし(というか自力で導き出せるようになるし)、きちんと知っておきたかったー。読んで良かったー。平方完成知らない人はググってね。
二次関数とピタゴラスの定理は大体理解しているので復習くらいで済みましたが、おまけとして最後の章で高校数学の範囲である微分・積分をやってくれてるんですね。わたしは微積の概念は理解してても数式の計算が出来ないので、ここの章も良かったです。計算方法は後でどうにでもなるし(ならん)。とにかく、数学の入り口でつまづいた人にはお勧めです。
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・「奇譚ルーム」はやみねかおる/朝日新聞出版
はやみねかおるにハズレなし(ってわたしが勝手に言ってる)。中学生の子どもが「これ面白かったよ!」と勧めてくれたので読みました。広義の密室ものミステリーです。
ミステリ好きの主人公はある日、自室の壁に貼られている「奇譚ルーム」への招待パスコードを見つけます。インターネット上の仮想空間「ルーム」にログインした主人公は、同じように誰とも知らぬ者から招待された9人のメンバーと会います。といっても仮想空間なのでそれぞれの招待客は自分で選んだ動物のアバターを纏い、職業と思しきハンドルネームを名乗っています。ゾウの「先生」、ウサギの「アイドル」、くまの「探偵」など……。この奇譚ルームとは何なのか誰が招待したのかなど、集まったメンバーが話し合っていると全部で10人しか入れない「ルーム」に、システム上不可能な筈の11人目の声が響きます。曰く、一人一つの奇譚を話し、それが面白くなければ話者を殺す、というもの。何たる理不尽。抗議した「少年」のアバターは即座にルームから消え、次の日の新聞に高校生の事故記事が掲載されます。奇譚の話者はルーレットによって決められ、次回のルーム開室日に合わせて奇譚を持ってこなくてはならないというルールのもと、一方的な奇譚会は続いていきます。
この小説はインターネット上の仮想空間「ルーム」が舞台のため全編横書きです。それぞれのアバターの会話、そしてそれぞれが持ち寄った奇譚が挟まれていく進行です。謎の殺人者から「面白くない」と言われ、一人ずつ消されていくアバターたち。登録人数を上回る人数はログイン出来ないシステム上の決まりがあるため、殺人者は生き残っている誰かの中にいるという緊張感。犯人探しと、残されたメンバーの頭脳戦が繰り広げられます。
いやー犯人こう来るかー、なるほどねー、というぼかし方でこの記事を終えます。面白かったです。
JUGEMテーマ:小説全般
]]>●本日の読書
・「むらさきのスカートの女」今村夏子/朝日新聞出版
第161回芥川賞受賞作。わたしの手元の本の帯は「芥川賞候補作」になっており、今となっては珍しいのではないでしょうか。主人公の女性は自分の近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる得体の知れない女に偏執的な興味を持っており、むらさきのスカートの女を日々観察し、ストーキングしています。むらさきのスカートの女はほとんど無職でたまに期間工として働き、現れる時は決まって商店街のパン屋でクリームパンを買って公園のベンチの決まった場所に座ってそれを食べます。近所の子どもたちの間で流行している遊びはクリームパンを食べているむらさきのスカートの女にタッチして戻るというもので、まあなんかそこまでは誰しもの小学校時代によくあった光景ではないかと思うのですが、それを毎日じっくりと観察して記録を取る主人公の女性のような存在はなかったのではないかと思います。と云うかどう考えてもむらさきのスカートの女よりも主人公の女の方が危ない。
主人公の女の存在がバレないかという興味や、むらさきのスカートの女の挙動などを読者に「観察」させて、物語は読者を引き込んでいきます。むらさきのスカートの女をもっと近くで観察したいという欲望で、主人公はむらさきのスカートの女を自分と同じ職場に働くよう、ベンチにバイト情報誌を置いて誘導しようとします。キモい。
むらさきのスカートの女は結果的に主人公と同じ職場で働き始めて、そしてそこからの物語の方が長いし面白いのだけど、何というかこの先の説明や感想を書くのがなんかもったいないと言うか、敢えて書きたくないなあと思います。最初はおかしな人として描かれるむらさきのスカートの女よりも、どう考えても主人公の女の方がおかしいし、その主人公が求め、望んでいることは果たして何なのかというのは読んでみないと分からないし、だから色んな人に読んで感じて欲しいと思います。
多少「仕掛け」的なところはあるのですが別に隠すほどの書き方もしてないし、ただただ物語がどこに帰結するのかというのを、むらさきのスカートの女と主人公の女の後ろで読者たちがこっそり観察している気持ちになります。
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]]>・「何とかならない時代の幸福論」ブレイディみかこ・鴻上尚史/朝日新聞出版
鴻上尚史の人生相談が結構好きです。書いてあることが真っ当であると思うからです。相談者に「頑張れ」などの無責任で無茶なことは言わないし、相談者の立場に寄り添ったアドバイスが書いてあるからです。この「相手の立場に立つ」というのは「エンパシー」と表現するのだとこの本を読んで知りました。日本語だと似て微妙に非なる「シンパシー」の方しか知らん人も多そうです(わたしがそう)。
わたしは四十歳過ぎても社会情勢や経済政策について知識がなく、その自覚はあるのに情報を取ろうとしないので、本書のような、自分が「この人の考え方好きだな」と思う人が眺めた日本やイギリスの政治経済についての情報の本はとてもためになります。読んだら頭が良くなったような気がする(という表現が頭悪い)。まあ所謂「政治経済解説本」ではなく、日本とイギリスそれぞれの現況の分析とそれぞれの問題点、社会構造と政治の違いなどを対談しながら明らかにしていきます。日本は二十年間、物価も大して上がっていない代わりに賃金も上がっていない。変わることを恐れる国民性か、為政者の戦略かは意見が分かれるところだと思いますが、ちゃんとそういうところを分かって生きていくことと、そうじゃない場合って色々差が出てくると思うのですよね、この日本は。受益者に知識がないともらい損ねるお金がある国ですからね、この日本は。
対談のブレイディみかこは「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」のヒットにより名を知られたライターさんで、イギリス在住。「ぼくはイエロー〜」は興味ありつつ未読なのでいつか読みます。ブレイディさんの立場だと、日本で自分が受けた教育とイギリスで自らの子どもが受けている教育の違いを比較出来るため、国家がどのような人を育てようとしているのかというのが分かるのですな。確かにそういう観点で教育カリキュラムを比較するというのは興味深いテーマであり、この本を読んで良かったと思う点です。かといって別の国がいいという話にせず、日本で暮らしている人は日本を良くするために何が出来るか考えていくということもまた大切。すんげえすり減るけどな。特にジェンダーバイアス系の話な!(色々あったらしい)
変えることを厭う日本においては、それこそ明らかにおかしい校則一つ変えることすら難しいのですが、この「何とかならない時代」に於いて出来ることをするのはとても大切だと思いました。
JUGEMテーマ:ビジネス書
●本日の読書
・「推し、燃ゆ」宇佐見りん/河出書房新社
2020年度下半期の芥川龍之介賞受賞作です。面白かった。タイトルがいい。中身の文章もいい。鮮烈で新鮮。
わたしの配偶者の持論に「能力値一定説」というのがあって、これは人間の持つ能力パラメータの合計値は大体同じで、ある一定の能力に極端に秀でている場合それ以外の項目がマイナスになるという、まあ思いっきり雑な説です。例えばパラメータ図が円に近い形でバランスが取れている人は何でもそこそこ器用にこなすけど、将棋が異常に強い人は全パラメータを将棋に極振りしているため日常生活をこなすのが下手くそ、みたいな感じ(参考;漫画「将棋の渡辺くん」)。その説に対してわたしは「概ね同意はするけれど、稀に合計能力値の高い万能の天才は存在する」説を支持しています。
で、なんでこんな話を書いたかと云うと、この「推し、燃ゆ」の主人公、高校生のあかりは、能力パラメータを「推しを推す」ことに異常なまでに振っていて、それ以外の項目がマイナスになっている人物だからです。
推しているアイドル上野真幸(うえのまさき)については、ノート数十冊を超える推しの記事やトークの記録から推しの大体の応答を予測出来たり、個人ブログで深い洞察に基づく丁寧な分析と文章力のレポートが真幸ガチ勢として多くの同好の士の支持を得ているのですが、ライブとグッズ代を捻出するためのバイトでは何度注意されても仕事がまともにこなせず店主夫人から「使えない子」と思われています。学校でも提出物忘れや借りたものを返し忘れるのは常態化しており授業についていけていません。推しを読み解くことに全生命を賭け、推しの存在が生きる背骨となっている、そんな無防備で危うい生き方のあかりの身の上にある日「推しがファンを殴って炎上」の報が入ります。
推しを推すことが生き甲斐で、それ以外は「人に迷惑が掛かる」レベルの生き方しか出来ない主人公は、どんな状況でも推しを解釈し続けることで息を継いでいます。それ以外致命的に何も出来ないどん詰まり感や世間からのズレ、苦悩、生きづらさ、家族との確執を作者は畳み掛けるような瑞々しい表現で描きます。あかりのやっているのは同じことの繰り返しなのに、表現が重なっていなくて、推しを解釈し続けるあかりの生活をありとあらゆる表現で多角的に描いているのがすごい。推しが炎上してどうなっていくかということも気になりはするのですが、このあかりの「推しを解釈し続けることでしか生きられない」宿命がどうなっていくのかが非常に読ませます。すごく面白かったです。
JUGEMテーマ:小説全般
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●本日の読書
・「自分で考え、自分で書くための ゆかいな文章教室」今野真二/河出書房新社
河出書房新社の「14歳の世渡り術シリーズ」の中の一冊で、つまりは中学生向けの教養書なのですが、とても分かりやすく、大人含めてもっと読まれるべき書だと思いました。4章立てになっています。
第一章「読みながら考えてみよう」では言葉の倍率(指しているものの詳細さ)や説明文と描写の文の違い、文から受ける印象の違いなどについてで、この章だけでも何度も目から鱗が落ちる思いをしました。特に言葉の倍率のところでは、鳥という大きな括りと白鳥や雀などの小さな括りの違いを、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を引いて解説してあるのですが、文中に「きのことたけのこでは倍率が違っていて、きのこは椎茸やしめじ、なめこなどがあるが、たけのこは真竹のたけのこ、という言い方はしないので、この二つは言葉の倍率が異なる」旨の説明があって、きのこたけのこ戦争をしている皆さんに読んで欲しいな、と(趣旨が違う)。
第二章の「書きながら考えよう」では、表現から話し手が誰か(またはどういうケースで使用される文体か)、話し手を変えるとどういう文章になるかなどの視点についての解説、小論文における視点の解像度であるとか、個人的にはこの章がもっともためになりました。
第三章「考えながら書こう」は文章作法を離れ、今後この世界を生き抜くための「論理的な文章」や情報を疑うことについての話や、雰囲気だけで書かれた文の危うさなどについての例示があり、第四章「自分で考え、自分で書こう」は三章を引き継ぎ、事実文と好き嫌い文(書き手が共感を求める文/読み手に判断の余地がある文)や、比喩の文などを示して、文の表現の豊かさや表題、タイトルの話などに論を導きます。
わたしがこの本を良いと思うのは、著者が読み手に寄り添って「文章は面白いよ」「表現には色々なものがあるよ」「こういうところに気をつけてね」「この文、どう思う?」と絶えず投げかけ、考えることを促す姿勢です。とても親身になって表現の面白さを教えてくれている感じがします。そして例示される文章が(わたしの主観ですが)各国の名作で偏りがなく、どれも美しく面白いのです。とてもいい本です。著者の他の本も読みたいです。
JUGEMテーマ:新書
]]>●本日の読書
・「砕け散るところを見せてあげる」竹宮ゆゆこ/新潮文庫
「とらドラ!」の人か。タイトルが興味を惹くのと、表紙の印象的なイラストで読んでみました。
ミステリ好きの人にこういう書き方すると怒られるのですが、叙述トリックものです。と言っても事件の内容に叙述部分が掛かってくる訳ではないので、この書き方も許して欲しい。
高校三年生の濱田清澄はひょんなことで一学年下の女生徒、倉本玻璃が学年全体からのいじめの対象になっているのを目撃します。無視されたり靴を投げつけられたりしているにも関わらず玻璃は全く反撃せず、なされるがままに攻撃を受けています。清澄はいじめを止めるため周りの生徒を制止しますが、守ってもらった筈の玻璃はその助けを拒否して奇声を上げます。大学受験直前にも関わらず、頑張って毎日いじめ防止の監視のため玻璃の教室に張り込む清澄。頑なな玻璃の態度の理由は……。
と、まあ所謂ラノベなので読む前はテンションとか文のノリが自分に合うか心配だったのですが、結構読みやすくてテンションも合ってて面白くてツルツルと読み終えました。段々と清澄に心を開いていく玻璃、それに伴って玻璃の背後には探られたくないことがある模様。どうもそれは彼女の家族、ことに父親に対する玻璃の態度は少し異常で……。清澄と玻璃の心の距離が近付くに連れて、ストーリーの緊迫感もどんどん上がっていって、一日で読み終えました。読後感も少し切なくて、良かったです。
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