書評・三八堂

のんびり不定期に読んだ本の感想を書いていきます

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「親愛なる」いとうせいこう
●本日の読書
・「親愛なる」いとうせいこう/BCCKS オンデマンド


 現在入手出来ない本(入手困難、ではなく、出来ない)について感想文を書くのは気が引けるのですが、今後こう云う取り組みで少部数出版される本も増えて行ったりするのかなあと云う予想と、もっと増えたらいいのになあと云う希望を込めて紹介します。パーソナライズ小説と銘打った、注文者個人に合わせて一冊一冊異なった世界に一つだけの本です。申込受付期間が 2014/6/16〜2014/8/31 までで現在入手出来ないのですが、面白かったです。試みも、小説の中身も。本書の特設サイトはこちら



「長いメイル、確かにいただきました」。物語はいとうせいこうからのメールから始まります。メールの宛先はわたし。そう、わたしのリアルメールアドレスが文中に記載されており、その出した覚えのないメールに対する著者からの返信が物語の幕開けです。仕組みとしては本書注文の際のメールアドレスや差出人部分を引数にしてそれを本文に反映させればこう云う小説を作ることが出来るのは勿論分かっているのですが、今まさに手にしている活字の本に自分の個人情報がひょっこり顔を出す、と云うのはなかなか得難い経験ですよ。分かっていてもドキッとします。特にわたし本名が珍しい苗字なので、どんな小説でも絶対に自分と同じ名字の登場人物出て来ませんから余計に。

 わたしが出したメールに対し、いとうせいこうは「間違いですよ」と云う返信をしますが、それに対するわたし(物語内)の返信がまたおかしなことになり、いとう氏もこの状況に対処しきれなくなって来ます。そして新たな「小説」が幕を開けるのですが、本書が「パーソナライズ小説」で、他の人宛に届いた本がどのような展開になっているのか全く分かりませんので、どの程度内容に触れていいのか分かりません。ネタバレになったら申し訳ありませんが、わたしの手元にある「親愛なる」は、映画「シックスストリングサムライ」と云う大好きな作品に似た雰囲気の、サイバーパンク SF でした。装画は寺田克也氏です(個人的に「寺田さん挿画の本だったらいいなあ」と思っていたので大当たり)。

 段々と自分が物語の中に取り込まれて融合していく感じ、どこからどこまでが現実なのか、境界のあわいを味わえました。

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| 国内あ行(その他) | 15:25 | comments(0) | trackbacks(0) |
「華竜の宮(下)」上田早夕里
●本日の読書
・「華竜の宮(下)」上田早夕里/ハヤカワ文庫JA


 読んだよ! 読み切ったよ! 良かったよ! 久し振りに重厚な SF を読み切って満足です。上巻の感想はこちら

 海面上昇に依って極端に陸地が減った 25 世紀の地球では、今まで通り陸上で暮らす陸上人と海上で暮らすために進化した海上人、そして彼らの住居である魚類・魚舟、そしてその変異体の獣舟がそれぞれの領域で平衡を保って暮らしています。主人公で外務省に務める青澄は陸上人と海上人のトラブルを解決するのを主な仕事としていますが、この青澄の清廉潔白で真っ直ぐでホスピタリティー溢れる人格が素晴らしすぎて隣に居たら絶対自分が恥ずかしくなる完璧さが辛いです(だから逆にフィクションだなーと云う感じはしますが)。青澄はトラブルを円満に解決しつつ上に疎まれ出世しないので世界を転々と異動しているのですが、故に知る人ぞ知る敏腕外交官として名を上げて行きます。そしてこの物語は青澄の出世譚では全くなく、そんな彼が仕事の一環で接触した海上民のオサ、ツキソメを起点にして今後地球に起こる大災害を知り、それに向けて全力で対応するアクション交渉譚です。変な説明。

 舞台となっている世界はテクノロジーが物凄く発達しており、陸上人は自分と脳内回線が繋がっている「アシスタント知性体」と云う電脳人格を保有しています。アシスタント知性体は人間の体験をバックアップとして記録したり、必要な情報を検索して提示したり、脳内物質の制御により感情のブレを抑制したりします。時に応じてはボディをまとい、人間の姿で一緒に行動することもあります。物語の語り手は青澄のアシスタント知性体であるマキです。青澄と一部融合しているものの別人格である彼を語り手に据えることで青澄の行動や考えを客観的に描くことが出来、且つマキとして現場に居合わせることでストーリーに臨場感が備わるので、とてもいい設定だと思いました。

 近い未来に地球を襲う大災害に対しツキソメが非常に重要なキーパーソンであることが分かり、各国が彼女を独占して生き延びようと世界規模の争奪戦が始まります。青澄は全人類の公平な利益享受を目指して上司や同僚の協力のもと奮闘します。物語の核心に絡むのでこう云う漠然とした書き方しか出来ませんが、ツキソメの生い立ちに隠された秘密や、それを解くためにアシスタント知性体マキが活躍するシーン、世界の各共同体の暗躍と非人道的な施策など読みどころが多すぎて上手くまとめられません。

 結末はしっとりとほの寂しい感じで、そこまでの短期間の濃密なやり取りに対していささか性急な幕引きであるように感じましたが、この物語は「オーシャン・クロニクル第一部」と云うことで続編やその他の短編で補完されて行くことを期待しています。青澄が出来すぎた人格で眩しくて仕様がなかったです。こんな風に生きていると疲れるだろうなあ(そんな感想か)。

 余談ですがこの本も電子書籍で読みました。暫くのあいだ長編を読む気力が沸かなくて(厚さに圧倒される)長い話を読めなかったのですが、電子書籍だと物理的な重さがなかったので良かったの半分、残りページを物理量で感じて結末の想像をしたりする楽しみがなかった残念さが半分、と云うところですね。続きの「リリエンタールの末裔」も買ってあるんだー。

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| 国内あ行(その他) | 10:44 | comments(0) | trackbacks(0) |
「華竜の宮(上)」上田早夕里
評価:
上田 早夕里
早川書房
コメント:オーシャン・クロニクル第一部

●本日の読書
・「華竜の宮(上)」上田早夕里/ハヤカワ文庫JA

 分冊の本は本来通読してから感想書くべきなんですが、世界観が壮大であまりに面白かったのと、上巻だけでも相当長いことの合わせ技で一冊だけで感想書きます。まだ物語はクライマックス前です。壮大なる未来 SF の魅力を是非に伝えたいです。

 著者が「火星ダーク・バラード」で小松左京賞を受賞した時から気になっておりましたが、読むのはこれが初めてです。この「華竜の宮」は「オーシャン・クロニクル第一部」と銘打つだけあって、遥か未来の地球人の生態をオリジナルで予想もつかない方向へ進化させた世界における物語で、まずはその生態だけでも馴染めないのにそこに闘争と共生を絡ませたストーリー展開が大変魅力的な SF です。

「リ・クリティシャス」と呼ばれる大規模地殻変動で陸地の大部分が海中に沈み全地球人口が二千人まで激減した後の人類は、従来の陸上人と、科学の粋を凝らした遺伝子操作によって海上で生活することが出来るようになった海上人に分化しています。海上人は「魚舟(うおふね)」と呼ばれる巨大な魚の一部を内部に削って居住区として整備し、魚の内部で暮らしています。

 どうよ、この設定だけで相当ぶっ飛んでいますよ。

 しかもこの魚舟、適当な魚を捕まえて家にしているのではなく、海上人は必ず双子を出産し、一人は海上人として生まれ一人は魚舟として生まれます。人間が魚を生むんです。どんだけ妙な方向に進化しているのかと思いますが、このあり得なさもリ・クリティシャス以降の丹念な世界の動きの描写を挟むことによって妙にリアルに感じられるようになっており、自然に物語は世界へ入りこんで行けます。併読している「ダーコーヴァ年代記」よりもよっぽど異世界の話を読んでいる感じです。

 陸上人で海洋公官に勤務する青澄は陸上人と海上人の間に起きる紛争を解決するのが主な役目の公務員です。彼は非常に真摯な人柄で過去に数多くのトラブルを誠意を持って解決しています。知る人ぞ知る彼の働きに、海上人の巨大コミュニティの女性オサ、ツキソメが接触を試みます。遺伝子操作によって変容した地球生態系では多くの奇病が発生しており海上人は常にその危険に晒されているのですが、海上人は国に属すると納税の義務が生じるために国籍を持たない(タグなし)ままでいることも多く、それは奇病のワクチン接種が出来ないことに繋がっています。日本国はツキソメの集団を日本に所属させて税収を上げようと試みますが、ツキソメは海上人と陸上人の両方が利用できる海上コミュニティを建設しその収益を日本国に収めることでタグなしのままの生活を送ることを要望します。

 上巻は主に青澄とツキソメの来歴を挟みつつ、交渉ごとを多く描いています。テクノロジーの発達した陸上での生活と、原始的ではありつつそのままを受け入れる海上人の生活の双方に魅力があり、また青澄とツキソメのキャラクターとしての魅力が高く、彼らの交渉が海陸両方を幸せに出来るよう祈ってしまいます。

 しかし、地球環境を激変させたリ・クリティシャスはまだ変動の序章でしかなかったのです。人類には更なる試練が待ち受けています。下巻に続く!


JUGEMテーマ:小説全般
| 国内あ行(その他) | 15:34 | comments(0) | trackbacks(0) |
「生存者ゼロ」安生正
●本日の読書
・「生存者ゼロ」安生正/宝島社文庫


 流石「このミステリーがすごい!」第 11 回大賞受賞作、骨太エンターテイメント小説です。面白かったです。少々エグく暗い話を、新人とは思えない上手さで読ませます。

 ある時、北海道の海洋上に建つ石油掘削プラントが何の予兆もなく連絡を途絶えさせます。たまたま近くを巡洋していた自衛隊の廻田三等陸佐は指令を受け、他の隊員と共に調査のためプラントに降り立ちます。事故か、テロか、それ以外の非常事態か? 全身を緊張に包んでプラント内を慎重に進む彼らが目にしたのは、全ての職員が無惨な姿で死に絶えた、生存者ゼロの居住地区。どの遺体も全身血塗れで生前の顔も分からないほどの損傷を受けているグロテスクで異様な現場に、隊員たちは大きなショックを受けます。現場の状況から隊員たちは、新種の強力な病原体による感染爆発=パンデミックを疑い、撤退します。帰還した廻田たちは発症の恐怖を抱えたまま、情報も満足に与えられないで隔離されます。

 この大量死が海洋上のプラントで起こったため、数ヶ月経っても北海道本土には病気が上陸する気配がなかったため、感染学の研究所の中途半端な報告書を元として政府は事件は終息したと処理します。ただ一人、この病態の謎の鍵を握る人物を放逐までして……。

 このパンデミック解決の唯一のキーパーソンは、研究所を放逐された富樫研究員ですが、彼は事件の二年前、アフリカ奥地でウイルスの研究に没頭の果てに同業の妻を亡くしています。彼が廻田三佐と共に真実の追求に当たるのですが、こう書くと「流行りのバディものか」と思われるかも知れませんがそうではありません。正反対の二人がやむなく一緒に行動すると云うのは確かにその通りですが、むしろ富樫の体調と性格に起因して、本作はバディものではなく「羊たちの沈黙」に近いスタイルです。富樫の扱い、緊張感いっぱい。

 新たなウイルスによる感染にしては、余りに症状の進行が早く、劇的です。しかも普通は、一人が発症しても次の人に感染するまである程度時間が掛かるのに、ほぼ瞬時に多数の人が同じ劇症で死に絶えたようです。原因も分からないまま政府がプラントでの事件を放置していると、ある晩なんと北海道本土の標津町の連絡が途絶えます。そう、あの洋上プラントと同じように……。またもや出動した廻田は、あの晩と同じような惨殺死体で町中が埋め尽くされているのを見ます。一夜にして北海道の東側の都市が死で埋め尽くされ、その数なんと八万人。一体原因は何なのか、どうすればこの謎の死を止められるのか、感染は札幌に迫ります。問題の解決を命じられた廻田は奮闘しますが、果たして死なずに任務を遂行し、感染の本州上陸を止められるのでしょうか。

 前半は謎の病気の原因を探るミステリ展開ですが、原因が分かりかけてきた中盤からは一気に命のタイムリミット迫るパニック小説となります。話の流れ上、市井の人がゴミのように死んでいきますが、映画化したら映えるだろうなあと思います(エグいの嫌いなので見たくないけど)。因みに文庫本の帯で映画化を望んでいるのは「水曜どうでしょう」演出・出演のミスター鈴井貴之さんですが、これは北海道繋がりだと思います。

 原因の設定も(そう都合よく変異するかなとは思いつつも)絶妙ですし、解決法も(そう上手くいくかなとは思いつつも)あり得なくはないいい落としどころです。ラスト間際では「えっ、そんなのんびりしてていいの? 逃げろよ!」ってなシーンも見られましたが、全体としてとてもよくまとまっているエンターテイメント小説でした。
| 国内あ行(その他) | 16:30 | comments(0) | trackbacks(0) |
「高校生の勉強法」池谷裕二
●本日の読書
・「最新脳科学が教える高校生の勉強法」池谷裕二/東進ブックス


 著者が池谷さんなので読みました。出版社が東進、タイトルが高校生の勉強についてなので高校生、中でも受験生向けの内容です。座学で一方的に勉強を教わる立場にある人々(畢竟、学生ね)が脳の仕組みを知って効率よく勉強しようというコンセプトの本です。今後の自分、および自分の子らに役立てるために以下覚書。

(1) 海馬の性質を考慮した、効果的な復習法
・学習した翌日に一回目
・その一週間後に二回目
・二回目の復習から二週間後に三回目
・三回目の復習から一ヵ月後に四回目
海馬は忘れる器官なので、何度も刷り込んで「これは忘れたら命に関わる情報なのだ」と勘違いさせて覚えるべき。つってもそれこそ受験生だと覚えることは山ほどあるので、全てについて上記のように復習できるかと云うとちょっと難しそうだなと云うのは個人的な意見。

(2) 方法記憶の活用
 記憶には「経験記憶」(自分が体験したことについての記憶。思い出)と「知識記憶」(きっかけがないと思い出せない情報。例えば円周率は 3.14、など)、「方法記憶」(身体で覚える記憶)の三種類があるが、方法記憶を活用することで学習効果は指数関数的に増す。
 学習における「方法記憶」は「理解の仕方」を記憶すると云うことで、例えば数学で公式を暗記する(知識記憶)のではなく、公式の導き方を記憶するやり方。テスト中にいちいち公式を導くことから始めていると効率が悪いように思われがちだが、実際は公式の成り立ちのみを覚えることで記憶すべき量が減る上に応用が利くようになる。

(3) 得意な記憶方法が年齢で変わる
 人間は小、中学生の頃は「知識記憶」が発達しており総量が多くとも丸暗記が出来るが、高校生頃から「経験記憶」が知識記憶を上回り、体験と関連付けられた記憶の残し方が得意になっていく。故に勉強の仕方を変えるべき。丸暗記から、理屈を理解する方法に変える。

 わたしは知識記憶でのみ大学までの勉強をほうほうの体で乗り切ってきたので、方法記憶と云うのが体験的に分かりにくく、高校生の頃にこれを知っていたらきっと高校一年生一学期の数学で34点(もちろん赤点)を取ることはなかったのかも知れない、またはその後挽回してもう少し楽しい高校生活を送ることが出来たかも知れないと思いました(高校生活トラウマまみれ)。今後仕事で直接的に使えるかどうかは分かりませんが、知っておいて損はないことが書かれている本でした。

※文庫化に際し「受験脳の作り方」(新潮文庫)に改題されておりますな。
| 国内あ行(その他) | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0) |
「メタルギアソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット」伊藤計劃
●本日の読書
・「メタルギアソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット」伊藤計劃/角川文庫


 有名ゲームのノベライズです。著者が伊藤計劃なので購入しました。ゲームのノベライズは人生初めて読みましたが、うん、読んで良かったです。ゲーム製作者の小島秀夫氏は「ゲーム未プレイの人でも分かり、楽しめるようなノベライズ」を伊藤氏に依頼したようですが、「虐殺器官」「メタルギアシリーズ」のどちらかに触れている人の方がより世界観を共有できると思います。両方に全く触れていない人だとすこーし状況がわかりにくいかも知れませんね。因みにわたしは、伊藤著作「虐殺器官」既読、ゲーム「メタルギアソリッド」のみプレイしています、但し難易度が高くて下手ゲーマーのわたしは未クリア。クリアしていなくても、主な登場人物は 2 の時から登場しているキャラクターが主なので、ソリッド・スネーク、オタコン、ナオミ、メリル、キャンベル等、すんごく懐かしい名前に、学生時代の腐ったゲーム生活を思い出しました。下手だから無駄に時間使っちゃうんだよね、効率悪いったらありゃしない。

 本作はシリーズ第四作の「メタルギアソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」をノベライズしたものです。伝説の傭兵、ソリッド・スネークは彼の特殊な出自の所為で通常よりも早く老化しており、実年齢を遥かに飛び越して肉体年齢は 70 代に衰えています(それだけでも未プレイのわたしに取っては結構ショック)。そんな彼が、彼を生み出し、彼が過去に戦ってきた全ての元凶である巨大組織へ最後の戦いを挑んだ軌跡が、盟友オタコンことハル・エメリッヒ博士の視点から語られています。長編小説、とにかくなっがい。長くて濃くて男くさくて燃えます。基になったゲームは、ハードの発達によりムービーが豊富でプレイヤーの想像の余地を奪うような出来の良さ(マイナス面?)だったとレビューで見ましたが、ゲーム未プレイでもシリーズ総振り返りとも言える重厚な世界と登場人物の境遇には没入して仕舞いました。

 戦争が国同士の利権の争いであることを踏み越えて、戦争を職業とする企業が林立し戦争が経済を回しているこの世界。ソリッドは老いた身体を義務感だけで動かし、元締めである隠れた巨大組織「愛国者たち」に最後の無茶な戦いを挑みます。ビッグボス、リキッド・スネーク、雷電などが彼に有形無形の影響を与え「ええっ、それ無茶でしょ、死ぬでしょ、てか死んでるよスネーク!」と云うひどい戦いの様子がこれでもかこれでもかと描かれています。スネーク、もういいよ、もう頑張らなくていいよ、とオタコンならずとも思いますし、現実的にどんなに鍛えていても 70 代の肉体にはそんな戦い無理っすよ小島さん。

 各種飛び出る戦争兵器(血中に存在して人間をコントロールするナノマシン等)やメタルギア(すんげえ威力の戦争用ロボット)は是非ビジュアルで見たいと思われますが、本書の最も優れた点は、スネークを電脳的にサポートする役目のオタコンを語り手に据えたことで、ゲーム内では描かれなかった裏の視点が加わったことです。それによって脇役の人生も立体的に立ち上がって来ます。これはスネーク視点では分からなかったことです。最終章の出来は素晴らしいと思います。そしてわたしはゲームプレイ当時からオタコンが好きでした付き合って下さい(告白)。あと、ナオミどんだけ頭いいのかと。

 ゲームなり著者なりに興味がない人にはお勧めしにくいですが、読み終えた時の満足感、寂寥感共に印象深いです。ゲーム製作者の小島さんから、夭逝した著者への言葉が泣けます。そしてわたし小島秀夫氏のゲーム「ポリス・ノーツ」やってたわ。爆弾解除がすんげえ下手くそで 30 回くらいやりなおしてやっと進めたよ。元ゲームクリア出来る気しないねえ。そもそもハード持ってないや。
| 国内あ行(その他) | 15:06 | comments(0) | trackbacks(0) |
「珈琲店タレーランの事件簿 3」岡崎琢磨
●本日の読書
・「珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは」岡崎琢磨/宝島社文庫


 はいはいタレーランの 3 巻ですよー。今回は関西バリスタコンテストで起こる混入事件についての美星バリスタの推理劇ですよー。

 今回第五回となる関西バリスタコンテスト、略称 KBC はどうやら第四回できな臭い事件が起ったらしく、一年の空白を経て開催されます。初めて最終選考に残った純喫茶タレーランの切間美星バリスタは、本番のステージ上で起こった異材料混入事件に巻き込まれます。コンテストの頂点を極めるには厳選したコーヒー豆をベストな方法・時間で焙煎して、それをベストな挽き方で破砕し、ベストな方法でドリップし審査員に供する必要があるため、ファイナリストは自分の持ちこんだ材料を鍵の掛かる部屋で保管します。希少性の高い豆で本番に臨んだあるバリスタは、ステージ上で自分の豆に欠陥豆が混入しているのを発見します。美味しいコーヒーの為には余分なものの混入など言語道断。材料を保管している部屋は一枚きりのカードキーで管理されているため、図らずも相互監視していた出場者たちはそれぞれ相手の材料に異物を混入させることなど出来ません。さてこの密室、美星バリスタはどう解くのか?

 密室ミステリとしては人も死なず簡単すぎもせず、適度な感じの出来です。ただ、実際にこのからくりを実行するには幸運にも恵まれていないといけないかなーとは思いました。結構危ない橋渡る感じの方法だったんでね。コーヒー雑学としてはドリップ以外のラテアートやコーヒーカクテルについても記述があり楽しかったですが、2 巻の方が出来は良かったかな。
| 国内あ行(その他) | 10:14 | comments(0) | trackbacks(0) |
「虐殺器官」伊藤計劃
評価:
伊藤 計劃
早川書房
コメント:読んで損なし

●本日の読書
・「虐殺器官」伊藤計劃/ハヤカワ文庫JA


「虐殺器官」な、「虐殺機関」じゃなくて。えぐい話だろうなあと云う思い込みでこんなすごい近未来ハードSFをスルーするところでしたよ。ええ傑作です。未読の方に全力お勧め。但し、わたし以上に殺害表現に敏感な方は避けて頂いた方がいいかな。

 そもそも痛いのとか子どもが死ぬ話とかが大嫌いなわたし。SF界隈でこの本の評価が非常に高いと知りながら、最初のページで子どもが虐殺されたシーンがあった為に「あ、こりゃ駄目だ」と買わずに書棚に戻したのが数年前。その後、作者が三十一歳にて夭逝したとのニュースを知り、さらにその後当該書が Kindle で 100 円セールをしていたので「いずれ読むかも」と購入。読んで良かったです。

 舞台は近未来。アメリカがテロリストによる本土攻撃に晒された 9.11 以降の世界。オルタナと名付けられた巨大データベースが全てをメモリし、地下鉄の乗車もレストランでの食事も宅配ピザの注文も至る所で認証を求められる、個人の行動が完全に管理された社会。主人公のシェパードは暗殺を主業務とする特殊部隊に所属しています。ナノレイヤーと呼ばれる背景と同じ柄を表示する薄膜に身を包み(士郎正宗「甲殻機動隊」で云うところの光学迷彩)、人工筋肉で構成された突入用の飛行物体イントルード・ポッドで敵地に乗り込み、アメリカにテロを企てる途上国の指導者を暗殺する任務を負っています。

 高確率で任務を遂行する暗殺部隊が、何度となく取り逃がす謎の男。彼が目撃された国では必ずその後大規模な内戦が発生し、悲惨な虐殺が行われます。彼は誰なのか、いや「何」なのか。シェパードは彼を追います。人間はどこまでが「生きて」いると考えられるか、自分とは何なのか、少年兵を殺し損ねないように善意と痛覚をマスキングされた状態で戦う主人公は「彼」を追う内にある秘密に近づいて行きます。

 実際の国名や企業名商品名を織り込みながら、現実世界で起こりそうな状況を未来の装置でクリアしていく主人公が、シリアスな文章で綴られておりハードボイルド恰好いいです。全てが明らかになった後で、主人公が選択する「明日」がもっと書き込まれていてもいいなあと思いましたが、単に話の面白さだけで引っ張るのではなくて、倫理観や道徳、生きることを考えさせられます。お勧め。
| 国内あ行(その他) | 18:06 | comments(0) | trackbacks(0) |
「珈琲店タレーランの事件簿 2」岡崎琢磨
●本日の読書
・「珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る」岡崎琢磨/宝島社文庫


 おお、上手くなってる。

「ビブリア堂」と並んで「ライトノベルと思われがちだけど思ったより本格的じゃね? 小説」その2、「タレーラン」の続刊です。1巻のネタばれは上手に伏せてありますが、登場人物や過去の出来事を押さえていた方が楽しめるので、順を追って読まれることをお勧めします。にしても、1巻とは隔世の感がある読み応え。謎に対するヒントは全て文中にばら撒かれているし、伏線の回収もきちんとなされている。読者のミスリードも見事で、章をまたいで発動する伏線も数か所にあり、上から目線の言葉で失礼ですがすごく上手になっていると思います。これなら続きも読みたい。

 念のため舞台のおさらいをしておきますと、場所は京都、メインストリートから離れた場所でひっそりと営業している純喫茶タレーラン。主人公アオヤマ君が理想とするめちゃくちゃ美味しいコーヒーを淹れる切間美星バリスタ24歳は、コーヒーを淹れることのみでなく謎を解くのもとっても上手。今巻では妹も登場し、日常に紛れた謎をコリコリコリと豆を挽きながら解決します。「その謎、大変良く挽けました」の決め台詞は相変わらず「フツー言わないだろ」感はありつつも、慣れてきたらあまり気にならなくなります。

 難を言えば、新しく登場した妹の美空が、清楚系の美星バリスタと対照的に活発でボーイッシュというキャラ設定の為、同様の性格設定の姉妹が登場する「ビブリア堂」にますます似通って仕舞ったことがあります。読んでる途中、頭の中で二つの話が混じっちゃいました。

 余談ですが次は「ライトノベルと思われがちだけど思ったより本格的じゃね? 小説」その3と目される「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」シリーズを読んでみようかと思っています。ちょうど今、角川書店の電子書籍が 70% OFF と云う、正気の沙汰とは思えないセールやってるし!
| 国内あ行(その他) | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0) |
「絵本処方箋」落合恵子
評価:
落合恵子
朝日新聞出版
コメント:懐かしい絵本から新しい絵本まで、子どもと大人向け

●本日の読書
・「絵本処方箋」落合恵子/朝日文庫


 絵本の店「クレヨンハウス」を主宰されている落合恵子さんの絵本レビュー集。元は新聞連載だったとのことで、一冊の紹介が長くて三ページ程度なので隙間時間にさくさく読めます。絵本と云うと子ども向けと思われそうですが、読者の対象はあくまで大人。優れた絵本は全年齢の鑑賞に堪えると云うことで「○○のときに〜」とお勧めのシチュエーションを添えて七十二冊の絵本が紹介されています。子どもの頃に読んで知っている絵本もあれば、子を成してから保育所に置いてあって読んだ本、そしてまだ見ぬ沢山の本が優しい口調で勧められています。

 わたしは割と変な絵本、ナンセンスで子どもと一緒に笑える絵本が好きなのですが、著者も好きだと云うナンセンス(本文中ではノンセンス)絵本も紹介されつつ、七年間の介護生活を経て看取った実母との思い出の影響色濃い「死」を匂わせる絵本についての丁寧な解説が目立ちます。絵本で扱う死は無垢でストレートなのでわたしは苦手なのですが、「くまとやまねこ」とか「ぶたばあちゃん」とか「ぽんぽん山の月」とか、読むのも手元に置くのも、うーん、わたしはどうかなあ。目を背けるなと言われればそれまでなのだけれどやはり苦手。紹介されていない本で自分の苦手に仕分けられるその種の本としては「かわいそうなぞう」とか「うさこちゃんのだいすきなおばあちゃん」とか「ベロ出しチョンマ」とか「おこんじょうるり」とか、あの辺な、あの辺駄目なのわたし。

 文章は絵本や著者の紹介に留まらず、落合さんの身辺雑記を織り込んだとても読みやすいものになっているので、お子さんをお持ちの方もそうでない方も、絵本と云うものにちょっと興味が沸いたらガイダンス的につまみ読んでみて下さい。

 因みにわたし個人が押し付けるお勧め絵本は「さるのせんせいとへびのかんごふさん」「へびのせんせいとさるのかんごふさん」(穂高順也・新井良二 絵)、「りんごかもしれない」(ヨシタケシンスケ)です。どれも紹介されていませんが、おもろいですよ。
| 国内あ行(その他) | 01:19 | comments(0) | trackbacks(0) |
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